自立系堕落型ピンク髪
「ホントにここなの……?」
「はい。それから、向こうに見えるのが私の家です」
北部統轄地区の富裕層が暮らす区域。いつだれが整えてるのかわかんないほど広い庭といつどうやって綺麗にしてるのかわからない白い壁の豪邸を見上げる。
アンナちゃんに言われた通り視線をずらすと、これまた豪邸。
「……えぇ……」
ドネドミネ家もシトナイン家も名士の一角だとは知ってたけど、ホントにすごかった。いや、……すごかった。なんならこの区域に入るのに検問があるくらいすごい。ボク1人でハンカチを返しに来ても通してくれなかっただろう。
「では、参りましょうか」
「ボク入っていいのコレ」
「家は入るものですよ?」
「……それはそうだけど」
◆◆◆
「やぁアンナちゃん! 元気だったかい」
「ごきげんようファチロさま」
出迎えたのは、やたら声と背の大きい銀髪の男性だった。アンナちゃんが会釈で答える。
「使用人を雇う余裕がなくて恥ずかしい限りだが、このファチロがもてなそう」
この人だけ音量設定おかしいんじゃないの?
「そちらの可愛らしくもみすぼらしい女性は?」
「はて。こちらの可愛らしく愛らしい方なら、パルマさんですよ。シトナイン家に用があるというので、私が敬愛するこちらのパルマさんをお連れしたのです」
「おやおや! これは失礼失礼。おれはファチロ・シトナイン。非礼を詫びよう、パルマ」
丁寧な謝罪だが、なんか全体的にどこか失礼な人だった。謝るくらいなら声量を抑えてほしい……二日酔いの頭にガンガン響く……。
「あの、これなんだけど」
ハンカチ提示。
「……これは?」
本来ボクが持っているはずのないものだ。先ほどまでの飄々とした態度から一転、ファチロさんの雰囲気が険しくなる。
事情を説明すると、しばし黙り込んだのち、今度は強く手を握られた。
「セジロは……弟はなんと」
「ファチロさんの弟で幸せだったって」
トリップしてたときの自己犠牲発言は……伏せておこう。ボクもあまり話したくない。
「……そうか。そうか。セジロがハンカチを託したという……パルマ、君の話も聞いてみたい」
「や、そういう浮ついたことは全然……」
「そうではなくだね」
ファチロさんの姿勢が、やや前のめりになる。
「何か困っていることはないかい? おれに……シトナインにできることなら、なんでも応えよう。助けになろう。セジロが最期に託した人間だ、それくらいのことはしなくては」
ボクには物心ついた頃から家族がいないので、イマイチ家族愛とかいうのはわからない。
ただ、ファチロさんの目に滲む涙と、力強い手のひらから伝わるものもある。
ボクが何かを頼むことで彼が心の整理をつけられるのなら、頼らせてもらおう。
「じゃあ……仕事を紹介してほしいです」
「……仕事?」
「うん。いや、はい。ゲゴって知ってます? ゲゴ・ラクス」
その名前を出すと、またファチロさんの眉間に深い皺が刻まれた。
「あいつにギャフンと言わせたら、今度は仕事回してもらえなくなったんです。あ、仕事はギルドに紹介してもらってたんですけど、あいつが偉い人だったみたいで」
「締め出された、というわけです……」
アンナちゃんも一歩前へ。
「他にすぐ始められそうな仕事もないし、無一文の宿なしだし、なんかご入用のことはないかなー、って」
「……なんだ、そんなことか……?」
そんなこととはなんだ。
まるでわかんないこと言われてるみたいなリアクションがナチュラルに失礼で、このお兄さんあってのセジロさんだったのだと妙に寂しい気分になる。少し話しただけなんだけどな。
「宿がないなら、ここで好きなだけ寝泊まりしたらいい。今はこう、財産も心許ないが、恩人が望むのなら経済的にもいくらでも支援しようとも」
「ファチロさま、私もそう進言したのですが……」
「なぜだパルマ!」
「なぜ? って。ボクはボクの稼いだお金で気兼ねなくお酒が飲みたいし、気兼ねなく宿で寝潰れたいし、褒められたいし、それからゲゴのジジイを見返したいし、それからそれから……褒められたいしお酒が飲みたい! 以上!」
「……………………」
「こう言って聞かないのですよ」
クスリ、と笑うアンナちゃん。ボクが変なこと言って笑ったわけじゃないようだ。なんで嬉しそうなんだよ。
「……そうか。そうか。いや失敬! おれが見くびっていた! 仕事の話をしよう、パルマ」
豪邸に連れてこられてビビってるピンク髪ちゃんが欲しかったので。




