40. 信託の真実と逆光
スイに連れられて行った先には、扉を模した古めかしいオブジェが建っていた。
ところどころ苔が生えていたり、ツタがはっていたりするが、よく見れば美しい装飾が施されている。
「すごいでしょう、これ」
「そうですね……街にこんなものがあるなんて知りませんでした」
「私もです。本当に――」
エドとティアーネが感嘆の声を上げる。オブジェの装飾にではなく、これが信託にあった”扉”かもしれない、という期待感にだ。
「それで、その"お願い"というのは何ですか?」
早く話の先を聞きたいエドが聞く。
そうでしたね、とスイは得意げに語りだした。
「私も存在は知れど、これが何なのかは全くわかりませんでした。……しかしですね、最近になって調べてみたら、この扉にまつわるすごい話があったんですよ。――お二人とも、建国神話についてはご存知ですか?」
「ええ、確か今の王家の祖先にあたる、初代の王と王妃が二人で建国したと――」
ティアーネが答える。大正解です!とテンションの上がっているスイが拍手した。
「――実はこの扉、その当時からあったものらしく……なんとここ、その初代王が王妃と愛を誓いあい、神からの祝福を授かった場所なのです!!」
何故今までこの事実が知られていなかったのでしょう!とスイは更に続ける。
「きっとこれは新たな恋人たちの聖地として人気になりますよ! ――ということで、お二人にはその宣伝のためにちょっとそこで……あれ、私……何かまずいこと言っちゃってますか……?」
ようやく、エドとティアーネの顔面が蒼白になっていることに気づいたスイが、遠慮がちに尋ねた。
しかしなおも黙り続ける二人に、何も知らないスイは困惑の色を浮かべる。
先にティア-ネが我に返り、慌ててスイに頭を下げた。
「――あの、ごめんなさい。少し、こちらにも事情があって……」
呆然とする彼女を置いて、ティア-ネはエドの手を引っ張って逃げ出した。
「――もうやめにしましょう、エドさん」
人気のない路地まで来たところで、突然立ち止まったティアーネはエドにそう告げた。
「でも――」
「やめにしましょうって言ってるんです!」
泣きそうな声で、ティアーネはそう叫んだ。
「私のせいでエドさんが死んでしまうなんて……そんなの耐えられません……」
「ちょっと落ち着けティア! まだそうだと決まったわけじゃないだろ! それにそんなことしたら今度はティアが……」
エドはティアーネの肩を掴む。ティアーネの震えが、手を通して伝わってきた。
「じゃあなんだって言うんですか……教えてくださいよ……」
スイの話を聞いて、二人が同時に考えたこと――信託にあった”新たな真実”とは”エドがティアーネのことを恋愛的に好きになったこと”であり、その真実をティアーネに伝えれば”扉は答えを”示すということだ。
――そしてそれは、エドがティアーネの呪いにかかって死ぬことを意味する。
それ以外に何があるのかと聞かれ、エドは答えられずに押し黙ってしまった。
遠くから聞こえる、祭りの喧騒だけが二人を包む。
はあ、とティアーネが久しぶりにため息をついた。
「……たしかに、少し焦りすぎていたかもしれませんわ」
その眼には、平静さを装うための冷たさを宿して。
ティアーネはエドの手をそっと押しのけた。
エドも肩を降ろし、大人しく手をどける。
「じゃあ――」
「今話し合っても、きっと無駄でしょう。私たちに必要なのは、きっと一人で考える時間です」
「……そう、か」
エドがそう言ったのを聞き届けたティアーネは、背筋を伸ばして大通りに向けて歩き始めた。
「もともと集まるはずだった明後日の日に、また会いましょう」
最後に、エドの方を振り返る。
「――今日は、本当に楽しかったです。私のわがままに付き合ってくださり、ありがとうございました」
逆光の中でなお眩しく見えるその微笑みに、どれほど複雑な思いが宿しているのだろう。
ティアーネが祭りで賑わう人々の間に消えていくのを、ずっと眺めていたエドは、下におろしたままの手を固く握りしめた。
三連休ブーストで完結の目途が立つといいのですけど。
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