『庭』記念大宴会とvsゲゴ・ラクス
ファチロさんから通信術式の魔導陣紙数枚と、支援のための水や食料、復興のために別途依頼した腕利きの職人を伴って、五台の馬車が『庭』を抜けた。
「すごい……」「本当に片道二日とは……」「魔物に襲われるんじゃなかったのか?」「安心するのは早いぞ。帰りだ、帰りもあるんだぞ」
みな口々に驚くが、無理もないだろう。これまで誰もロクに攻略できなかった『猫の庭』を、こうもあっさり通過したとあっては、ボクを褒め忘れるのも致し方ないだろう。
「じゃあな姉ちゃん! こっちの目処が立ったらファチロの兄ちゃんに連絡すっから、迎えにきてくれな!」
「うん。がんばってねー」
帰りは職人さんたちと馬車一台が減って、カラの馬車が四台と、仕事がなくて不満げな用心棒さんたち。
復路も特に何事もなく、ファチロさんへの報告を終えた。
◆◆◆
……宴である!
シトナイン復興の兆しと、何より『猫の庭』突破を祝して、つまりボクを担いでの大騒ぎは、ボクたっての希望でギルド併設の食堂で行われた。らしい。
「……えぇ……?」
……完全に記憶が飛んでいる。
昨夜の盛り上がりを物語る食堂の散らかりようと、床だろうとテーブルだろうと寝入る人々、何よりちょっと後悔するくらいの二日酔いと痛いくらいの胃の虚無感が、まぁ楽しかったんだろうなってことを教えてくれる。
ボクの隣ではジュリー姉さんも机に突っ伏していて、これはもう余程のことだったんだな。覚えてないけど。
元メンバーたちもボクの向かいに座っていたらしくて、その寝顔はとても楽しそうだった。覚えてないけど。
髪もわちゃわちゃで、みんなからもうめちゃくちゃに撫で回され愛で尽くされたのだろう。覚えてないけど。
あまりにも寂しいので、昨日の出来事を『ラプラスの魔』で確認しようとすると、アンナちゃんに声をかけられた。
「おはよう、アンナちゃん。早いね」
「はい。わたしは昨日自宅に帰っていたので……。すごい有様ですね」
「だね。覚えてないけど」
「でしょうね。それはもうすごかったですから」
「え?」
「パルマさんのはしゃぎっぷりです。わたしもしばらく同席させていただいておりましたが、惚れ惚れする飲みっぷりでしたよ」
「……だから、覚えてないんだって……」
アンナちゃんが持ってきてくれた水を一気飲みして、もう一度あたりを見渡す。
「……うん。みんな楽しんでくれたなら、まぁいいかな」
「そういうところですよ、パルマさん」
「なにが?」
「ふふっ。なんでもないです」
「なんだよー、馬鹿にして」
「してないですって」
「そうなの? そうかも」
「そうですよ」
◆◆◆
シトナイン家。
アンナちゃんに連れてこられた手前来たけど、この頭ガンガン状態でファチロさんに会うと死ぬんじゃないか? ってことで、裏の厩舎で馬くん馬ちゃんとひとしきり戯れてからの挨拶となった。
「――やぁ」
いつも難しい話をしている部屋には、ファチロさんと……ゲゴ・ラクスが席についていた。
「ちっ。ンだよジジイ」
声に出た。
「まぁまぁパルマ、アンナちゃんも、座って座って」
彼ほどの美丈夫が言うのなら……。
アンナちゃんも唇を真一文字に結んで、いつもより硬く感じる椅子に腰を下ろした。
「まずは『猫の庭』攻略おめでとう、パルマ・アウローラ」
「何の用だって聞いてんだけど……です」
「私がシトナイン家から預かっていた東との流通。それをシトナインに返却したのち、シトナインはそれを君に任せようと言っている。事実かね?」
「そっち二人の間でどういうやりとりになってたかはわかんないけど、うん。いや、はい。『庭』を攻略したボクとアンナちゃんの、上手いこと構築した安全ルート……これを使う権利はボクたちにある。よね?」
目配せでファチロさんに確認すると、小さく頷いた。
「ゲゴ伯。あなたの作り出したシステムは確かに合理的で、結果も残している……が、パルマらは犠牲もなく、はるかに短い時間での往来を約束してくれた。いままで不甲斐ない我々シトナインに代わってくれていたことは感謝する。だからこそ、ここで
「ここで、約束を違えると?」
重そうな瞼の奥から、射抜くような視線がファチロさんに投げかけられる。
「っ……そうだ。やはり、お前のような悪魔と契約してまで、落ちぶれてまで生きるべきではなかったのだ……我々シトナインは」
「――その言葉は、君の言葉でもあるのかな? アンナ・ドネドミネ当主代理」
「間違いありません。ドネドミネ当主、父であるロドロスの名代として、ゲゴ伯ならびラクス家との契約を破棄し、再び自立した名士としての再起を表明いたします」
「………………」
え、なに?
ボクはなにに巻き込まれてるわけ?
なんで名士らの舌戦に巻き込まれてんの? むしろボク思いっきり渦中じゃない? ど真ん中じゃない?
「ちょっと、ちょっと待って。約束とか破るとか再起とか、全然わかんないんだけど」
でも、約束がどうこうっていうのは察するところある。ゲゴの依頼で目にした魔導書……『越権契約』の魔術だ。
この魔術だが、文字通り度を越した約束を取り付けることのできる、催眠・洗脳に似た効果を発揮する。らしい。子供がよくやる10分以内にできなかったらチップ100万な! とかの微笑ましいやりとりが、大人の社会で発揮されてしまうというものだ。
「わからなくて結構だ、パルマ。きみはただ、キャラバンの旗印として正しく在ってくれればいい」
「パルマさん。あなたにこんなドブさらいのようなことに関わらせたくはありません」
「……なんだよそれ」
なんか話の外に置いてかれてるなぁ、とは感じてたけど、そういうことだったか。
「ボクにも関係あることでしょ、これ。わからなくていいとか、関わらないで、とか――」
「そうだよお二人さん。今回の件は、こちらのパルマくんあってのこと。名前だけ貸してくれとは失礼ではないか?」
え、なに? 急に肩持ってくるじゃん……怖。
「そしてだからこそ、今回の件はご破算ということになるのだがね……」
「なにを……」
「東部統轄地区の件は私も聞き及んでいる。突然変異の地竜とは災難だった。……その地竜をけしかけたとされるパルマ・アウローラを担ぐというのなら、シトナイン家ドネドミネ家もまた同じく裁かれなければならない――」
ゲゴが立ち上がると同時、フルプレートメイルに身を包んだ私兵がドアを蹴破って現れた。六……いや八人? 窓の外ってことか。それなりに訓練されているらしく、勇み足を見せるマヌケはいないようだ。
「アルキケダマを手懐け、『庭』を好き放題に行き来し、地竜を改造して街を襲わせた。パルマ・アウローラを断罪することこそ、このゲ、ご……っ⁉︎」
朗々と語り出したゲゴが、何かに引っ張られるようにして宙に浮き、鎧男たちを薙ぎ払った。
「本来の予定よりは少し早いですが、仕方ないでしょう。みなさま、失礼しました。もう暫し、ご無礼にお付き合いください」
「アンナちゃん……?」
恭しく礼をしたアンナちゃんの指先から、目を凝らさなきゃ見えないほど細い糸が伸びている――。
『アリアドネの糸』。ボクの左目に宿った異能が、アンナちゃんのそれをそう呼んだ。
褒められたり突然変異難しい話に巻き込まれるピンク髪ちゃんがカワイくて書きました
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