9. 馬車とテルーラ
馬車はアステが運転してくれた。
「あの店は自由営業だから、ちょっとぐらい休んでも構わないさ」
とのことだ。
正面でアステが手綱を握り、あとの三人は荷台に乗せてもらって、ティアーネ一行は都市テルーラに向けて出発した。
林の中の、決して平坦とは言えない道を進んでいく。
「――みんな、大丈夫かい? 結構揺れてるけど」
ちらりと中を覗いてアステが尋ねてきた。
「自分は大丈夫ですけど……」
エドは騎士学校の実戦訓練のため、しょっちゅう遠征はするので馬車には慣れていた。
向かい側に座るティアーネを見るが、こちらも涼しい表情のままだ。
そしてその隣に座るナビスは……必死に平静を装うとしているが、顔色が悪い。
「ナビスくん、ちょっと体調悪いみたいです」
「そんなことありませ……うぐっ」
ガタリと馬車が大きく揺れ、ナビスが表情を崩す。
「無理しないでって。あと少ししたら開けた場所に出るから、そこで休もう。そこまで我慢できるかい?」
脂汗をかき始めたナビスは、唇を噛んでうなづいた。
「――ほらそこ、小川があるだろう? ずっと音が聞こえていたんだ」
少し自慢げにアステが横の方を指さす。確かに、木々の隙間から水流が見えた。耳をすませば、かすかにせせらぎが聞こえる。
さすがに我慢の限界だったのだろう、ナビスが口元を抑えて一目散に走って行く。
「まったくナビスは。もう少し子供らしくわがままを言ったっていいのにさ」
アステが呆れたように笑った。
「さて、あたしたちも水を飲みに行くとするか。まだ道のりも長いしね」
「――そうですね」
さらさらと流れていく川の水は限りなく澄んでいて、触ってみればほどよく冷たかった。
両手ですくって、口の中に注ぎ込む。
慣れているといっても、馬車に乗っているのはやはり疲れるものだ。固まった体によくしみる。
ふと横を見れば、ティアーネも同じように水を飲んでいた。
体を起こしたティアーネと目が合った。
エドはほんの少しだけ迷った後、ポケットからハンカチを取り出した。
「――使う?」
ティアーネはうなづき、こちらに手を伸ばして何か言いかける。
しかし途中で口を閉じ、エドの手から半ば奪うようにハンカチを取っていった。
丁寧に手を拭きながら、ティアーネが口を開いた。
「ところで、貴方はどうするのかしら? まさか私の使ったハンカチを使うなんてこと、ありませんのよね?」
いつも通りの冷ややかな目が向けられる。
「――いいよ、別に。それは君にあげるって。俺、鞄にもう一つ入れてるから」
手を振りながらそう言うと、ティア-ネはそう、とだけ返した。
それから一行は木陰で一休みし、また目的地まで馬車を走らせた。
「――ここがテルーラ、か」
エド達の住む王都とは、また雰囲気の異なる街並みだ。四方を山に囲まれたこの都市は、建物が多いにも関わらず緑が多い。道に沿うように木が植えられ、花壇には花が咲き、家々の壁に張り巡らさたツタは観賞用のものなのだろう、見ていて綺麗だ。
夕方の街は観光客でにぎわっている。
馬車を停めに行ったアステの代わりに、三人で宿を探す。
ティア-ネは、以前のように魔術で髪色を変えていた。
ナビスは物珍しそうにきょろきょろと辺りを見回していた。
「――ナビスはここ、初めて?」
「はい」
エドが問いかけると、ナビスは素直にうなづいた。
「ティアーネは?」
もう一人にも尋ねると、今度はため息が返ってくる。
「少し考えれば分かるはずですわ」
「――そうでしたね、お姫様」
エドの返しにイラついたのか、ティアーネはふいと横を向いた。
ちなみにエドはがここに来るのは二度目だ。転生してだいたい5歳くらいのときに家族と来たことがある。
少し探せば、さすが観光都市なだけあって、宿屋はすぐに見つかった。
「二人部屋が二部屋、ですね」
宿屋の主人がチェックをつける。
残念ながら大部屋は空いていなかったようだが、これで十分だろう。
その後アステを迎えに行き、皆で食事をとることにした。
「あたしに任せなって。いい店知ってるから」
とアステが自信満々に言うので、その店まで案内を頼んだ。
不安も多いが、なんだかんだで楽しいのかもしれない。
毎日が締め切りの生活には慣れてきましたが、ゲームがやめられません。
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