29. 告白と呪い
ティアーネが十七歳になった夏、王妃が突然婚約者を見繕ってきたと言って一人の男を連れてきた。
藍色の髪の、気のよさそうな青年だった。
この髪の色、ファインとそっくりだなとふと思うが、それよりもこの鏡に映る映像の方が大事だ。
どうしてティアーネの呪いが発動してしまったのか。その答えが、この記憶に残されているはずだから。
婚約者の青年は何度かティアーネのもとに足を運び、二人でお茶を飲みながら言葉を交わした。
気さくな青年に対し、ティアーネの態度は少しぎこちなく感じた。婚約者というものにまだ困惑していたし、なにより前世のことがどうしても頭によぎってしまうのだろう。
あなたと一緒に過ごす時間は楽しい、と言われても無邪気に喜ぶことはできなかった。
彼と別れの挨拶をする度に、ティアーネは後悔するようにため息をついていた。彼がティアーネに好意を向けてくれるのは嬉しいが、Phiisがこちらに転生していることを知っている今の状態では、素直に相手のことを好きになることは難しいようだった。
そしてついに、運命の時はやってくる。
王城の庭を二人で散歩していた夜のこと。婚約者の彼はティアーネの手を握って告げる。
『僕はあなたのことが好きだ』――と。
『まだティアは、僕と同じような気持ちではないみたいだ……けれ、ど』
そこまで言ってから、婚約者はティアーネの異変に気づく。
先ほどまでの透き通るような金色の髪が、月明りのみの薄暗がりでも分かるほど完全に黒い色に変わっていた。
同時にティアーネも気づく。彼の首筋に現れた、黒い痣。
突然彼が倒れ、慌ててティアーネがそれを受け止める。
『その髪は、呪い……の』
そう言い残して、彼は意識を失った。ティアーネは、彼を支えたまま呆然と立ち尽くす。
ほどなくしてナビスが駆け寄ってくる。
ナビスとティアーネの二人で婚約者を中まで運び、王妃に相談した。
ナビスが神から聞いたという話では、先ほど彼が言いかけていた”呪い”によって、もうすぐ彼は死んでしまうらしい。
王妃は国の名医を集めて彼の治療に当たらせたが、努力の甲斐なく婚約者は三日後に息を引き取った。
自室に居なさいと言われていたティアーネは、ナビスからの報告でそのことを知る。
自分のせいで死んでしまった彼のために、彼女はどれだけ自分を責めたことだろう。呪いにかかっているなんて、それまで知る由もなかったのだから、ティアーネは何も悪くないというのに。
一人自室に籠る中で、ティアーネは呪いについてずっと考えていた。
最終的に呪いの発動条件はおそらく「相手が自分を好きになること」か「相手が自分に告白すること」だろうという結論に至る。
そして二度と呪いが発動しないよう考えた結果、他人に嫌われるような行動をとり始めるようになったのだろう。
その中でナビスにも酷いことを言ったが、ナビスに『大好きだ』と言われても呪いが発動しなかったのを確認して謝ったのだった。
その後、ティアーネの身が危険にさらされるような事件が数度あった後、王妃に『王があなたの命を狙っている』と告げられる。
王妃に促されるまま、ティアーネは城から逃げ出した。
そして、王を説得するには呪いを解くしかないとも言われ、ナビスと共にティアーネは一つ目の信託のため、騎士を探し始めた……というわけだ。
エドがティアーネの名前を知って驚いたように、ティアーネもまた驚愕していた。
しかし嬉しかったのもつかの間、すぐに自分の呪いのことを思い出してどうしたものかと悩む。
呪いの発動条件がまだはっきりしない中、むやみに仮説を述べるのは悪手だろうと考えたティアーネは、悩んだ末、やはりエドに対してできる限り冷たく接することに決めたようだった。
こうして、すべて種明かしが終わってしまうと、如何にティアーネが必死に嘘をついていたかが分かる。
鏡に映る、エドの知らなかったティアーネの姿。
手を伸ばして、そっとその表面に触れる。
他人に嫌われるのをあれほど恐れていたティアーネが、エドに嫌われるためについてきた嘘。
すべてが彼女の”自分のせいで誰も死なせたくない”という優しさだった。
「――ありがとう、ティア」
背中ごしのティアーネに聞こえないよう祈りながら、エドは小さく呟いた。
ようやく今日からやる気が出始めております。
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