21. 運命と呪い
そういえば、ファインにはまだ前世のことについては言ってはいなかった。
エドは少し悩んでから、こう答えることにした。
「昔、ティアと話したことがあったんだよ。かなり前の話だから、確信を得るのに時間がかかったんだけど」
「なるほどな。王女様と話せるなんて、昔っからエドは女と縁があったってわけだ」
またいつもの嫌味である。
エドは肩をすくめて言った。
「そのときのティアはなんというか……大人しくて怖がりな女の子だったんだよ」
「今とはえらい違いだな」
「ホント、そうなんだよ」
そう言ってエドは困ったように笑う。本当に同一人物か疑いたくなるぐらいには印象が違う。
その顔から何を感じ取ったのか、ファインは口を尖らせた。
「――なんかお前楽しそうだな、むかつく」
「……そう見えるか?」
ファインは大きくうなずいた。
「そりゃあ美少女と旅したり花畑見に行ったりだのは楽しいですよねえ~。それも小さい頃一回会ったことあるとか……運命の人か何かかよ?」
「楽しい、か。確かに……楽しい、かも」
これまで苦労ばかりしてきたような気がするが、これまで二つの信託の謎を解いてきて、皆とのやりとりだとか、ティアーネの新しい一面を見たりだとか、そういうのを楽しみにしている自分もいることに気づいた。
運命の人かどうかに関しては…………まあ前世から追っかけてきているわけだし、神様に導いてもらっているのだから、そう捉えることもできるかもしれない。
「あ、ついに認めやがったなこいつ。もっと危機感というものを持ってくれよ? 呪い、発動したら死んじまうんだろ? お前でも」
「……そうだった」
ファインから呪いという言葉が出てきて初めて、そうだったことを思い出す。
正直、他に考えることが多すぎて呪いの存在なんて忘れかけていた。
「おいおいしっかりしてくれよ。お前ってたいてい何でもできるけど、たまーに大事なところがすっぽり抜けてるんだよな」
「それは認めるけどさ……ここまで誰も死んでないとなると、別にそこまで気にする必要ないのかなとか、万が一のことがあっても自業自得ってことで――」
「そーいうとこ。お前、もっと自分を大事にした方がいいって」
ファインに指をさされてしまう。
「――そんなつもりはないよ。俺がやりたくてやってるんだ」
エドがそう断言すると、ファインは納得してなさそうな顔で机の上に肘をついた。
「お前がそういうとこ頑固なの忘れてたぜ。ま、これ以上は言わねーけど」
そう言ってからファインは立ち上がる。
いつの間にか、食堂には人がほとんど残っていなかった。
「じゃ、次の授業行こーぜ」
そうだね、とエドも立ち上がってファインに着いていった。
「――そして、戦線布告をされ我が国は戦争状態に……」
午後の授業は王国史だった。前世と同じで、この時間のこの授業は皆眠たくなるらしい。今日もまだ始まったばかりだが、既に数人が脱落している。先生はすでに諦めているようで、誰も起こそうとはしない。
すやすやと気持ちよさそうに寝ているファインを、いつもなら真面目に授業を受けているエドが起こしているのだが、今日ばかりはエドもぼうっとしていた。
眠たかったわけではなく、先ほどのファインの発言に思うところがあったからだ。
先生の話を聞く傍ら、ノートの端に『呪いについて』と小さくメモをとる。
『発動したら人が死ぬ』――これは、最初から分かっていることだ。
『死んだのは婚約者』――これも事実なはずだ。
『発動する条件は、本人にも分からない』――これもティアーネが言っていたこと――だが、これは果たして本当だろうか?
昨日の花の件で、ティアーネはエドに完全に嘘をついていた。それ以外にも嘘をついている可能性だってある。
ティアーネがエドに冷たい態度をとる理由、嘘をつく理由は呪いにある。それはなんとなく分かってきてはいた。エドだけにそのような態度をとるのも、やはり呪いの発動条件をある程度分かっているからとすれば辻褄は合う。
ティアーネがエドに隠さなければならなかった呪いの発動条件。きっとどこかにヒントがあるはずなのだが――――
「――――これにて、授業を終わる」
気づけば、授業が終わっていた。隣であくびをしながらファインが起き上がった。
「授業終わりまで寝るなんて久しぶりだな……エド、俺そんなに起きなかったのか?」
「すまん……今日は起こしてやれなかった」
もう少しのところで思考が遮られてしまい、答えにたどりつくことができなかった。エドはため息をついて立ち上がる。
「今日はこれで授業終わりだったよな。……帰るか」
「おう」
ノートの端に書いた文字を綺麗に消して、エドはノートを鞄にしまった。
今日ようやく前髪を切りました。
評価・ブクマ登録していただけると作者が手癖でツ〇ッターを開くのをやめられるかもしれません。




