vsシリウス/overcome all the enemy‼︎/♡
「シッ!」
勇んで前へ出ようとしたボクを尻目に、二匹、三匹と、サーカスみたいな動きのイザヤが弱点を切って即死させていく。
「パル……デミィデア、あとどのくらいだ」
「あっ、うん! 5分後くらいに十匹、3分空けて七……八匹! だよ!」
「……わかった」
そんなわけでボクは、『ラプラスの魔』を活かした戦局管理を任された。
「イザヤ、ボクも前に……」
「デミィデア、最近忘れっぽくなってない?」
「忘れ……?」
次の群れまで時間があるので作戦会議。
イザヤの指摘は、心当たりがなくもない。あまりにも疲れてたり酔い潰れたせいだと思ってたけど。
「『スワンプマン』のデメリットだ。あんまりひどい怪我をし続けると、治す途中で記憶の引き継ぎが上手くいかなくなる」
「……マジ?」
「よほどじゃないと、だから言わなかったけど……。うーん…………。頑張ってた、みたいだから」
めっちゃ言葉選んでくれるじゃん。
これは撫でられるか? いつも悪いところを撫でてくれるから、やっと頭か? 頭悪いみたいじゃん! いや、悪いんだけど……と期待したのだが、その両手には大振りのナイフが握られたままだ。残念。
「平気だよ。それがわかってれば、あとで確認すればいいだけだしね」
左目を指しながらいうと、イザヤは呆れたような感心したような、曖昧な笑みを浮かべる。
「そうか。……じゃあ、お願い」
「任せてよ」
あと六本ある予備のナイフのうち、一本を手渡された。
「さっきまでの俺の動きは視てたな?」
「バッチリ。見ててよ」
第五波のご到着だ。
「えっとたしか……」
『ラプラス』を切っ先に合わせてみると、これまでのイザヤの戦いが映像として流れ込んできた。今回だけじゃなく……いろんな……
続いて戦場。こっちは新しめのイザヤの戦いだ。
最後にウロコイヌ15メートル。身体の構造自体はフツーサイズと変わらない。ただ鱗が硬めなのと……なるほど。そうか。
「鱗の隙間なら――!」
魔眼が示す最適解を、体になぞらせた。肉体は攻撃をすり抜けるように躍動り、刃は吸い込まれるように斬裂る。
「おぉー!」
我ながら素晴らしい捌きだった。頸動脈を切られ、大出血させられたウロコイヌは、その場に倒れ込み命を落とす。
「よし、次!」
ボクが一匹やっつけるうちに、イザヤはもう五匹目を獲ったようだ。
◆◆◆
「……嬉しい報告があります」
第十五波を凌いで、夜もとっぷり更けてきた。
『ラプラスの魔』からの新しい観測結果が出たので、二十分はある休憩タイムでおしゃべりの時間をとる。
「夜明けになれば終わりだそうです……」
「夜明け、ですか……」
少し安心した感じのアンナちゃん。アレだけの能力を使っていながら、すごい体力だ。
「なるほど。冬の大三角形……シリウスの権能か……」
空を見上げて、一人納得するイザヤ。よくわかんなかったけど、ボクもわかったような顔をしておこう。
「あと、ボクから残念なお知らせがあって……。イザヤから借りたナイフ、もう使えそうにないです……」
多少無理に突き刺したりしたのもあってか、最後の一匹だと思ったこともあってか、肉に食い込んだままへし折れちゃった。
「俺もだ。もう予備がない」
え、どうすんの。
「え、どうすんの」
声に出た。
「……こうするさ」
折れたナイフで地面に丸を描くイザヤ。
意外とがっしりしている体が淡く禍々しい光を放つと同時、同じ気配の輝きが北部統轄地区中から溢れ出る。
「これ……魔導陣……?」
蜘蛛の巣で街を俯瞰していたアンナちゃんが呟く。
「この国土には、崩壊に対するカウンターとして、四方の防人全員を緊急強制転送する術式が仕込まれている。俺、ヨグバ・クリードが冗談でも滅ぼそうと思えば――」
語るイザヤの首に、冴えた刀が当てがわれる。
語るイザヤの胸に、清らな槍が突きつけられる。
語るイザヤの背に、静かな矢を番た弦が絞られる。
「何のつもりだ、朝倉イザヤ。いや、ヨグバ・クリード」
青龍の覇者。東を守護する青年、ギソード・ルーツが問う。
「答え次第では、このまま胸を貫きます」
白虎の聖者。西を見守る美女、リン・ヤスラが朗らかに笑う。
「まぁまぁみなさん、ここは落ち着いて。ね?」
朱雀の賢者。南を導く少年、ユアーロ・ミーアがたしなめる。
「え、どういうこと?」
あまりにもあまりの事態に、ボクの頭はパンク寸前だ。『ラプラスの魔』のおかげで、かろうじて話の流れがわかっている。
「デミィデア。いや、パルマ。新しいヨグバ・クリードとして、みんなに挨拶して」
「なんで⁉︎」
敵意……とはいかないまでも、三人の刺すような警戒がボクに刺さる。
「朝倉イザヤ! やはりあの日討っておくべきだったな!」
うわ怖っ……。自分が正しいってことに自信があるタイプの人だ、ギソードくん。
「呼び出した手前、こいつらは俺が抑える」
「なんで呼んだのさ⁉︎」
「パルマは『ラプラスの魔』で、夜明けまでウロコイヌの相手だ」
「ぅええ⁉︎ ……って、パルマ? パルマって呼んだ? ねぇ、ねぇ!」
「……言ったよ。パルマ。パルマ・コス=デミィデア・アウローラ。パルマ。がんばってね」
「……うん!」
こうなったらもう、群れだろうが防人だろうが、全部ボクが相手してやる。
あ、ちょっと言いすぎた。かも。




