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黄金剣のギィロ 〜好きってどういうことだかわかる?  作者: ぷるお


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第16話 胸がいっぱい

 再度柊に行く日。エルネストさんが迎えに来た。

 エルネストさん専用の、荷台のある綺麗な馬車だ。

 少しぶりにエルネストさんを見たけど、エルネストさんだけ世界に浮いてるみたいにくっきりして見えた。


 あんなこと言われた後だから、どう接すればいいかよく分からなかったけど、エルネストさんは普通にしてくれた。

 マーニャさんも遅れて到着して、硬い挨拶をしてる。

 私は自分の荷物を積み込んで、硬い挨拶が終わるのを待っていた。

 そうしたら雪灯院の玄関口からギィロが見てるのを見つけた。


「それじゃあ行きますか?」

「ごめんなさい、ちょっと待ってもらえますか?」

 私が走って近寄っていくと、ギィロは少し隠れるように身を移動した。

 でも逃げてはいなかった。


「ギィロ、遊びに来るから」

「居ないかも知れないぞ」

「それでも来るよ。はいコレ、手続きやっといて?」

 ミューレの札を手渡した。

 解散手続きには必要になる。


「預かる」

「もう……じゃあ行ってくるね」

「うん、行ってこいよ……がんばれ……」

「ありがとう。じゃあね」

 ギィロは不満そうだったけど、一応ちゃんと応援言ってくれたし?せめて私は笑顔でお別れした。


「もう大丈夫ですか?」

 エルネストさんは落ち着いていて、急かすこともなく気遣ってくれる。


「はい。マーニャさん……」

 私は甘えるような声を出し、マーニャさんに抱きついた。


「ありがとうございました」

 抱きついたままマーニャさんにお礼言って、優しくつつみ込まれた。


「無理しないで、身体に気をつけるのですよ。いってらっしゃい」

「はい……いってきます」


 私はエルネストさんのエスコートで馬車に乗り込んだ。

 走り出してから、見えなくなるまで後ろを見てた。

 マーニャさんもこっちを見てくれていた。

 途中子どもたちが走ってきて、マーニャさんの隣で手を振ってきた。

 見えないだろうけど私も笑顔で車内の窓から振り返した。

 ギィロは見えない。

 送り出すのも下手なんだから……バカギィロ。


「良い仲間たちに恵まれたのですね」

 馬車が角度を変え、見えなくなって座り直すと、エルネストさんから優しく声をかけられる。


「はい。つらい時を支えてくれました。エルネストさん、これから、よろしくお願いします」

 と、頭を下げる。


「もちろんです。あなたは勇気を出して新しいステージに立ったんです。引き受ける身として、その責任を果たしますよ」

 頼もしい言葉に体重をかけて感謝を伝え、前を向いて進もうって思った。



 それから新しい生活と新しい仕事が始まった。

 エルネストさんの指導が追加で2ヶ月間行われることになって、私が一人で色んな任務を行えるように、徐々に本格的になっていった。


 朝から晩まで、次の日もその次の日も仕事をした。

 そのすべてが遊びではなくて、ミケウという街の生き物を作り上げる末端。そう思うと責任感が湧いて、ちゃんとしなきゃ、って襟を正す気持ちになった。


 覚えることも多く、忙しくしていると時が経つのが早い。

 何日も経ち身になってくると、私が案内をしてエルネストさんが見守る。そういう陣形が増えていった。

 いくつものチェック項目をクリアして認められてくると、次第に街の外への護衛も任せてもらえるようになった。


「ケモノの捌き方がうまい……」

「得意かもしれません」

 完全に得意分野。

 でもまだ曖昧にして秘密にしている。

 悪目立ちしたくないし、接待した手前エルネストさんに恥をかかせられない。

 いつか、成長したということにしたいと、密かに思っている。

 


 エルネストさんの仕事は護衛官だけではない。

 新規顧客の獲得のために営業を行うこともあるし、顧客が増えればその取引先の立地などがどうなってるのか確認しにいったりもする。

 私の指導として付いてくれているけど、エルネストさんの仕事がなくなったわけではないのだ。

 だから護衛官としては関係ないところにも連れて行かれることがある。

 

 今日は、一見すると裕福そうではない郊外住みの亜人にまで挨拶をしにいった。背が低めのビーバーの亜人だった。

 そういうのは私の仕事ではないので、見ててくれれば良いとされる。

 亜人に偉い人なんて滅多にいないので、関係者の護送でここに寄ることがある。というようなことなんだと思う。


 私は暇そうについていく部下。という感じで後ろに付いて歩いた。 

 相手方にも、同じように黙ってついていく部下みたいな亜人がいたから、私はこっそり声をかけてみた。


「ここは何を作っているんですか?」

「香料の原料になる植物ですよ」

 へぇ、と思い鼻を近づけると、確かに良い香りがした。


「良い匂いですね。それに色んなのがあります」

「ここに居ると毛の隅々までいい香りになりますよ」

 と言って腕を差し出してくるので、遠慮なく嗅がせてもらうと、確かにウッディな香りがした。

 部屋にこういう匂いのするものを置くのも悪くないかも。とか思った。

 感想を言うくらいで特に実のある会話はなく、私はエルネストさんの後ろに戻った。

 亜人さんもそれ以上馴れ馴れしくすることはなく、どちらかというと緊張しているのは向こうのような気がした。


 視察は粛々と進み、私たちは馬車へと戻った。


「関係ないところまで連れ回してすみませんね」

「平気です。どうやって柊が成り立ってるのか知れるのは面白いです」

 人気者の裏の顔。のような特別な場面を見れてる優越感みたいなものもあったし、テキパキとこなしていく姿はカッコよかった。

 エルネストさんが責任者として色々な仕事を任されてる理由みたいなのもわかる気がした。


「父にこき使われてるだけです。はは」

 エルネストさんは会長の髭おじさん、もといゲーマンさんに期待されている。

 驕るわけでも腐るわけでもない。

 冗談は言っても愚痴ではない。

 次期会長になる方だから意識がまるで違うのか、元々そういう方なのか、いつも負担を感じさせない態度をしている。

 みんなから慕われるのは、そういう背中を見せているからなのかもしれない。


 

 仕事終わりや休暇の日は、いつも時間や予定なんかを気にかけてくれながらお誘いをされ、一緒に出かけてくれる。

 私はその時間が好きだった。

 デートしてるみたいだって、勝手に思っていたから。


 疲れている時に気遣われたのも、

 私の好きな食べ物を覚えてくれていたのも、

 水たまりを避けるのに肩に手を添えてくれたのも、思えば全部が嬉しかった。

 人気の商店街で人だかりを通った時には、手を引いてくれた……

 その時の私は何も考えなくて良かった。

 ただその手に引かれてるだけで幸せな気分になった。


 

「何を書いてるんですか?」

「見ますか?恥ずかしいですね」

 落ち着いた時間にしょっちゅう何か書いているので聞いてみると、裏の顔が仕事以外にもあることを見つけた。

 いや、これも仕事と言ってもいいのかもしれないけど、エルネストさんは、メモ怪人だった。

 行った場所や気になった所などの情報が、自分の感想込みで簡潔にまとめられている。


「忘れてしまうんですよ。こうしておくと思い出せる」

見やすいようにこちらに向けてテーブルに置かれた。


「すごいですね……」

 何ページにもわたって情報が書かれている。

 ほんとにすごいと思ってペラペラとめくっていたら知ってる店名があった。


「あ、コレ、連れて行ってくれたお店ですね?」

「あ、見つけられてしまいました」

 エルネストさんは自分のノートを覗き込むようにする。


「こだわりポイントは水竜茸。わざわざ店主が採りに行っている。ステージの営業が金土の夜のみ」

「読み上げないでください恥ずかしい」

 淡々と読み上げると恥ずかしそうにして笑った。


「カッコ悪いでしょう?ホントはこうやってカンニングしてるんですよ」

「全然カッコ悪くないです!」

 私は即座に否定した。

 普段、街の案内人のように振るまっていて頼れる感じだったのだけど、その裏には地道な努力があったのだ。

 超人の土台のような部分が見れて、エルネストさんも人なんだなって思うと、親近感がわくし、やっぱり尊敬する。


「でもやっぱりカンニングですから、没収ですね」

「ダメです、返してください」

 幸せな時間だった。



 2ヶ月はあっという間だった。

 エルネストさんとの二人きりの指導も終わりを迎える。

 次からは他の先輩と一緒に仕事をすることになる。

 今日が最後の日で、特別にと、エルネストさん専用のちょっと良い馬車を使わせてもらって帰ってきた。

 早めに済んだので外はまだ明るい。


 御者の方にお疲れ様をして、どちらともなく車内に残った。


「お疲れさまでした。今日も素晴らしい案内でしたね。その制服も板についてきた」

 体験期間とは異なり、制服は短いパンツと短いスカートにニーハイのスタイルに変えていた。

 貰ったケープコートにはそっちの方が似合っててかわいかったから。


「エルネストさんのおかげです」

「いえ、飲み込みが良いからです。もう安心して任せられます。全部できる」

「全部なんて……心配です。まだ、教えてほしいこと、いっぱいあります」

 私は終わってほしくなくて、無駄なのはわかっているけど、もしかしたらと小さく抵抗した。


「そんな風に言わないでください、考え直したくなってきてしまいます」

 エルネストさんは困った顔をする。


「……」

 考え直してくれればいいのにと思うけど、迷惑をかけたり嫌われるかもというわずかなリスクで、そんなわがままを口にだす事はできなかった。


「だって私はあなたが好きなんですよ?」

「あああの……突然言わないでください、恥ずかしいです……」

 なんの話をしてたのか一瞬忘れた。

 私の小さな抵抗は大きなカウンターパンチになって、胸を締め付けた。

 

 私が延長を希望すれば、そうしてくれるだろうか。

 好意を利用して追い詰めてもいいだろうかと迷う。


「ははは、そっちに行っても?」

「はい……」

 エルネストさんは私の隣に座り、私の後ろの背もたれに腕を置いて、斜めに身を乗り出している。


「私はこれから中央街エリアの開拓で忙しくなります。私は私の仕事に戻らなくてはなりません。これからは先輩に付いて学んでください」

 延長はできないことに釘を差された。

 わがままを口に出さなくてよかった。

 エルネストさんはちゃんと仕事のことも考えてるのに、私は二の次になっている事に気付かされた。

 頭の中にあったわがままを口に出していないのに、見透かされたかと思うと罪悪感が湧いてくる。


「はい、そうですよね、わかってます、仕方ないですね」

 私は自分も分かってるということを強調し、心の中の罪を取り繕った。


「休暇には戻って来ますから、そうしたらまた食事にでも出かけましょう」

「はい、いつも美味しいので楽しみです」

 私は今、なんとか普通の会話を続ける努力をしている。


「プレッシャーですね、あはは、またメモを見ないと」

「カンニングですね?」

 小さな笑いで互いの姿勢が一瞬崩れたあと、背もたれの腕はより深いところまで移動してくる。

 私は自分の表情を定めることができず、視線を合わせ続けることもできない。


「でもここ最近ずっと一緒にいた分、なかなか会えなくなるのは寂しいです」

 小さな声だけど、ほとんど耳元から声がして、心臓の鼓動が強くなってくる。

 自分の周りに世界はあるはずなのに、どの感覚もそれを捉えようとしない。エルネストさんしかいない。


「はい、私もです」

 私の目は、膝の上で組む自分の両手に興味を持ったかのように離れない。


「本当ですか?」

「本当です……」

「こっちを向いてくれませんか?」

「……」

 向くけど、すぐまた目の前は自分の両手だ。

 体が固まって動けない。

 体ってどうやって動かすんだっけ……


「それは、そう思ってくれるのは嬉しいです……リゼアノートさん……」

 エルネストさんの上半身がよりこちらを向いて、背もたれの腕が私の肩を引き寄せる。

 地震かと思うほど心臓が強く鳴る。

 ゆっくり顎を上げられると、もう破裂しそうになって、呼吸を止め、そっと目を閉じた。



「……」



「エルネストぉー!!」


 けたたましい叫びが聞こえてきた。

 何の声と思って目を開けると、エルネストさんは扉の方に首だけ向けていた。


「エルネスト!」

 バンッ!と突然扉が乱暴に開かれ、私たちは離れた。

 車内の温度が下がる。


「……ん、すまないな」

 エルネストさんはそのまま扉の方に向き直り、私は反対の窓の方を向き小さくなった。

 

 つばを飲み、いっぱいまばたきをして、深呼吸。

 身体が世界を受け入れ始める。

 もうちょっとだったのに……


「父さん……!」

 エルネストさんは抗議の声をあげた。


「緊急だエルネスト!教会の方々が到着なさった!」

 ゲーマンさんはエルネストさんの抗議を無視し語気を強める。


「な……明日の予定のはずでは??」

「知らん、早く来た。これだからな教会は、我が物顔をしている。だが避けては通れん、既に準備はできているはずだ、行ってこい。積荷とコーエン伯を教会までお連れしろ」

「はぁ……わかりました」

 柊が中央街に進出するのに教会の人と会う予定があるというのは聞いていたので、それのことなのだろうと思う。

 大変そうだ。


「……お嬢さんは置いていけ」

 ゲーマンさんは私を見てからそう忠告した。


「あの、私邪魔はしませんので、よければ連れて行ってください」

 私は抵抗し、懇願した。

 理由なんて、ただ帰りたくなかっただけだ。


「エルネスト」

「……父さん、彼女なら大丈夫です。行って戻ってくるだけですから」

 エルネストさんも同じ気持ちなのか、仕事として信頼されているのか、理由はわからないけど、とにかく庇ってくれたことにホッとした。


「んん、そうか、ならば気をつけろ、中央街への第一歩だ、失敗などないぞ」

「わかっています」

 後ろを向いていて顔は見えなかったけど、エルネストさんはたぶん仕事モードに入ったような、真面目な顔でそう言ったんだと思う。

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