27. 理亜とmarria
それがmarriaだということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
エドの見ていた少女の名前は『新沼理亜』。今世に負けず劣らずの美少女だ。
少し裕福な家庭に生まれた彼女は、特に何かに不自由することなく健やかに成長していった。
優しく繊細で、可憐な少女。
エドの見てきたティアーネとは雰囲気が全く違っていたが――やはりふとした瞬間に、同じ人物であることが分かる。
親の期待を一身に背負って、幼い頃から頑張り続けていた。
他の人の言うことを素直に聞く理亜は多くの人に好かれたが、そのうち他人に嫌われるのを恐れるようになってしまった。
多少馬の合わない友達とも仲良くする。嫌なことを言われても笑ってごまかす。
それで人間関係が上手くいけば良かったが、恵まれた人間には妬みがついて回るものだ。
優等生を演じれば演じるほど増えていくそれは、幾度となく理亜を悩ませた。
それでも、これまでずっと続けてきたことを止めるわけにもいかず、他人の言うことを聞き続ける理亜に、エドは同情する。
そういう自分がいいように扱われていることを知るころには、理亜はもう断り方を覚えていなかった。
そんな性格が災いして――ついには告白すらも断ることができなかった。
中学三年生の春のことだった。
しばらく前から周りに理亜のことが好きだと公言していた男子から告白を受けた。
理亜にしてみれば対して話したこともないし、他人を心から信じられなくなっていたせいで、恋なんて諦めていたのに。
周りからの期待の目と、彼が自分を見つめるまっすぐなに瞳に抗う術もなく、付き合うことを承諾してしまったのだ。
彼と一緒の学校からの帰り道も、週末に行くデートも、楽しいと思えたことはほとんどなかった。彼は理亜が意にそぐわない行動をする度に不機嫌になるので、ずっと気をつけながら接さなければならなかったのだ。
何をしていても度々来る連絡に返信するたびに、理亜は自分が何をしているのか分からずにスマホの画面を眺めていた。
中学校を卒業して、理亜が女子高に通い始めてもその関係は続いていた。
……いや、前よりも少しひどくなっていたかもしれない。学校で会えない分彼氏からの連絡は増えるばかりで、忙しいなかでも会いに行かなければならなかったのは相当な負担だっただろう。
それなのに、相手に嫌なこと一つ言わず耐えてきたのは、ひとえに理亜の忍耐力が強かったのか、それともそれほどまでに呪縛が強かったのか。
そのうち両親のいない間、彼氏が理亜の家に通いつめるようになり、理亜の生活が浸食されていくようになる。
彼氏がとあるゲームにハマり、その見知ったタイトルを理亜に勧めた頃には、エドももうそれからの展開をほとんど予想できてしまっていた。
それまでゲームをほとんどしたこのない理亜に、彼氏は難色を示しながら次々に指示を出す。どれも初心者には酷な内容ばかりで、まるで理亜のことを考えられていない。
ついには彼のため息とともにゲームが終了し、繋いでいた通話も無言のまま切られてしまった。
初めてここまで彼を怒らせてしまったことに理亜は焦り、悩んだ結果、掲示板にて助けを求めることにしたのだった。
それからPhiis――千里に声をかけられたというわけだ。
そこからはある程度エドも知っている。もとはそういう理由でPhiisと共にゲームをしていたが、だんだんそれ自体が楽しくなってきて、時間を見計らっては声をかけて一緒にゲームをするようになった。思い出してみれば、時折突然予定が入ってゲームができなくなった、と言われることが何度かあったが、ほとんどが彼氏関係のことだと分かれば納得だ。
普段の生活のこともチャットの中で色々話していたmarriaだったが、彼氏のことを一度も口にしなかったのは、やはり本当に苦しかったからだろうか。
……いや、もしかしたらかなり早い段階から、Phiisという存在に心惹かれていたからかもしれない。
自分の本当の顔も、普段の性格も知らない赤の他人。Phiisはあまり自分からリアルについて尋ねることはしないようにしていたので、それも理亜にとっては心地よかったのだろう。顔が見えないからこそ、理亜はかなりPhiisに心を開いていた。
ずっと自分のことを男だと勘違いしていたはずの理亜が、心底楽しそうにチャットしているのを見ると、エドは恥ずかしくて目をそらしたくなった。
しかし、場面はエドの知りたかった決定的な時へと近づいていく。
エドは息を飲みながら、鏡を見つめ続けた。
天気がいい! 最高だ!!!
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