12. 隠し事 6
お久しぶりです。
更新が亀過ぎて申し訳ない限りですが、宜しくお願いします!
湯を貯めた洗面器を自分の浸かる湯船に浮かべ、ソレイルと武は、互いに向かい合う形で入浴している。
「すげぇ身体してんなぁ」
「騎士、戦う。鍛練、毎日」
「俺も身体は鍛えてるけど、こう・・・・・経験値的なもんはどうしようもねぇか」
男同士の気安さからか、武は目の前で小さいけれども引き締まった身体を惜し気もなくさらしている。精巧なフィギュアの様な男を眺めて、深いため息を吐いた。
顔の造形は彫り深くきりっとした目、高く通った鼻梁。黒みの強い濡髪は、光の加減で所々が黄金色の光を纏い、その絶妙な色具合は宝石の様だ。それに、騎士の仕事でか訓練でかは知らないが、大小様々の傷痕がこれでもかと見える事もあり、男の目から見てもとても『雄み』が強い。
美形だとかイケメンだとか、そういった軽い言葉では、この男を表現するのには今一つだ。
本当に、今なら心から思える。『小さくて良かった』と。
「しっかし、リアルな人形サイズだよな。俺もちっせぇ頃月子と・・・・・・」
一瞬、月子と湯船に玩具を浮かべて遊んだ子供の頃を思い出した武は、更に現在の月子に映像変換しそうになったので、秒で脳内から叩き出した。
「イヤイヤ、待て。流石にヤベェわ」
「ヤベ、べ?」
「い、いや。なんでもねぇっ!!」
「???」
よくわからないといった表情でこちらを見返す小さい男は、こちらの困り具合を察してか、はたまたさ程興味もないのか、有り難いことにそれ以上聞いてくることはなかった。
初めて顔を会わせて数時間。この短時間でも、ソレイルが悪い男ではないとよく分る。言葉はイマイチ疎通が上手くいかないが、朴念仁とまではいかなくとも、実直で筋の通った男のようだ。
何はともあれ、クソが付くほど真面目と思われる。
「おい、約束だろ。なんでもいいから、アンタの魔法見せてくれよ」
月子は既に見たらしいが、自分だって見てみたい。
なにせ魔法だ。
自分だって魔力はあっても使える訳ではないのだ。
映画でも特撮でもない、本物なのだ。
そんなの絶対見たいに決まっている。
「水、いい?」
「なんでもいい、まかせるよ」
ソレイルがおもむろに指先を上げると、武が浸かっている湯船のお湯がゆっくりと波立ち始める。そしてそのまま、夏場は子供に人気の流れるプールの如く、くるくる円を描いて武の身体の周りを周り始めた。
「うおっ?!」
驚き声を上げた武の身体を包む様にしながら、ゆっくりと水流が持ち上がる。そして丁度顔辺りまで水流が上がった所でぴたりと動きが止まり、武の前に円筒状の水の壁が出来上がった。
「すげぇ・・・・・すげぇな!!」
そのまま指先をくるりと回すと、再び武の周りを回り始める。
「・・・・・タケル、魔力、ある?」
そんな『お前も使えるだろ?』みたいな顔されても、俺は出来ないからな?
魔力があれば当たり前みたいな顔をされても困るのだが。
「あー・・・・・っと、俺のはアンタみたいに見せられるタイプじゃねぇんだ。その辺は許可ねぇと。俺の独断じゃ詳しく言えねぇ」
「む・・・・・ワカル、した」
「それにしてもすげぇな、やっぱり羨ましいわ」
「でも、チカラ、モドル 、しない。タリル、しない・・・・・」
その言葉と同時に、水の壁はパシャりと音を立て、何も無かったかの様に、湯船の中に戻ってしまった。
「・・・・・魔力が?でもさ、その身体の大きさで、猪が一撃で倒せるってんなら凄いんじゃねぇか?」
「もっとタクサン。タリル、しない。ツキコ、カンシャ、タクサン。守る、したい。手伝う、したい。もっと、タクサン」
困った様に苦笑いしたソレイルに、武はぺちんと額を指先で弾いた。
「ばかだなぁ、アンタ。この世の中じゃ、そうそう危ない事もねぇ。だから心配すんなよ」
「・・・・・・」
「今はアンタが居てくれるから・・・・・居るだけできっと月子も寂しくねぇし、毎日楽しいんだと思うぜ?アイツのあんな顔は、俺だって久々みたんだ。気にすんな」
「・・・・・」
武を見上げる不安そうな色を宿した瞳は、まるでここではないどこか遠くを見ている様で。
上手く言葉がでない武は、早々に湯から出る算段を実行し始めた。
「・・・・・兎に角、そろそろ上がらねぇとツキコがブチギレる」
「ブ、斬れ?!」
「あーもー、ちっげーよ!絶対妙なこと考えてんな?『堪忍袋の緒が斬れる』って言ってもわからねぇか。兎に角スッゲー怒るって事だ」
武の言葉に、胴体が真っ二つになる月子を想像したソレイルが顔色を青くしたので、武は溜め息ながらに訂正しておいた。
基本的な言葉は解るのだろうが、現代人の言葉の理解は難しいらしい。なんでも他国からすればこの国は、1つの単語に使い方で色々な意味があるし、漢字にカタカナに平仮名とで、難しすぎると言われるそうだから。その上で現代人のスラングを織り込めば、お堅そうな騎士様には言葉の壁はとても厚くなるだろう。
「???」
「おい、もういいからほら、行くぞ?」
そろそろ月子がおかんむりになるとまずい。
武はソレイルを掴んでさっさと浴槽の栓を抜くと、腰にタオルを巻き、適当に洗剤を掛けてタイルをタワシで磨き始めた。
「俺が洗うから、アンタ洗剤を水で流してくれよ。さっきみたいな感じでバシャッと頼む」
「ワカル、した」
「お、ちょっと違うなぁ。さつきから思ってたが、そこは『わかった』でいい。なんでも『した』とか『しない』とかつけりゃいいってもんじゃねぇ。まぁ、その辺は都度教えてやる」
「わかった」
言葉の勉強を交えつつの会話は、思いの外悪くない。どちらかというと弟でも出来たような気分だ。
「これ終わったら月子のおつまみ食いながらまた飲もうぜ!仕事の後の一杯は最高だしな!」
「うまい!ツキコ、料理、好き!!」
キラキラと目を輝かせる小さい男に、武は『胃袋掴まれてんなぁ』と苦笑いするのだった。




