55. 信託の意味と火妖精
暗い暗い海の底に、エドは沈んでいく。
息ができなくなってからしばらく経つというのに、多少の息苦しさが続くだけで、窒息する気配は全くない。
どこまで落ちていくのだろう……
そう考えているうちに、少し先の方で何かが光っているのが見えた。
ほのかな、赤い光だ。
エドが水をかいてそこに進んでいくと、その光のかたわらに誰かがいるのが分かった。
――アステさん?
そこには、光を放つ鳥かごを抱える、アステの姿があった。
目を閉じていたアステは、近づいてくるエドに気づいて目を開けた。
『はあ、まったく神ってのは酷いものだよ。せっかく会いに来てくれた娘の一人を、腹いせに海の底に沈めて放置するんだから』
神と同じように、水中なのにアステの声が耳に届いた。
『ああごめん、君は悪くないよ。はい、これ』
目の前のエドに、アステは鳥かごを押し付ける。
これは? という顔でエドはアステの方を見た。
『神いわく、これはエド、君の体に繋がっているらしい。これを渡せと言われただけだから、これを何に使えばいいのか、あたしには分からないけどね』
じゃ、あたしの仕事は終わりだから――とアステはエドに手を振る。
エドはアステの方に手を伸ばしたが、もうそこにアステの姿はなかった。
同時に、手に持った鳥かごが突然光を増し、視界が真っ白になる。
目を開けたとき、そこは海の底ではなく、アステの店の前だった。
一体どういうことだろうと、エドは周りを見渡す。
店の中からは、誰かの声が聞こえる。無意識にそこへ向かおうとして、エドは自分の異変に気が付いた。
手には、先ほどアステからもらった鳥かごが握られていた。その中に入っていたのは、どうやら火妖精のようである。
しかし、その鳥かごも、それを握る手も半透明に透けていた。
試しに店の扉を開けようとしたが、手は扉をすり抜けてしまった。
これは……いわゆる魂だけの状態、というやつだろうか。
思い切ってそのまま前に進むと、体も難なく扉をすり抜け、店の中に入ることができた。
店の中では、三人が一つのテーブルを囲んで何かを話している。
やはり、エドに気づいた様子はない。
それよりも、その中の一人――金髪の少女が誰なのか、エドは一瞬で理解して、名前を呼びそうになった。
しかし、先にその隣にいる人物を見て驚き、エドは目を見開いた。
なんでファインがここにいる? それに正装なんて……
ファインがティアーネの新しい婚約者という事実が頭をよぎり、嫌な予感がしたが、三人の真剣な様子を見て、そんな邪推などする余地はないことに気づく。
「――分かりましたよ……最後の信託の意味」
表情を明るくしたティアーネが、紙を掲げてそこに書かれていた文字を読み上げた。
「赤き炎を探せ
真昼の宵闇に現れし黒き
いばらは裏切り者の
記憶を集めし合わせ
新たな真実には答えを示せば
消えたのちに祈りは届くだろう」
三人が顔を見合わせ、これだ、と喜ぶ姿が見えた。
どういうことなのだろうと、エドはティアーネの持つ紙を見に行き、その意味を理解する。
紙に書かれているのは、ところどころに横線が引かれた、これまでの信託たち。
そして横線が引かれているのは、"騎士"、"角"、"花冠"、"鏡"、"扉"、そして"彼"。
最後の信託は、『得られたものから失ったものを差し引き、残されたものがすべてである』だった。
つまりティアーネたちは、神から得た信託から、失ったものたちを差し引いて、最後の手がかりを得たのだ。
「となれば、まず”赤き炎”を探せばいいということですね」
そう言ったものの、三人とも炎には心当たりがない。
一番大きな問題を解決したはいいものの、すぐに詰まってしまって焦る三人を眺めながら、エドはふと手元の鳥かごに目を向けた。
鳥かごの中の火妖精からは、細い糸のようなものが一本伸びていた。
先は、どこか分からない遠くへと続いているようだ。
アステの言葉を思い出す。エドは、鳥かごの扉を開けて火妖精を取り出した。
ティアーネとエドが出会うきっかけになった、火妖精。
『頼む、気づいてくれ……ティア』
そう言って、エドは火妖精から手を離した。
刹那、何かに引き寄せられるような感覚がして、エドの意識は遠ざかっていく。
最後に、顔を上げたティアーネと、目が合ったような気がした。
なんか、この後のプロット500字くらい消えてる気がするんですけれども???
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