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20. 王妃と嘘

 花冠を作ったその夜、エドはアステの店でコーヒーを頼み、アステと話しながら飲んでいた。


「――そういえば今日、王妃様がここへ来たよ」

「ティアの母が? なんでまた」

「さあ。今日は信託を進めるために、ここには居ないって知ってるはずなのにね」


 アステは自分用にも淹れたコーヒーを、息で冷ましながら肩をすくめた。


「君と同じようにコーヒーを頼んで、あたしに如何に自分が娘のために頑張っているか、力説してから帰っていったよ」

「そう、ですか……」

「ま、あれでも人間ってことだろう。人は皆、誰かに話を聞いてもらいたいものだからね」


 ティアーネの言動も不思議なところが多いが、その母もまた不思議なところがあるものだ……エドはそう思いながら、もう一つ、ずっと不思議に思っていたことをアステに尋ねる。


「話は変わるんですが、ティアって確か王様に命を狙われているんですよね?」

「それは、あの子が一番最初に言っていたことだろう?」


「そうなんですけど………初めて出会った時の一件以来、ティアが命を狙われて危険な目に遭ったところを見たことがないんですよ」


 アステは少しだけ悩むように手元のコーヒーに視線を落とす。


「そりゃああの子も随分と気をつけているみたいだからね……ま、そもそも、王に命を狙われてるってこと自体、本当かどうか分からないんだけど、ね」

「どういうことです?」


「そのことをティアーネがどうやって知ったのか、ってことだよ」

「それは……」


 エドは首をひねる。ティアーネの婚約者が亡くなったことで、王に呪い持ちであることがバレて命を狙われている――それで辻褄は合うし、エドもそれは疑っていなかった。しかし、その事実をティアーネに伝えたのは……


「王妃様、ですか?」

「あたしもそう思ってる」


 とアステはうなずく。


「あの人、今日とんでもないことを言っていたよ――『私ね、ティアーネのために新しい婚約者を決めてきたのよ。それも前の婚約者の家系から。すでに一人目が亡くなっていることが知られてしまったから、少しばかり苦労したけれど、これであの家との関係も良好ね』だってさ」


 さすがにぞっとしてしまう。それでは、まるでティアーネのことを考えているとは言えないではないか。

 アステもおぞましく思っているのだろう、流し込むようにコーヒーを一気に飲み干した。


「このことはまだティアーネには伝えてほしくないってさ……また殺されたら困るからって」


 言われなくてもこんなこと、伝えられるはずもない。


「まあ、だからって王妃様がティアーネに嘘をついた、って証拠にはならないけどね。そういう可能性もあるだけという話さ」





「ティアも騙されている、か……」


 昨日の会話を思い出しながら、エドは学校の食堂の前で待っていた。エドの小さな呟きは、生徒たちの喧騒の中にかき消される。


「おーい、エド!」


 そんな中でも目立つ、一際大きい声が聞こえた。もちろん、ファインの声だ。

 何度も走るなと言われているはずの廊下を、エドに向かって走ってくる。


「遅くなってごめんな。……ったくあの先公、また授業伸ばしやがって」


 そこそこの声量で悪態をつく。その言葉、本人には聞こえていなければいいが。


 いつものように好きな料理を取ってきて、食堂の端の席に向かい合って座る。

 今日の午前はお互い別々の授業に出席していたので、今日ファインと会うのはこれが初めてだ。


「んで、昨日はどうだったのよ、そっちのほうは?」

「それが――」


 と、エドは昨日の話をファインに聞かせた。


「――で、その時のティアなんかは昔からは考えられないくらい……」

「なあエド」


 夕食時の一件を話している途中、ふいにファインがエドの言葉を遮った。

 エドは何か気になったことでもあったのかと首を傾げる。


「どうした、ファイン?」


 ファインは口の中のものを飲み込むと言った。


「――”昔”って、なんだ?」

外が曇りなので光合成ができません。つらい。

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