45. 親友と大切な人
「……テトラさんのお姉さんの話はともかくとして、そういう事実があるのなら、やっぱり告白するべきだな」
エドがそう言うと、ファインは首を振った。
「俺は賛成できねえ。まだエドが死ぬ可能性がなくなったわけじゃないんだろ?」
これだけの根拠があるとはいえ、ファインはまだエドが死ぬかもしれないことを心配しているのだった。
「心配しすぎだって。俺を信じてくれよ、ファイン。前に応援してくれるって言ってただろ? あれは嘘だったのか?」
「嘘つきでも裏切り者とでもなんとでも呼べよ。俺は、お前が確実に生き残れる方を選ぶ」
そこまで言われてしまうと、エドも立つ瀬がない。
「かっこいいねえ、ファイン様は。俺、女のままだったら好きになってたかも」
「茶化すなよ。こっちは大事な話をしてるんだ」
苦し紛れにエドが言った冗談を、ファインは一蹴する。
数秒間、エドとファインの睨み合いは続いた。
ついにしびれを切らしたファインがため息をつく。
「もう一度だけ聞くぞ――エド、お前は本当に、自分が死ぬ可能性があるとしても……告白する気なのか?」
「――もちろんだ。もう、そこに話し合いの余地はないと思ってくれ」
「……そうか」
エドがそう断言すると、ファインは残念そうに目をつぶった。
少しした後、ファインは目を開けて、まだそこに座ったままのエドを追い払うように手を振る。
「さっさと行けよ、死にたがり。今だけは、俺には親友なんていなかったことにしてやる」
「本当は、納得してもらいたかったけどな。力不足だったよ」
エドは寂しそうに笑って立ち上がる。
「――じゃ、もし万が一のことがあったら、俺の代わりにティアのことよろしく、ファイン」
「滅多なこと言うんじゃねえ。俺はお前の代わりになんざなんねえよ」
目をそらしたまま、ファインは悪態をついた。
「親友の一生のお願いも断るのか?……って、今は親友じゃなかったけ、裏切り者くん」
「……そうだな」
ファインが呟く。その声は、やはり悔しさを滲ませていた。
エドが扉まで近づくと、テトラが扉を開けてくれた。
エドが部屋から出る直前、ファインがふいに口を開いた。
「……絶対に帰って来いよ、エド。じゃなきゃ俺は、カイン兄とお前を殺した王女様を恨まなくちゃいけなくなる」
その言葉は、確かにエドの胸に刻み込まれた。
エドは、分かったと答える代わりに手を振って、さよならも言わずファインの部屋を出て行った。
話は少し前にさかのぼる。祭りでエドと別れたティアーネは、人々の合間を縫って、まっすぐにアステの店へと向かっていた。
道中、こちらもこちらで、どうにか呪いを避けて通る道を考えていた。
何度も、教会で見た、過去の呪い持ちの映像が頭に浮かぶ。
――あんな思いは、絶対にしたくない。
しかしティアーネも、エドと同じような解決策を考えては、その不確実さに悩んでいた。
特に――二人で逃げたとして、ナビスをどうしようかという問題が残る。
契約がある以上、呪いを解くことを諦めるのであれば、ナビスを近くに置いておくことはできない。
それに、契約の効力がどう反映されるか分からない以上、ナビスに大きな負担をかけることになってしまいかねない。最悪の場合、王妃からなんらかの罰が課される可能性だってあるのだ。
そんなことは、あってはならなかった。
ティアーネにとって、ナビスはエドと同じように大切にすべき人の一人だ。
「どうにかして、ナビスの契約を解除できたらいいのですが……」
しかし、ティアーネが奴隷契約について知っていることはほとんどない。
最も詳しいであろうアステに話を聞けばいいだろうと店に戻っても、既にアステは手紙を残して去ってしまっていた。
最後まで手紙を読み終え、カウンターの上に置いたティアーネは絶望していた。
エドが自分の呪いで殺してしまうのは絶対に避けなければならない。けれど、ナビスに自分を殺させることもできない。
ランプの明かりが消えたことにも気づかないまま、ティアーネは一人悶々と考えを巡らせていた。
……しかし、何を考えても最悪の結果しか想像できない。
「答えは知ってる、だなんて……私には見つけられません……」
このまま訪れてしまうであろう未来に、そして自分の不甲斐なさを思うと、思わず涙が出た。
焦りはつのるばかりで、冷静になろうと涙を必死に拭いている間にも、夜は更けていくのだった。
全くやる気が出ず3時間ほど漫画読んでたのは秘密です
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