16. 信託と逸話
「はーあ、俺が体術の授業で悲鳴上げてた頃、お前はそんなことしてたのかぁ」
騎士学校の帰り際、ファインに憎まれ口を叩かれながらエドは苦笑いした。
「本当に話聞いてたのか? こっちも大変だったんだってば」
「いやいや、それでも美少女と観光旅行したって事実は変わりませんから~」
そうあからさまな冗談を言いながら、ファインは頭の後ろで手を組む。
「――くそ、俺も少しぐらい大変でもいいから可愛い子と関りてーよ」
……どうやら、こちらは本音のようである。
「じゃあ俺、これからティアちゃんに会ってくるから、またね」
にやにやしながらそう言って手を振ると、ファインが肘でどついてくる。
「二度と顔見せんなバーカ。――――また話聞かせろよ」
「はいはい。ファインくんったらツンデレなんだからさ~」
「ツン……ってなんだよ!? おい! エド!」
叫ぶ友人を置いて、エドは走って行く。
最後にちらりと振り返れば、今にも唾を吐きそうな顔で手を振るファインの姿が見えた。
「――あら、今日は学校に行っていたのね。体だけはタフなこと」
アステの店のいつもの部屋に入って来たエドに、開口一番、ティアーネはそう言った。
「立派な騎士になるためには、僅かな勉学も欠かせないものなのですよ、お姫様」
「――ようやく見習い騎士様も来たことですし、次の信託について話しましょう」
ティアーネはエドを無視してナビスの方を向く。最初の頃に比べエドに対する棘が洗練されてきているような気がするのは気のせいだろうか。
「ナビス、次の信託をお願い」
「はい、姫様」
ナビスがうなずいて胸に手を当てる。
「三つ目の信託は――『いばらは裏切り者の花冠』です」
二つ目の信託に比べ、更に不可解なものになっているようだ。
「前回の信託を考えるのならば、今度は花冠をどこかから持ってくるか、作るかするということでしょうか」
ティアーネがぱっと思いついたことを述べる。
だがそれだけでは肝心の"どこで"が分からない。
いばら、裏切り者、花冠。エドはその言葉からふと前世の世界にあった聖書のことを思い出すが、別にあれは花冠ではなかったし、そもそもこちらの世界での信託なのだから関係はないかと思い直す。
「――いや、そうか」
――神話。そのワードを思い浮かべてエドは思い出した。裏切り者と花にまつわる神話がこちらの世界にもあった。
「分かった。音妖精のバラ園だ」
「……なるほど、そういうことでしたの」
それを聞いただけで、ティアーネもすぐに理解する。ただ、先にエドが正解にたどり着いたことが不満といった表情だが。
「音妖精のバラ園――たしか、王都の東側のはずれにある場所でしたね」
音妖精。簡単な伝言などにも使われるこの妖精には、こんな逸話がある。
昔、まだ神が神ではなかった頃。後に神となるその少女と愛し合った男がいた。二人は誰もいない場所で何度も愛をささやき合った。
しかし、ついに少女が神になることが決まった日、男は言った。あの日告げた愛の言葉は、君に近づくための嘘だったのだと。
神になった少女は激怒し、男を殺してしまうと、一番好きだったその声だけを取り出して妖精に授けた……というものだ。
音妖精は美しい花を好む。最も高貴とされるバラの花には多くの音妖精が訪れるのだ。それは神に謝るための贈り物を探しているだとか、単に神との思い出の一部にすがろうとしているのだとか、そこは色々と言われている。
王都の東側のはずれには、この国で最も大きなバラ園があるのだった。
「じゃあ次はそのバラ園に行って花冠を作る、ってことでいいかな」
「――そのようですね」
逸話のことを考えれば、エドたちにはなんとも皮肉な話だが。
「そこには徒歩で向かいましょう。明日の朝、ここにもう一度集まるということでよろしいですね?」
ティアーネがそう言って、今日の集まりは終わりを告げた。
お腹が空きました! 昼はそーめんの予定です。
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