54. 得られたものと失ったもの
ティアーネ、ファイン、ナビスの三人は、とりあえず外を散歩してくるふりをして王城から抜け出した。
「――案外、簡単でしたね」
ナビスに抱えてもらっていたティアーネが笑うと、息を切らしたファインが横で呟いた。
「それはお前だけだろ……つーか、よくあの王妃様を騙せたな」
王妃の前で、さもファインと親密になったかのように振る舞っていたティアーネを思い出す。
「エドさんのためなら、これくらい朝飯前ですわ」
にこりと笑ったティアーネは、ナビスに降ろしてもらい、ドレスの裾を払った。
散歩をすると偽って城の外に出た三人は、全力でここまで走って来たのだった。
もともとナビスは足が強いし、ティアーネはそのナビスに抱えてもらっていたので、一番しんどかったのはファインだったが。
「で、こっからそのアステさん?の店に向かうんだろ」
額の汗を拭きながらファインが問う。
「そうですね。ここからそう遠くはないですし、話し合いながら歩いていきましょう」
そうティアーネが言うと、ファインは安堵したように肩を下ろした。
心なしか早歩きになりながらも、三人は真剣にエドを取り戻す方法を考えていた。
「――まずはエドを見つけないとどうにもならないんじゃないか? エドの場所に心当たりは?」
ティアーネは首を振る。
「そんなものがあったら、すぐに探しに行ってます」
「だよなあ……」
ファインは腕を組んで考え込む。
「おそらく、エドさんは神様が隠したのでしょうし、どこかに手がかりがないと……」
「神様がくれたものといえば、信託ぐらいしか……」
ナビスも残念そうな顔で言う。だよなあ、とファインは同意しかけてから、ふとあることに気づく。
「なあ、最後の信託、もう一度言ってくれないか?」
「『得られたものから失ったものを差し引き、残されたものがすべてである』でしたけど……」
ティアーネが答える。
誰もが、その信託がエドの死を決定づけるものだと思っていた。
「それ、もしエドが死んでねえと仮定すれば……別の意味があるってことにならねえか?」
ティアーネとナビスが同時にあ、と呟く。
「でも、これだけじゃ手がかりになりそうにないですね……」
しかし、この信託について考えてみる価値は十分にあるように思えた。
三人はアステの店についてから、紙を広げて話を整理する。
「得られたものから失ったものを差し引く……まずは、”得られたもの”と”失ったもの”を考えないといけませんね」
紙に”得られたもの”、”失ったもの”と書いて、皆で意見を出し合いながら思いつく限り書いていった。
得られたものは――”花冠”、”角”、”信託”、”呪いが解かれたこと”。
失ったものは――”鏡”、”扉”、”花冠”、”角”。
これだけでは、イマイチ関連性が見えてこない。
特に"得られたもの"の定義が曖昧なせいで、何が正解なのかよく分からなかった。
「これは……失ったものから考える方がいいのでしょうか……」
不安になるが、王妃がいつティアーネたちがいないことに気づいて追ってくるかも分からない状況で、時間はない。
「鏡、扉、花冠、角……」
ティアーネは紙に書かれた言葉を声に出して呟いた。
どれも、信託によって失ったものばかりである。
信託……?
ティアーネは一つの可能性に気づき、ナビスの方を見た。
「ナビス、これまでの信託を覚えていますか?」
「は、はい……ええっと――」
ナビスが第一の信託から言葉にしていったのを、ティアーネが紙に書き記す。
1.赤き炎騎士を探せ
2.真昼の宵闇に現れし黒き角
3.いばらは裏切り者の花冠
4.記憶を集めし合わせ鏡
5.新たな真実に扉は答えを示せば
6.彼消えたのちに祈りは届くだろう
最後に、"7.得られたものから失ったものを差し引き、残されたものがすべてである"と書き、ティアーネはもう一度すべての信託を眺めた。
そして、その一部の言葉に横線を引いていく。
「一体何を……」
横から覗き込んできたファインが驚いて息を吸う。
しかしすべてに線を引き終えたはずだが、何かが足りない気がした。
少し考えてから、ティアーネはああ、ともう二つ線を引く。
「分かりましたよ……最後の信託の意味」
残された文字列を見て、ティアーネは目を輝かせた。
後書きなんて考えてる暇はねえんだぜ!!!!
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