44. 神様と試練
「頼むよ、エド。お前は無理だと言ってたが、もう二人で逃げるか何かしてくれ……」
ファインが懇願する。
だがエドは既にファインの話を聞いておらず、一人ファインとティアーネが結婚してる図を想像してしまっていた。
「死にたくねえ……」
思わず、そんな本音が出た。
本当にエドがそんなことを言うなんて思ってもいなかったのか、ファインは眼を見開く。
「そ、そうだよな! なら――」
「ちょっと待ってくれ」
エドはファインを制止して考え込み始めた。
何かがおかしい。何故か今更になって冷静になり、エドはどこか引っ掛かりがあるのを感じた。
エドがティアーネに告白することになった決め手は、まさに神様の言葉だった。
神様はティアーネとエドを転生させ、その上でわざわざティアーネに呪いをかけてそれを解かせて、一体何がしたいのだろう?
信託通りに事が運べば、このままエドはティアーネに告白し、呪いにかかって死ぬ。
無事に呪いは解けたとして、ティアーネが結婚するのはエドの親友だったファインだ。
仮にすべてが神様の仕組んだことだとすれば、そんなものを見るために神様はこんな面倒くさいことをしたのか?
これが小説か何かだとしたら、駄作もいいところである。
神の心情を推し量るなど無理な話だろうとは思うが、エドにはどうしてもそれが神様の狙いだとは思えなかった。
希望的観測ではあるが、もしかしたら信託通りにした上で全てが上手くいく――なんて道もありえるんじゃないか?
あくまでこの信託は試練であると、そう捉えることもできるかもしれない。
結局のところ、エドが一度出した結論と全く一緒だが、見据える先は違う。
成功するかは神様の性格次第というのがネックだが……
とりあえず、エドは目の前の親友に相談してみることにした。
もちろん、根拠のすべてを示すには、これまで隠していた前世のことを話す必要もある。
「なあファイン、ちょっと長い話になるんだが――聞いてくれるか?」
ファインは片眉を上げた後、おう、とだけ言った。
すべてを話し終わった後、ファインは驚くでもなく、なるほどね、と顎に手を当てただけだった。
「そう言われると、色々と納得いくな」
ずっとエドのことを近くで見てきたファインには、エドが普通の人間ではないと薄々勘づかれていたらしい。
「それにしても前世が女だったとはねえ……全くそうは思えねーけど」
「別に、そんな風に振る舞うつもりはなかっし、そう扱ってほしいわけでもないよ」
「元女って聞くとむずがゆい気もするが……しゃーないか」
「じゃあ忘れていいよ。俺が相談したかったのはそこじゃないし」
突然こんな話をされて困惑させてしまったのは十分に分かっているが、それよりも大事なことがあるのだ。
「分かった分かった。神様のこと、だろ? それなら適任のやつがいる」
誰のことだろうとエドが首を傾げていると、ファインは大声でその人の名前を呼んだ。
「テトラー! 話あるからこっちに来いー!」
ほどなくして、「失礼します」と執事らしき人物が部屋に入って来た。
白と明るい茶色の交じった毛並みの、猫の獣人。
「ご友人がいるところで申し訳ございませんが――ファイン様、そんなに大声で呼ばなくとも聞こえると、何度も言っているでしょう」
そう言って、テトラと呼ばれた執事は丸メガネをくいっと上げた。
エドは、すぐに既視感の正体に気づく。
喋り方や雰囲気はともかく、顔立ちや佇まいはアステと酷似している。
「はいはい。とりあえず紹介すると――こいつは家の執事のテトラ。確か小さい頃、でっかい教会で信託を聞いてたんだっけ?」
「正確に言えば姉が、ですが……そうですね。それがどうか致しましたでしょうか?」
なら、テトラはアステの弟ということで間違いはないだろう。以前、アステは「神の声は聞けない」なんて言っていたような気もするが――今は気にするべきではないだろう。
エドたちはテトラに今の状況を話し、それについてどう思うかと聞くと、テトラは尻尾を揺らしながら答えた。
「その可能性は、なくはないと思います。神は昔から人々に試練を与えては、それを乗り越えた者に祝福を与えてきましたから」
エドとファインは顔を見合わせる。これで、エドの推測は確信へと近づいた。
「……まあ、姉曰く『神はとにかく性格がクソ』とのことだったので、一概に信用はできませんがね」
そう言われると、少しばかり不安になるが。
"呪いにかかっても、エドが生き残る可能性がある"――それは、まだ大きな賭けではある。
しかし、それくらいでなければ試練とは言えないだろう。
エドは、心の中で決意を新たにした。
急に冷静になったのは作者だし、頭お花畑なのも作者です。
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