22. 信託と呪いの秘密
「――ま、いろいろ言ったが応援してるからな。頑張れよ」
「ありがと、ファイン」
帰り際、またいつものように店に集まる約束をしていたエドはファインと別れた。
足早にアステの店へと向かう。今日話し合うのは四つ目の信託だから…………ちょうどこれで半分か。
窓際のテーブルにアピッサルテの黒い角と、バラの花冠が置かれた部屋で、ナビスが咳払いして次の信託を告げる。
「四つ目の信託は『記憶を集めし合わせ鏡』です」
これは、聞いた瞬間にすぐにピンと来た。
「「――古代教会跡」」
ティアーネとエドが同時に答える。ティアーネが悔しそうにため息をついた。
「今回は、少し遠いみたいですね」
ティアーネは地図を開き、場所を探し始めた。
古代教会跡。今は聖地とされているその場所には、神の力の宿る”過去を映す鏡”があるという。
少なくとも500年以上前からあるその鏡は、建物が老朽化していても、錆びることも壊れることもなく、まだそこに存在しているらしい。
教会の中心にあるその合わせ鏡の間に立てば、その人の過去が鏡に映し出されるという伝説がある。
「今までの信託からすると……もしかしてこれ鏡を取ってこなきゃいけないのか? 聖地から?」
「教会の壁にはめ込んである大きな鏡ですのよ? そんなこと、できるわけがないでしょう」
呆れたようにティアーネが言う。
「――失礼しました」
「ねえアステ、ここまで行くのにどれくらいかかりそうかしら?」
「ああ、そうだね。えっと……」
相変わらず言いたいことだけ言って、あとはエドを無視する方針のティアーネはアステに話しかけ、今回はどんなルートを通って行くのかなどを話し始めてしまった。
全く、一体どうして他人に嫌われるのが怖かったはずのmarriaが、こうならざるを得なかったのだろう。
暇になったエドは、王国史の授業のときの続きを考え始めた。
ヒントはティアーネの態度とナビスの証言にあるはずだ。
ティアーネ冷たい態度……裏返せば、エドに嫌われるための演技ともとれないだろうか。
エドに嫌われなければ呪いが発動してしまう……つまり、好きになられたらダメということだろうか?
なんとなく掴めてきた気がした。
ナビスはティアーネのことが大好きだと言ったにも関わらず呪いが発動しなかったのは……おそらく、それが恋愛限定のものなのだからだろう。
ティアーネの婚約者が亡くなってしまったのにもそれで説明がつく。呪いが発動する前は前世千里が知っていた通りの、優しく繊細な美少女だったとすれば、誰だって恋してしまうに違いない。
”自分を好きになった相手を殺してしまう呪い”……か。不可抗力の部分も多い分、厄介な呪いだ。
まだ仮説にすぎないけど――と思うと同時に、もし本当にそうなら自分は大丈夫だろうとエドは安心する。
正直、今の自分がティアーネに恋をする確率は、限りなく低いだろうと思っている。
エド――元藤岡千里は生まれてこの方、恋愛というものをしたことがないのだ。
前世ではそんな余裕はなかったし、今世に至っては二十数年間女をやってきた上で今更男になっても、イマイチ女の子に恋する感覚が分からないしなあ……という感じである。当然、会いたい女の子がいる分際で別の子と恋人関係になることに抵抗感があったのもあるが。
…………そもそも、大切な人の作り方なんてもう分からない。
ファインの心配も、結局杞憂に終わりそうだな。
ずっと謎だったことの一つがほぼ解けて、嬉しさに少しだけ微笑んでしまった。
「…………さん、エドさん」
我に返ると、気味の悪いものを見る目をしたティアーネがこちらを向いていた。
「なんだ、ティア?」
「はあ、その様子ですと全く話を聞いていなかったようですね。しかもいきなり笑いだすなんて……ついに気でも触れたかしら」
「別にいいでしょ。思い出し笑いみたいなものだって」
「そうですか。気持ち悪いから慎んでくださる? あと、話ぐらいはちゃんと聞いてくださらないと。あなただけ徒歩で目的地まで向かわせようかしら」
「俺が着くまで何もできなくても知らないぞ」
「……ああもう、あと一度しか言いませんから」
嫌々ティアーネがもう一度説明を始める。
こんな態度も、全部呪いのせいかと思うと、少しだけティアーネのことが可愛く思えてくるのだった。
今日ちゃんと7時に起きて朝ごはん食ったのにそのあと二度寝した奴ー????
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※9/8修正済。主人公の名前間違える人なんていないよね




