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33. 魔法とパラノ

 最後の役目を終えた鏡は、パラノの手の中で崩れ去った。


「鏡を作ったのも呪い持ちだったのか……」


 見れば、これまで片付けていた鏡の欠片も、きれいさっぱり消えている。


「それにしても凄かったですね。あれがすべて魔法で生成されたものだなんて」


 ティアーネが感心したように呟いた。ゼロから物質を生成するなど、あれは古代だからこそできた芸当だろう。


「つまりあの精霊は光妖精が膨大な魔力を得たことでできたもので……顕現(けんげん)してしまったのは、残りの魔力が少なくなったせいで、精霊が暴走して記憶どころか人を集めるようになってしまったのか……?」


 パラノが状況を分析しながら仮説を立てていく。しかし本当のところは、それこそ古代の魔術師でないと分からないだろう。


「そういえば、パラノさん。あの時使っていた黒魔法は……?」


 ティアーネが尋ねる。確かに、普通であれば干渉できないはずの精霊を、あの時はいとも簡単に押しのけていた。

 パラノは少し困った顔で、あれはですね、と口を開く。

 瞬きをしたその眼の白目の部分が、一瞬だけ黒く染まった。


「もしかして、魔族の血を――」


 ティアーネが驚いて声を上げると、パラノはしぃ、と唇に指をあてがう。


「内緒にしてくれるとありがたいです。こんなことがバレたら、即刻処刑ものなので」

 

「――おーい、パラノー!」


 ふいに、入口の方からパラノを呼ぶ声が聞こえる。

 パラノが振り向くと、そこには先ほどもパラノを呼んでいた少年――ヒュースが手を振っていた。

 先ほどは暗闇の中でよく見えなかったが、その髪は、きれいな薄紫色をしていた。


「全くあいつ……体だけは丈夫なんですから」


 相当仲の良い友なのだろう、パラノは呆れたように……しかしその中に安堵を含ませた笑みを浮かべた。


「客人方を送ってから行くので、ちょっと待っててくださいー!」


 パラノは同じように声を張り上げてヒュースに返す。


「鏡も消えたことですし、もう片付けるものはありませんから。村までまた送って行きますよ」


 外で待っていたアステとナビスに合流する。ナビスはエドとティアーネの険悪だった雰囲気が嘘のように消えているのを不思議がっていたが、とりあえずは姫様の機嫌が直ったのを喜んでいるようだった。



「――ところで、本当に良かったのですか? 鏡を壊してしまって」


 村まで送ってもらう途中、エドが気になって問いかけると、パラノはまあそうですねえ、と首筋に手を当てる。


「それなりの御咎めはあるでしょうが、大したことはありませんよ。そもそも今回壊していなければ、あのまま犠牲者が増え続けただけでしょうから」


 そんなことを言っている間に、今日泊まる予定の宿屋が見えてきた。

 さて、とパラノがエドたちの方を向く。


「――そういえば、ずっと思ってたんですけど」


 ティアーネに向かってにこりと笑う。


「ティアさんって、とてもお美しい方ですよね」

「え?」

「は、」

「……はい?」


 エド、ナビスが驚きの声を上げたあと、少し遅れて最も困惑しているであろうティアーネが首を傾げた。

 しかしすぐに状況を理解すると、ティアーネの顔から血の気が引いていく。

 ……エドに冷たい態度をとらなくていいことを知って安心していたせいで、こちらを意識するのを忘れていた。

 幸いまだ呪いは発動していないようだったが、ティアーネはなんと答えていいか分からず目を泳がせていると、エドが二人の間に割って入った。


「ちょっとパラノさん、突然どうしたのですか!?」

「別に、率直な感想を言ったまでですよ。エドさんはそうは思いませんか?」

「思うかどうかって……それは……じゃなくて、えっと……」


 最初の礼儀正しい青年はどこに行ったのか、飄々とした態度のパラノに、エドは混乱して言葉を選べずにいた。

 そんなエドの様子を見て、パラノはふふ、と笑うと両手を上げて言った。


「冗談みたいなものですよ。美しいと感じただけで、特別どう思っているなんてことはないです」


 そもそも僕恋人いますし、と言うパラノの言葉に、エドとティアーネは肩透かしを食らった気分だった。


「ここでお別れなんですから、ちょっとした思い出みたいに思っておいてください」


 この笑顔が、今では少しだけ恐ろしい。

 パラノは胸のペンダントを握りしめると、目を閉じて言った。


「皆様に神の祝福があらんことを。あなた方ならきっと、いかなる試練さえも乗り越えられるでしょう」


 これでお別れです、とパラノは少しだけ寂しそうに手を振った。


「本当にありがとうございました」

「……ありがとう、ございました」


 二人は頭を下げながら、心の中で”最後はアレでしたけど”、と付け加える。



 これで、ずいぶんと長く感じた第四の信託についてはすべて終わった。

 お互いの過去をすべて知って、安堵に包まれた彼らに――これから起こることなど、予想できるはずもなかったが。


 本当に最後――パラノは去り際に、エドの耳元でこんなことをささやいた。


「ちなみにですね、エドさん。告白は早めにしておいたほうがいいですよ」――――と。

次からはありえんスピードで物語が進んでいく予定(予定)なのでぜひ気合入れてついてきてください。

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