vs北部統轄地区/weigh the anchor, way out anger/♡❤︎
「まさか……。しかし、契約は契約だ……」
その言葉を残して、影からケイムの気配が消えた。
…………。
勝ったぜ。
「はっはははははは! ボクたちに勝とうなんて十年早いよ!」
なんちゃって。呑まれた時マジで終わったと思った。あー、よかった……。
「パルマさんっ!」
駆け寄ってきたパルマちゃんに抱きしめられ、今日何度目かになるへたり込み。
弾け飛んだ肉片やらはアンナちゃんのドームで絡め取られ、野次馬への被害は最初のアレ一回。ありがとうね、アンナちゃん。
「ありがと、アンナちゃん」
声に出そう。
「パルマさん、パルマさぁ−ん!」
おいおいと泣きじゃくるお嬢さま。綺麗な顔も髪もドレスも台無しになるほど汚れちゃったけど、これはこれで眼福である。
「死んじゃ、っ、死んじゃったかとぉ」
「ボクだったから平気だったけど、アンナちゃんも結構やってたからね」
めちゃくちゃ痛かったんだからね、ずっと切らてるの。言わないけど。
「ごめんなさぁああぁいぃいぃ」
子供みたいに泣くなぁ、可愛いなあと思ってたら、どうやら15歳くらいらしい。マジ? 『ラプラス』がそういうならそうなんだろう。15歳でその胸は……肉付きは……イカンだろ。ありがとうございます。
「パルマさん……?」
「なんでもない。将来有望だなって」
「……?」
「アンナちゃんはまだわかんなくていいよ」
「はぁ……。……?」
そのまま健気に育ってくれ。
◆◆◆
蜘蛛糸のバリケードが解除された。
ざわざわと、喧騒が耳に入ってくる。
称えられる準備はできてるぞ。
「魔女め」
「え?」
あれ?
「毒婦め」
石を投げつけられた。まぁ足元にはいっぱいあるだろうし。
「なんだ……なんだよ!」
「なんだもなにもあるか」「あの化け物も、お前たちが連れてきたんだろ」
なんだそれ。
東部のときは部外者だから怪しまれるかもって思って……え? うそだろ。
「いたっ」
「アンナちゃん!」
石つぶての一つがアンナちゃんの頭に当たって、血が流れた。
「おい、さっきの! 前に出ろこら! 謝れ!」
ボクが怒鳴ると、人だかりの内少しが怯えたような声を上げて逃げ出した。
「パルマさん、わたしは大丈夫、大丈夫ですから……」
……なんだよ。
「出てってくれよ」「汚い格好だこと」「薄気味悪い髪だなぁ……」
……なんなんだよ。
――――刺すような、空気の震え。
山の方からだろうか。
「■■■ーッ!」
ウロコイヌの遠吠えだ。それも、一匹や二匹じゃない。犬だから……そりゃ、群れるか。あんなのが群れてたまるか。群れてたみたいなんだけどさ。
夜……月明かりを反射し行進するその鱗は、光の波みたいだった。
凄まじい足音を立てて、それは――それらは、数十頭の、突然変異種のウロコイヌだ。先頭だった二匹が到着し、ボクたちを見下ろす。
「次から次へと……!」
これ全部倒さないと、街はめちゃくちゃになってしまう。人もたくさん死ぬ。石とか投げてくるけど、やっぱ死なれると後味悪いし。でもやっぱムカつくよなぁ……。
仲間の肉片のにおいを嗅ぐ巨大ウロコイヌたち。もうちょっと息を整える時間はありそうだ。
このままアンナちゃんを連れてトンズラするのも、悪くないだろう。これがケイムの『執行』であるなら、狙いはボクたちじゃなく街そのものだろうし。
でもそれは、悪くないだけだ。良いわけじゃない。
なんとかしてこの状況を切り抜けたら、そりゃ褒められたいのが普通だ。色々いい手がないか考えていると、一冊の魔導書に思い至った。
「【おい、ボンクラども】」
『越権契約』の魔導書。
ボクは魔術師じゃないから、本当は使えるわけじゃない。
けど、魔術師は魔導書を読める・魔導書を読めれば魔術を使える。つまり、『ラプラスの魔』を介して魔導書を読めるボクは、魔術を使えるということだ。そうなってくれ。
「【これなんとかするから、あとでちゃんと謝って、そんでもって褒めろ、ばーか】」
成功、である。
アンナちゃんに合図をして、住人とボクたちの間に再びバリケードを張ってもらう。
「パルマさん、これ以上は……っ」
「できるだけ広くお願い! ボクのサポートは気にしなくていいから!」
「っ、はい!」
さすがアンナちゃんだ。街一個を蜘蛛の巣ドームの中に収めて、中にいたボクたちが逆に外に出る形になった。
これでよし。
あとはボクが――
と、走り出した途端、二匹まとめてその場に倒れた。ちょっと遅れて首から噴水みたいに血を出して、ピクリとも動かなくなる。
「……イザヤ?」
「……そうだけど」
ボクの前に降り立ったイザヤの手には、大きめのナイフが握られていた。まさか、これで首を掻き切ったというのか。
「なんで?」
「…………別に」
「っ、フゥー……」
「え、なに」
困りイザヤを摂取したので、ボクはもう元気いっぱいだ。
「来てくれてありがとね」
「別に。それより、アレなんとかしなきゃ」
「うん。そうだね」
まだ向こうから、数えきれないほどの魔獣が迫ってきている。
「さて。褒められちゃいますか!」
全35話で確定しました。




