46. 説得と出立
集まる日になっても、ティアーネは結局答えを得られないままだった。
「エドさんは、もうどうするか決めたのでしょうか……」
そわそわしながら、ティアーネは店の一階でエドを待っていた。どのような結論になるのかは分からないので、念のためナビスは二階の部屋で待機してもらっている。
ほどなくして、チリンとベルが鳴った。
何も考えられなかったのは申し訳ないが、弱気なところを見せるわけにもいかない。
入って来たエドに、ティアーネはにこりと笑って挨拶をした。
「おはようございます、エドさん」
「おはよう、ティア」
エドも、手を挙げて挨拶を返す。特に体調を崩した様子はないティアーネに、エドは安心しながら席に着いた。
「それで……エドさんは何か思いつきましたか?」
ティアーネが先に質問をする。エドは一呼吸おいて、昨日決意したことを口にした。
「――俺は、やっぱり信託通りにするのが一番だと思う」
ティアーネが目を見開く。エドがそんなことを提案してくる可能性は考えていたが、ティアーネにとっては最悪の提案だ。
「それって……エドさんは死んでしまってもいいということですか!?」
思わずティアーネは立ち上がり、声を荒げる。
「そんなのダメに決まってます、エドさんだって――」
そうまくしたてるティアーネを、エドが制止した。
「驚くのは分かる。でも、まずは俺の考えを聞いてくれないか」
ティアーネの方をまっすぐ見つめる。穏やかな声のエドにティアーネは我に返り、大人しく席に座り直した。
「これは、昨日分かったことなんだが……」
エドは昨日気づいたことをティアーネに話す。昨日ここに来たことと、ファインがティアーネの次の婚約者だということは伏せておいたが。
「――それは、確かにそうかもしれませんが……」
エドが決意に至った経緯もきちんと伝えたが、ティアーネもファインと同じように否定的だった。
「俺には、これ以上の選択肢は思いつかなかったよ」
そうエドが言うと、ティアーネは言葉に詰まる。ティアーネも、一瞬であれそれが最善だと思ってしまったのだ。
「……そ、そういえば、エドさん。話が変わって申し訳ないのですが……アステさんが」
とりあえず話をそらすため、ティアーネは立ち上がってカウンターに置いてあった手紙をエドのところまで持ってきた。
ティアーネはエドに手紙を渡す。
エドは手紙を読むふりをしながら、ティアーネの様子を横目でうかがっていた。
ティアーネは不安そうに口元を触りながら、エドが読み終わるのを待っている。
「……アステ、いなくなってたのか」
一応、エドは驚いたふりをする。そうなんです、とティアーネが答えた。
「だから――アステさんが帰ってくるのを待ってもいんじゃないですか? そしたら、ナビスの契約も解除できるかもしれません。そうすれば――」
「でもこの文面からすると、しばらくアステさんは帰ってこないんじゃないのか」
エドの言葉に、図星だったティアーネは口をつぐむ。
「ティアの意見を真っ向から否定するようで悪いけど……そんな悠長に王妃が待ってくれるとは思えないし、仮にナビスの契約を解除したところで、命が狙われなくなるわけじゃないんだろ?」
少ししてから、ティアーネはこくりとうなずいた。
「――ティア」
名前を呼ぶと、ティアーネが顔を上げる。
エドはその緑と青の瞳をまっすぐに見つめ、言った。
「俺だって、死ぬ気はさらさらない。地獄に落ちたって、どうにかして這い出してみせるよ。――だから、俺を信じてほしいんだ」
ティアーネの瞳がわずかに揺れた。
少しの間、二人に沈黙が流れる。
「本当に、覚悟は決まっているんですね……」
ティアーネはいつの間にか止めていた息を小さく吐いた。
「正直なところ――私は、エドさんなしで先に進める自信がないのです」
「そんなことない。ティアは強いよ。俺は、そんなティアを信じてる」
ついに弱音を吐いてしまったティアーネに、エドはずっと思っていたことをぶつけた。
そんなことを言われてしまったら、ティアーネも覚悟を決めるしかなかった。
「……分かりました」
ティアーネが呟く。エドはほっとして肩を降ろした。
「じゃ、そうと決まれば行こうか。……ああでも、心の準備とか……いるかな?」
立ち上がったエドは、少し思い直してティアーネに問う。
同じく立ち上がったティアーネは首を横に振った。
「いつやったとしても同じですわ。それならせめて、私の決意が鈍ってしまう前に終わらせてください」
「そっか。やっぱり強いよ、ティアは」
そう言ってエドはティアーネに手を差し伸べる。
「……ありがとうございます」
ティアーネは微笑んでエドの手を握る。
そして二人はお互いの手をしっかりと握り合い、運命を決めるその場所へ赴くのだった。
まだあわてるような時間じゃない……
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※タイトル修正済み。作者の狼狽ぶりがここにきて明らかに




