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32. 鏡の先と過去

 ひやりと、冷たい空気がただよう。

 割られた鏡の奥には、左右どちらにも出口のない部屋があった。

 それぞれに、数人の人間が横たわっている。


「……よかっ、た」


 右の部屋の奥の方でたった一人だけ、起き上がっていた少年がドサリと崩れ落ちる。おそらく、この少年がパラノの名を呼んでいたのだろう。

 パラノがエドたちの後ろから走ってきて、少年を抱き起こす。


「ヒュース、全く君は……」


 ヒュースと呼ばれた少年はうっすらと目を開ける。


「だってよ、お前も見たろ、あれ……」

「前に一回見たことあるでしょう。精霊ってことぐらい気づきなさい、バカ」

「うるせーな、くそ……」


 それだけ言って、少年はまた目を閉じてしまった。


「……大丈夫そうですか?」


 エドが尋ねると、パラノは怒り半分、安堵が半分といった表情でため息をついて立ち上がる。


「すみません、見苦しいところをお見せしました。おそらく、空気の薄く寒い場所に長くいたことによる衰弱でしょうか。他の人も眠っているだけのようです」

「そのようですね。こちらは皆生きてます」


 左の部屋ですぐに生存確認を行っていたティアーネが答える。


「行方不明者は、これで全員ですか?」


 エドが問いかけると、パラノは周りを見回した後、おそらくは、とうなずいた。


「数名、報告になかった人もいますが、姿映しの精霊の性質からして、全員ここに転移させられていたと考えるのが自然でしょう」


 外の人たちを呼んできてもらえますか?というパラノのお願いに、ティアーネが分かりました、と足早に入口へと向かった。



 すぐに教団員や村の人が駆り出され、割れた鏡の撤去と閉じ込められていた人々の運び出しが行われた。

 教会の外に出た瞬間に出迎えてくれたナビスの報告では、既に信託は達成できているそうだ。


 行方不明となったいた人の再会に喜ぶ者、涙する者、鏡の喪失を残念がる者、発見された部屋に驚く者と、様々な人が教会付近にごった返している。


「まさか本当に解決までできるとは……お二人ともありがとうございました」


 鏡の処理をしていたパラノが、エドとティアーネに気づいて頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそありがとうございました」


 エドがお礼を返す。ティアーネも次いで頭を下げた。

 と、ティアーネが何かに気づいたのか、パラノの足元を指さして口を開いた。


「……あの、その破片に何か――」


 エドとパラノがティアーネの指さした方を見ると、そこに落ちていた大き目の破片に、周囲の様子ではない何かが映りこんでいるのが見えた。


「これは……もしや建て替え前の教会、ですか……?」


 パラノがそう言いながら破片を拾いあげる。エドとティアーネがその後ろから覗き込んだ。

 鏡の中に映っていたのは、今のようにステンドグラスがちりばめられているわけでもなく、簡素な作りの内装だが、確かにところどころ作りが同じだった。


「これは、一体誰の……」


 誰の記憶なのだろう、というエドが呟きかけた疑問への答えは、すぐに示された。

 その映像に、三人は目を見開く。

 入口の方から歩いてきたのは、一人の男――パラノが着ているのと全く同じようなローブの、()()の男だった。

 しかし、驚いたのはそのことだけではない。その男が抱えていたのは――女性の亡骸だったのだ。

 黒く干からびたように変色してしまった肌。横でティアーネが、ヒュ、と小さく息を飲む音が聞こえた。

 男は悲しそうな眼をしながら教会の奥へと進み、扉の先にあった部屋の、右端に置かれた棺桶に女性の遺体をそっと入れた。

 反対側の端には、同じように棺桶がある。

 男は紙とペンを取り出すと、それでさらさらと何かを書き始めた。

 それが古代文字ということはわかったが、エドとティアーネには読むことができない。


「――――我々は、自らの愚かさゆえに破滅の道を選んでしまった」


 と、パラノが声を出して、それを訳してくれた。


「我々はお互いを信用することができなかった。いかなる秘密も、過去も、明らかにする必要があった。愛を疑った我々を、神は許しはしなかったのだ。私は、自らの呪いを解くことなく、最愛の者を手にかけてしまった。――――なればこそ私は、もう二度と同じ過ちを繰り返す者が現れぬことを望む。私が作り出す鏡は、見るものすべての記憶を集め、過去を映しだすだろう。私の力が及ぶ限り、呪いによってこのような悲劇など起こさせないと誓う」


 そこまで書いた男は丁寧に紙を折り畳み、部屋の中心に置いた。

 次に男が取り出したのは、数匹の光妖精だった。

 部屋の中に妖精を放つと、男は自分の持ちうるすべての魔力をもって術を編む。

 魔力は光妖精を包み込み、まばゆい光を放ったかと思うと、部屋を両断するように、二枚の鏡が出現した。

 男からは、もう女性の入った棺桶は見えない。

 力をすべて使い果たした男は、一歩、また一歩と、自分の棺桶へと進んでいくのだった。

今日見たらブクマ増えてたので、有言実行を頑張りたいと思います。

評価・ブクマ登録していただけると作者がとっちらかった部屋を片付けるかもしれません。

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