15. 王妃とティアーネ
日も沈みきった頃、ようやく一行はアステの店に着いた。
「これから次の信託について話し合いたかったのですが……ナビスがこの様子では無理そうですね」仕方ありません、また明日の夕方、ここに集まりましょう」
馬車に揺られ続けてたナビスは、ティアーネに寄りかかってぐったりとしている。もうまともに話せる状態ではなさそうだ。
「仕方ありません、また明日の夕方、ここに集まりましょう」
ティアーネはエドの方を見る。
エドが分かった、とうなずいたのを確認して、ティアーネはそれと――と続けた。
「今回は本当に災難でした。なんとか信託は達成できましたけど。エドさんには……もう少し働いていただきたかったわ」
「えぇ…………」
少しくらいは褒めてくれるんじゃないかと期待していたが、予想外の言葉に思わずエドは声を出してしまった。
ティアーネはナビスを連れて店の入口へと向かう。
「当然ですわ。信託の騎士と聞いてどれほどかと期待していたのでから。全く、神様もこのような役立たずをよこして、何がしたいのですかね。――――アステ、鍵を開けてくれる?」
「ごめんごめん、今開けるよ」
入口の鍵を開けたアステに、ティアーネはありがとう、と小さく言うと、そのまま振り返りもせず店の中に入って行ってしまった。
最後に振り返ったアステが、エドにドンマイ、とでも言いたげな顔を向けて手を振ってくる。
エドは力なく手を振り返すと、アステは苦笑いして店の中へ消えた。
「しょうがない、帰るか…………」
星の光る空の下を、エドは家に向けて歩き始めた。
「――――というのが、今回の信託に関わる出来事でした」
その夜、ティアーネは王妃のもとを訪れ、一連の出来事を報告していた。
「そう、すぐに報告してくれて助かるわ。――ところで、ナビスはどうしたの?」
「あの子は体調がすぐれなかったみたいなので、店で寝かせています」
ティアーネがそう答えると、王妃――テシャーナははあ、とため息をついた。
「全くあの子ったら……その間にティアーネが襲われでもしたらどうするのですか。まだ教育が必要なようですね」
「お母様、まだあの子は――」
11歳の幼子ですよ、と言いかけてティアーネは口をつぐむ。
テシャーナの冷ややかな眼光が、ティアーネをはっきりと捉えていた。
「あの子は、なあに? ティアーネ」
「……いいえ、なんでもありませんわ」
そう、とテシャーナの視線が外れ、開けられた窓のほうを向く。
「そういえば、あの信託の騎士とかいうのはどうなのかしら? あなたに何か酷いことなんてしてませんよね?」
「いいえお母様。あの人は……とても素晴らしい騎士です。お話した通り、彼がいなければ信託は達成できませんでした」
テシャーナがどこかを向いてくれたことに内心ほっとしながら、ティアーネは答えた。
「ならいいのよ。……ティアーネ、何をそんなに恐れているの? 私に助けられることなら、何でもするわ。あなたのために、ね?」
「それは――」
テシャーナが、もう一度ティアーネの方を向く。
心の内を見透かされていたのだろうか。ティアーネは焦りながらも取り繕う。
「怖いのは……私にかけられた呪いのことですわ、お母様。私の呪いで……また他の人を殺してしまうのが、怖いのです」
「そう。例えば――あの信託の騎士とか、かしら?」
ティアーネは息を飲む。
テシャーナはティアーネをなだめるように、そうねえ、とつぶやいた。
「確かに、あなたの婚約者が亡くなってしまったのは残念だったわ。あなたも辛かったでしょう。――でも、あなたは何も悪くないのよ、ティアーネ」
テシャーナは立ち上がってティアーネのもとへ歩み寄り、その黒髪を丁寧に撫でた。
「悪いのはこの呪いだわ。だから、あなたは呪いを解くことだけを考えていればいいの。――たとえ、その騎士があなたの呪いで死んでしまったとしても、ね」
ティアーネはその言葉に言い返そうとした。そんなことは、あってはならないと。
しかし、自分の頭を撫でる手が、まるでテシャーナから突き付けられた刃のような気がして、体が固まってしまう。
「怖がらなくていいのよ、ティアーネ。大丈夫、呪いさえ解ければ誰も死なないし、あの人――陛下も、きっとあなたのことを許してくれるわ」
二度、三度と頭を撫でられる。
「…………はい、ありがとうございます、お母様」
そと あめ すごい
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