42. 覚悟と話し合い
ティアーネの方は、昨日よほど遅くまで起きていたのか、疲れすぎていたのかは分からないが、全く起きる気配がない。
エドは足音を立てないように気を付けながら、ティアーネの近くまで歩いていった。
隣に立って、すやすやと寝息を立てるティアーネを眺める。
突然ティアーネが身じろぎして、起こしてしまったのかと心配するが、腕の中に埋めていた顔を横に倒しただけで、また動かなくなった。
前髪がはらりと落ちて、その白い顔があらわになる。
閉じられた瞼は、よく見ればわずかに赤く腫れていた。昨日ここで、ティアーネは一人泣いていたのだろう。
――そう思うと、心臓がぎゅっと掴まれたような気がした。
理由は考えるまでもない。
これまでずっと考えないようにしてきたが、やはりエドは――どうしようもなくティアーネのことを愛しているのだ。
この可憐で美しい人を、命に代えてでも守りたい。それが今のエドの、唯一の願いだった。
『答えはもう、みんなが知っているはずだよ』とアステは手紙にそう書き残していた。
もとはと言えば、千里がこの世界に転生したのは、marria――ティアーネに会って、自分がついていた嘘を謝るため、そしていなくなった理由を聞くためだった。
それが果たされた今、自分がするべきことは一体何だ?
『告白は早めにしておいたほうがいいですよ』――という、パラノの言葉を思い出した。
あの時こそ、自分たちがそんな雰囲気に見えただけだとばかり思っていたが、今にして思えば、ここまで見越した上でのアドバイスだったような気さえしてくる。
『そこに真実の愛があるのなら、何も恐れることはないわ』
刹那、思い出したのはあの夢――神の言葉だ。
ずっと、気にも留めていなかった言葉。
今になって、ようやくその意味が理解できた。
……最初から、神様によってすべて仕組まれていたことなのだ。
エドは、そんな単純なことに今まで気づけなかった自分に苦笑する。
二階に上がり、いつものドアを叩く。
「エドさん……? なんでここに」
起きたばかりであろうナビスがドアを開けた。
エドはナビスに軽く状況を説明し、寝ているティアーネの世話を頼んでおく。
「なんでわざわざ僕に?」
「俺がティアーネを起こすわけにはいかないんだよ。ちょっと昨日――色々あって、さ」
ナビスが訝しげにエドを見る。
「俺がここに来てたことも内緒にしておいてくれ。できるか?」
そうエドが言うと、ナビスはまだよく分からない、という顔をしながらもうなずいた。
「ありがと。じゃ、また明日」
そう言って、エドはアステの店を出た。……幸い、帰るときもまだティアーネは眠ったままだった。
覚悟は決まった。後は――
「まずは、ファインからだな」
エドは唯一の親友を説得するために、彼の家へ向かった。
――その頃。
「――あら、今更何の用かしら? 裏切り者のアステちゃん?」
アステが手紙に書いていた、『話をつけなきゃいけないやつ』は、アステを見てにっこりと微笑んだ。
アステもメガネに指を添えて微笑む。
「……裏切った、だなんて酷いじゃないか。あたしはただ、自分の役割の虚しさに気づいただけさ」
「あらそうなの? 小さいときはあんなに熱心に私の話を聞いてくれていたのに、残念だわ」
「誰だって親離れするときは一瞬だよ。あんただってたくさん見てきたはずだろ?」
「そうね。まあ、私が経験するのは貴方が初めてだけれど」
「本当かい? それだけ長く生きてるんだ。あたし以外にもいたはずだけどね。……ああ、もしかして、忘れてしまったのかな?」
はあ、とため息が聞こえる。
「いい加減要件を言ってもらえないかしら? 私だって忙しいの。私をこうやって待たせられるのは貴方くらいなものよ?」
それは光栄なことで、とアステは一礼する。
「あたしが聞きたいのは、単純にエドとティアーネの今後のことさ」
ふうん、と面白そうに笑うそいつを、アステはまっすぐに見つめる。
「こういうのは、黒幕に聞くのが一番早いと思ってさ――――だろ、神様?」
アレ、予定だとあと5話くらい進んでるはずだったんだけどな……
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