52. エドと神様
扉の前で告白した後、意識を失っていたはずのエドは目を覚ます。
――もしかして、もう生き返れたのか?
そんな希望を一瞬抱くが、すぐにそうではないことに気づく。
……そこは、16年前に見た海だった。
しかし今度はあの日とは違い、遠くまではっきりと見える。遥か遠くの水平線から、朝日が昇り始めていた。
砂の上を歩く。
今の自分がどのような状態なのかは分からない。
死んでいるのか、まだ死んでいないのか。
それは、これから会う人物に聞くのが早そうだった。
"神様"は、岩の上に座っている。その下の海水は、不自然に黒く濁っていた。
「ちょうどだったわね、千里ちゃん…………ああ、今はエドちゃんだったかしら」
神様の尾ひれが海面を打つと、黒い濁りは波にさらわれて消えて行った。
「神様……俺は今生きてるんですか?」
そう聞くと、神様はさあどうでしょうね、と首を傾けた。
エドはため息をつく。
「神様…………あなたは一体、何が目的なのですか?」
それを聞いた神様は、ふふっと笑い声をあげた。
「貴方たち、本当に仲がいいのね。あの子もまったく同じ質問をしてきたわ。」
「――ティアーネに会ったのですか?」
その質問に神様は答えなかった。
代わりに、ティアーネに言ったのと全く同じように、愛についてエドに語った。
「貴方たちを見るのは、やっぱり楽しかったわ」
どこからか、ずっとエドたちのことを見ていたであろう神様は、頬杖をついてエドの方を見た。
「ねえどんな気分なのかしら? 好きになると思ってもみなかった子を好きになって、そのために死ぬ気分は」
その言葉は、酷く理解しがたいものに思えた。
「あなたは、人間を玩具か何かだとでも思ってるんですか……?」
思わずそう言ってから、エドはそれが無駄なことだと悟った。
そうよ、と神様は答える。
「神様はね、みんな人間で遊ぶのが楽しくて仕方がないの。私の世界に来た以上、貴方は私のものよ」
そう、恐ろしい笑みを浮かべながら。
「愚問、でしたね」
エドは苦笑いして、神様の方へ一歩踏み出す。
「……先ほどの質問ですが、そもそも俺は死ぬ気なんてありません」
「本当に? もうあの子の呪いは解いてあげたわ。最後の信託もあげたし、もう私がすることなんて何もないのよ」
神様は片眉を上げて肩をすくめた。
「――ではなぜ、俺をここに呼んだのですか」
「感想を聞くためだけよ……なんて言ったら、どうするつもりなの?」
「なんとしてでも、俺は生き返ります――たとえ、あなたと戦うことになっても」
エドは語気を強める。太陽の白い光を海面が反射して、視界は眩しかった。
「あら、神に逆らうつもり? 死ぬどころでは済まないわよ?」
「俺は約束したんです。必ず、生きて帰ると」
「それは……欲張りなこと。悪い子ね」
神様がエドの方に手を差し伸べた。不思議と、そこに吸い寄せられるように体が動く。
驚いているうちに、勝手に手が神様の方へと向かい、その白い手を掴んだ。
神様が、エドをほんの少しだけ引き寄せた。
――刹那、地面が消えた。
正確には、消えたのではない。先ほどまで波打ち際にいたはずのエドたちは、海のど真ん中にいた。
大量の泡に包まれながら、二人は海の中へ落ちていく。
息が吸えない。口からこぼれ出た泡が、上の方へと消えていった。
「それじゃあさようなら、可愛いエドちゃん――――なんて言いたいところだけど、絶望の顔はティアーネちゃんで十分だわ」
水の中ではっきりと聞こえたその声に、かろうじてエドは目を開ける。海の中の神様は、より一層輝きを増しているようだった。
「それに、親に説教してくるような、生意気な娘もいたんですもの。言われなくとも、私は最初から選択肢を用意していましたわ――それに気づけるかは、ティアーネちゃん次第ですけど」
どうしても愚痴りたかったのだろう。それだけ言うと、神様はエドの手を離した。
――絶対気づきますよ、ティアなら。
その言葉は声になることなく、そのままエドは海の底に沈んでいった。
明日は6話くらい投稿されるらしいですよ!
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