vs地竜(突然変異)/迷彩世界打ち断てセイヴァー
地竜。
東の方に生息している大型の魔物で、ボクたちが住んでいる北の方だとウロコイヌくらいのポジションらしい。正面からのタイマンで勝ったら宴の主役張れる感じのやつ。
四足歩行で、緑色をしていて、大抵街に侵入する前に警備団とかに制圧されるはず……なんだけど。
『ラプラスの魔』から得た知識は整合性が取れている。ウロコイヌってローカルだったんだ、程度の印象だ。
「突然変異ってなんだよ」
左目からの応答はない。
肝心なところはわからないけど、家屋の下敷きになっている子供に駆け寄る。……よかった。気絶しているだけみたいだ。
幸い木の柱と板を組み合わせた建物だったので、子供に目立った怪我はない。素材も軽く、梃子とかで工夫して救い出すことができた。ちょっと爪とか剥がれちゃったけど、じわじわ治ってきてるのでよし!
「もう誰も逃げ遅れてないよな……!」
さらに幸いなことに、やたらとデカい地竜は少し離れていても進行方向がわかる。それとは真逆の方向へ、少年をおぶって走っていく。
あちこちで火の手が上がっていた。家の素材が素材で、夕飯どきだったからだろう。倒壊した建物から続々と火炎が立ち上っていて、炎は壁のようにして、行手を阻んだ。
「……ダメか!」
退路はない。それもそうだ。地竜が進んだせいで家が崩れて、ってことなんだから、アイツの後ろは燃えて行き止まりになるってわけだ。
左目に備わった文字通りの観察眼が当然の帰結だと言わんばかりに、地竜の先を見据える。
「……」
めっちゃ、ヤなんだけど。
じっと完治した手のひらを見つめるほどに、最適解が浮き彫りになってくる。
◆◆◆
地竜に対して真横からやや斜め前辺りにきた。
イカつい顔してんなぁ……。
「きみ、立てる?」
ボクのあまり大きくはない背中で意識を失っている少年を強めに揺すってみると、パチリと目を覚ました。
「……、…………」
よかった。一人で逃げられそうだ。
あまりのことに喋れなくなってるみたいだけど、じき回復するだろう。
「いい? お姉ちゃんがアレを引きつけるから、逃げてね。できる?」
「……!」
少年はボクのスカートの裾を掴んで、首を横に振る。その目は自分も戦う、と訴えかけてくれていた。
うん。きっといい男になるぞ。
でも、それはまだ先で、ここを生き延びてからだ。
「大丈夫。ボクはヨグバ・クリードと友達なんだ。あんなのより、よっぽど怖いんだよ?」
ガオー、とジェスチャーを加えてやると、少年は大きく笑って、涙を拭い、力強く頷いた。
恐るべし魔王ヨグバ・クリード、もとい朝倉イザヤ。あいつなにやったんだよ。今回ばかりは悪名に感謝しなきゃ。
さて。
「じゃあ、走って逃げて。外にはみんないるから、安心して。ボクもすぐ行くから」
「…………!」
まだ小さい後ろ姿を見送り、深呼吸。
「【おい、ボクが相手だ】!」
『統一言語論』で呼びかけると、地竜は無事ボクの方に意識を向けた。
これで……これで、やらなきゃならなくなっちゃったぞ。絶対痛いだろうし怖いんだけど、これで、これで……!
『統一言語論』の異質さに気付いてか、地竜はボクのことを敵だと認識している。
前傾姿勢をとり、体長と同じ長さの尻尾でボクのいる辺りを薙ぎ払った。
結構高さがあったので、伏せてやり過ごす……つもりだったけど、巻き込まれた瓦礫は雨のようにボクを打ち付ける。生身(ボクも生身なのは生身なんだけど)だったら致命傷だったけど、ボクは怪我をしてもすぐ治るのでどちらかといえば無事である。
息をつく暇もなく、振り戻し。大きめの石が飛んできて左腕が吹っ飛んだけど、流血を手繰って回収。ここまでの回復で色々異物を取り込んだけど、この前みたいに普通に馴染むようだ。12キロ増えていると『ラプラスの魔』からの報告。
「なんか……痛いってなんなんだろうな」
だんだんわかんなくなってきて、感じないようにしてから擦り剥いた膝は治る気配がなかった。
「……ウソじゃん……」
まさかと思い、痛みを受け入れてみると、すんなり元のツルツル膝小僧だ。
「ウソじゃないじゃん」
痛くなければボクじゃなくて、ボクじゃなきゃ治らない。当然といえば当然だけど、うん。
「〜〜〜〜ッ! よし、ガンバルゾー!」
力強く突き上げた右腕が尾撃で飛んでったので回収。
こんなに痛いのも全部このデカいトカゲのせいだと思うと、だんだん腹が立ってきた。
本当なら今頃アンナちゃんと野営を始めてたはずなのに。東部統轄地区の人たちも、晩御飯を食べて明日のことを考えてたはずなのに。
「……、うん」
時間稼ぎの予定は変更だ。
「倒しちゃおう」
声に出た。
試しに……キッチンの残骸だろう……その辺に落ちてたナイフで左手の親指を落としてみる。続けてナイフを『スワンプマン』で取り込んでみる。意識してやったのははじめてだけど、ちゃんとできる。
次に、また左手の親指に力を入れてみる。別にこの指に恨みがあるとかじゃないからね? ボクが念じてみた通りに、風船みたいに弾けた。これもよし。修復もよし。
地竜に付着したボクの血液は……反応なし。生物同士じゃ抵抗があるとかかな。傷口とかに触ったらイケるかも。
『ラプラスの魔』を全開で発動させる――また尻尾が振りかぶられている。時間がない――反動で特に頭が割れそうだけど、無理矢理治しながら、この街の全景がぼんやりとだけど視えた。地竜の本来の進行方向、櫓の上で、数名の男たちが据え置きの大砲を構えている。
角度、タイミング、飛距離、偏差……よし。
「【撃って】!」
なけなしの一発を躊躇っていたところを、『統一言語論』でやってもらった。砲弾は尻尾の肉を削いだだけに終わってしまい、本来は一撃必殺を狙っていたところだったのだろうけど、使わせてもらったどうせ撃たなきゃ386秒後に抱え落ちしてたし結果オーライいい加減単調で飽き飽きしてきたしっぽちゃんの傷口からは無事生々しい血肉がみずみずみず瑞々しくて、ボクはそこを受け止めるようにして右手を水平に掲げはじめての直撃――
「ボクの勝ちだ」
地竜の生傷がボクに触れた端から、ボクの一部になっていく。間髪入れず余分になったボクを削ぎ落とすことで、つまり、ボクに触れた端からボクの一部になって、削がれるわけだから……なに?
そう! ボクに触れたとこからブチ切られるってわけだ!
「ははッ」
地竜の四散した肉片が、雨のように降り注ぐ。あまりの痛みに吠えるトカゲだが、あんまりよく聞こえない。
「は、は、ハハハハハハハハ!」
間髪入れず、新しい傷口に触れる。温かいというよりは熱くて、少し冷え症気味のボクには羨ましいことこの上ない。この上ないので、
「これは、ボクのだ」
もらっちゃおうか。
80トン? くらいのよく締まった肉がボクのものになる。
「でも……こんなにはいらないかな」
ボクのものをボクがどうしようと勝手だろう。爪や髪が伸びたら切るし、垢とかは洗い流す。それと同じように、いらない分のお肉は、捨てられるなら捨てるさ。どうせなら派手に!
――そうして、地竜は硬かったんだろう外皮の内側から沸騰するようにして、爆発した。
覚悟キマってるピンク髪ちゃんは健康にいいって医者に言われた時に備えて書きました
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