31. 精霊と鏡
「ちなみに、触れられていたらどうなっていたんですか……?」
合わせ鏡の間で立ち止まる精霊を見ながらエドが尋ねる。
「どこか別の場所に転移させられるだけです。もっとも、それがどこか分からないのが問題なのですが」
行方不明者は、この精霊によってどこかへ転移させられたというわけか。
「どうにか追い払うことはできないのですか?」
ティアーネが尋ねる。パラノは首を振った。
「あれが手で触れたものをすべて転移させてしまうせいで、基本的に攻撃は効きません。昔この場所で一度遭遇したことがあるのですが、あの時は状況が特殊だったもので……」
パラノがあの精霊に詳しいのは、どうやら一度会ったことがあるかららしい。
ティアーネが試しに一度氷の刃を生成して飛ばすが、確かに精霊の手に触れた時点で綺麗に消え去った。
「どうにか、あの精霊が発生した原因を突き止められればいいのですが……」
その呟きを聞いて、エドはもう一度精霊を見る。
ティアーネの姿をしたそれは、本当に本人と見分けのつかないくらいにそっくりだ。ただ、今のティアーネと違って、少し前のエドに冷たかった頃の表情をしている。まるで、エドの記憶の中からそのまま取り出されたような……
「もしかしてあの精霊……合わせ鏡と関係があったりするんじゃないですか?」
エドの問いに、パラノが目を丸くする。
「確かに、行方不明になっているのはこの合わせ鏡を見に来ていた人ばかり……その可能性は大きいかもしれません」
パラノは顎に手を当てる。
「合わせ鏡に込められた魔力が原因なのだとすれば……もう……」
パラノの言わんとすることはエドにも理解できた。だが、それを簡単に決断するのは難しいだろう。
「エドさん……何故こちらに来てくれないのですか?」
姿映しの精霊は、ティアーネの声でエドに呼びかける。
パラノにも何か聞こえたのか、エドと同じように顔を上げて精霊を見ていた。
そんな膠着状態が続く中、にわかに外が騒がしくなる。
ダンダン、と教会の扉を叩く音がした。
勢いよく扉を開けたのは、まさかのアステだった。
見張りの教団員の制止も聞かず、アステは精霊には見向きもせず入口から奥の方へまっすぐ指を差す。
「そっち……声、聞こえるよ!」
皆がアステの指さした方を見るが、そこには壁があるのみだ。
わけがわからず困惑していると、アステがさらに声を上げる。
「その壁の奥だよ! パラノの名前を呼んでる! 多分もう時間がない!」
そこまで言ったところで、アステは外へ連れ出されてしまった。
耳を澄ましても声は聞こえない。それでも、その言葉を聞いてパラノがすぐに口を開いた。
「……鏡を壊しましょう、エドさん、ティアーネさん」
「……いいんですか?」
エドの問いかけに、パラノは力強くうなずいた。
「僕が精霊を奥まで退けます。お二人は両側の鏡を壊してください」
「「――分かりました」」
触れられない精霊をパラノがどうやって退けるつもりなのかは分からないが、とりあえずは彼を信じて二人は同時にうなずく。
「じゃあ行きますよ」
パラノが前に出て、静かに手をかざす。
息を吸い込んで、吐き出す。黒いもやのようなものがパラノの手を包んだ。
「……ごめん」
パラノの見る、精霊が映した誰かに向かって発せられたであろう言葉。
黒い靄は精霊を包み込み、後ろに押し込んでいく。
精霊本来の、苦しそうな声が聞こえた。
「あれは……黒魔法?」
ティアーネがつぶやく。しかしそれについて深く考える余裕もなく、エドとティアーネは走り出した。
特に示し合わせることもなく、エドは剣を構えて右へ、ティアーネは魔法の準備をしながら左の方へ走る。
精霊までは、十分に距離がある。
「「はああああぁぁぁ!」」
エドは剣を、ティアーネは氷の刃を鏡に突き立てる。
ガシャアアン、と盛大な音を立てて次々に鏡が割れていく。
割れた鏡が光をあちらこちらに反射しながら床へばらまかれた。
しばらくして音が消え、教会の中にもう一度静寂が訪れる。
その光景を見て、三人は目を見開いた。
「――――これは」
いつの間にか日をまたいでおりました。
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