10. スープと果実酒
アステが案内してくれた店は、宿から少し離れた場所にあった大きめのレストランだった。
「前に来たときはそこまで客はいなかったはずだけど……」
アステはそう言っているが、外から見える分はすべて席が埋まっている。
ダメもとで店に入ってみれば、まだギリギリ席は空いていたようだ。店の隅のテーブル席に4人で座る。
「人気になってたのはいいことだけどさ、入れなかったらどうしようかと思ったよ」
アステがほっとしたように笑う。
いやいや、とエドは返した。
「しばらく並んでも別に大丈夫でしたよ。ね、2人とも?」
「――早く注文を決めなければ、食事はできませんわ」
しかし完全にエドの質問は無視して、ティアーネはメニュー表を開く。
内容はよく見知ったものから知らない食材の名前が入ったもの、抽象的な名前のものまで様々だ。
「ちなみにあたしのオススメはこれだよ」
アステが一つのメニューを指し示す。
「……真昼の宵闇スープ?」
「そう、あの『牡牛』になぞらえた名前のスープだ。実際は……いや、それは食べるときのお楽しみってことで」
アステのオススメというのであれば食べたいのは山々だが、まったく正体が分からないものをいきなり頼むというのもリスキーではある。
「なら私、それにします。真昼の宵闇スープ、ですよね」
「、じゃあ僕も」
会話を聞いていた二人が小さく手を挙げた。
「えっとじゃあ……俺もで」
結局、四人全員が『真昼の宵闇スープ』を頼むことになった。
アステがずっと楽しそうに笑っているのが少し気になる。
「――こちら、真昼の宵闇スープです」
そう言って目の前に置かれたのは――――スープ皿に入っている、漆黒の液体だった。
アステ以外の三人は、全員同じような表情をして固まっている。
「一体何なのですか、これは……」
エドよりも先にティアーネが口を開いた。
アステはにやにやしながら答える。
「これがこの店の名物、"漆黒の宵闇スープ"だよ。中身は確か――ヤミニンジンにカゲイモ、クロタマネギと……あとアピッサルテって魔獣の部位を色々と使ってたはず」
最後の食材は置いておいて、どれもテルーラで有名な"黒い野菜"たちである。
それにしても黒い。黒すぎる。前世の世界なら、イカスミを使ったってこんなに黒い料理は作れないだろう。
すでにアステはスープを食べ始めていた。反応を見る限り美味しそうではある。
手に持ったままだった木のスプーンですくい、口に入れてみる。
「!?」
想像していた味と実際の味とのギャップに脳が混乱した。
2、3口食べてみれば、それがビーフシチューに近い味だということが分かる。ただそれよりもずっと甘く、まろやかな味わいだ。
アピッサルテとかいう魔獣の肉も、牛肉に似ているがそれよりも油っ気が少なく、すっきりしている。
見た目はとにかく、美味い料理だ。
そんなエドの様子を見ていた残りの二人も、一度顔を見合わせてからスープを食べ始めた。二人ともエドと同じような反応をしている。
「だから、オススメって言ったでしょ?」
アステは大満足といった表情だ。でも誰だって突然真っ黒な料理が出てきたら、食べるのを躊躇してしまうのは当然だとは思うが。
程なくして全員がスープを飲み終わる。
「最後に何か頼むかい? あたしはドリーベリーの果実酒を頼むけど」
「私も同じものを。ドリーベリー、とても好きなの」
「なら俺も――」
エドが便乗して言うと、ティアーネはあら、と首を傾げる。
「ナビスはともかく、エドさんもまだ15か16でしょう? お酒なんて飲めますの?」
言われてみれば確かにそうだが、前世でも酒はたしなんでいたし、この国には未成年飲酒禁止法なんてものもない。
「別に飲めるって。そういうティアーネはどうなんだ?」
「私はもう18ですもの。普段からお酒ぐらい飲みますわ」
「……とのことなので、二人分追加で頼んでもらっていいですか?」
「りょーかい」
呆れ気味に笑うアステが店員を呼ぶ。
三人分の果実酒と、ナビスには牛乳を頼んで全員で飲み、彼らは店を後にした。
当初はもっと終始殺伐とした雰囲気の小説になる予定でした。
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