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24. 教会と合わせ鏡

 教団幹部の青年はバラノと名乗った。


「数年前から、この教会跡の管理を任されているのです。このような事態になってしまい、不甲斐ないばかりですが……」


 神様に合わせる顔もありません、と困ったようにパラノは笑う。

 そりゃあ、管理を任されていた場所で原因不明の失踪者が続出しているのは大問題だろう。


「今回はあくまで、『現地の調査を私が皆さんに頼んだ』ということにするので、よろしくお願いします。あと、獣人の方はもとより教会の中までは入れませんが……」

「俺たち二人だけでも大丈夫です。だろ、ティア?」

「…………ええ、まあ」


 しばらくぶりにエドの問いかけに答えたティアーネは静かにそう言った。

 

 馬車を置いてきた集落から川沿いにしばらく歩いたところに教会跡はあった。

 教会跡、と言っても一度ほとんど崩れてしまった教会を囲むように新しい教会が建っているので、廃墟というわけではない。

 白と藍色のシンプルな建物の上に、月のシンボルが掲げられている。

 教会の前には警備のためか、数人の教団員と思われる人が立っていた。

 パラノが前に出て事情を話す。教団員は一度こちらをいぶかしむように見てから通してくれた。

 ナビスとアステは入口で待機してもらい、エドとティアーネは教会の中に入る。相変わらずナビスは不服そうだったが、何も言わず大人しくしていた。


 教会の中は、壁と天井に取り付けられたステンドグラスから外の光が差し込んでいるだけで、薄暗く静かだった。

 幾何学模様に並べられたステンドグラスには寒色が多く使われているせいか、まるで海の底にいるような気分である。

 今エドたちがいる入口すぐの広間から、細い通路が、奥に向かって伸びている。


 パラノは入って来た扉を閉め、一通り中を確認して何も変わっていないことを確認すると、奥の方へ向かって一礼する。

 エドとティアーネもそれにならい、同じように頭を下げた。

 

「合わせ鏡を見たいのでしたっけ?」

「そう、ですね。信託がどのようにしたら達成できるのかは分かってないですが、とりあえず」


 エドがそう答えると、パラノはそれなら、とうなずく。


「僕がこの場所から合わせ鏡の見方を教えるので、お二人は指示に従ってください」

「分かりました」「……分かりましたわ」


 パラノが広間の中心に立ち、通路のほうを指し示す。エドは前に出て通路に向かって歩き始める。ちらりと横を見れば、ティアーネも並んでついてきていた。


 遠くからでは気づかなかったが、この通路の左右の壁こそが合わせ鏡なのだった。曇り一つない合わせ鏡は無限に光を反射し、狭いはずなのにとてつもなく広い空間にいるような、不思議な感じがした。


「そのまま前へ、どうぞ」


 二人が同時に通路へ足を踏み入れると、その無限の空間に、いくつもの二人の姿が写り込む。


「鏡はあなたの魂を辿って、その過去、記憶を映し出します」


 一歩を踏み出すごとに、鏡に映る影が一つずつ揺らいでいく。

 まるで、記憶の奥底までがさらわれて、鏡に蓄えられていくような。


「そこで立ち止まって、向かい合うように立ってください」


 ティアーネと目が合う。緑と青の、冷たい瞳。


「二人が見るのはお互いの記憶。心の準備ができたなら、振り返り鏡のほうを見つめてください」


 その言葉にティアーネがたじろぐ。平静を装っていた瞳が、迷うように揺らいだ。


「ティア、嫌なのはわかるが、こうしないと信託が――」

「いつ、私が嫌だといったのかしら? 勘違いしないでくださる?」


 そうは言っているが、語尾が震えている。

 自分でも分かっているのか、それ以上ボロを出す前に、ティアーネはくるりと後ろの方を向いた。


「――けれどエドさん、一つお願いです……何を見たとしても、それについて何も思わないで、そして何も言わないでください……本当に、お願いですから」

「……分かったよ」


 エドはそう言いながら後ろを向く。一歩下がれば、お互いの背中が触れ合った。


 背中越しにティアーネが驚いたのを感じて、エドは目の前の鏡を見る。そしてああ、と納得したような声を出した。


 そう、二人の見る鏡には、それぞれ知らない女の子が映っていたのだ。

雨は嫌いです

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