12. 隠し事 7
日付が変わった辺りで、何時までも飲み続ける2人に流石に付き合いきれなくなり、「布団は自分で出してね」と言い残し、月子は呆れてさっさと就寝した。
そして現在朝6時半を過ぎ、もうすぐ7時を回ろうとしている。
何時もより遅めだが、月子が朝食が出来たと武を起こしにきてみれば、スウェットパンツに半袖Tシャツ姿で毛布を抱き込んで寝ている武と、枕元には似たような格好で熟睡しているソレイルの姿が。
朝起きたら部屋にソレイルの姿が無かったので、一緒だとは思ってはいたがまさか一緒に寝ているとは。
自分が考えていたより2人が仲良くなっている事に、月子は胸を撫で下ろした。男同士で気があったのかもしれない。
武は勝手知ったるなんとやらで、月子の祖父と祖母の部屋から布団を運び出し、仏間に布団を二枚繋げて、昨夜ここで眠りについたらしい。
枕元にソレイルの寝るタオルを丸めたベッドも作って置いてあり、2人で遅くまで話しに花を咲かせていたのが伺える。
静かに仏壇にご飯とお茶を上げ、蝋燭と線香に火を着けると、お鈴を1つ鳴らしてから手を合わせる。チーンと響いた金属音に、熟睡していたらしいソレイルが飛び起きた。
「!!?」
「起きて!何時まで寝てるの、もうすぐ7時だよ!?」
「んぁ・・・・もう朝か?」
軽く伸びをしながら上半身を起こした武は、壁の時計に目をやり、目線を月子に戻すと大きく欠伸した。
酒は残っていないが、昨夜遅かった為まだ眠いのだろう。
「俺、休みなんだけど?」
「武くんの日程とか、私には関係ありませんから」
「ひでぇ!」
「それにしても、ソレイルさんがこんな時間まで寝てるなんて初めてですね?と言うか、昨夜は何時まで飲んでいたのかしら、武くん??」
じろりとねめつければ、バツが悪そうに頭を掻いている。
「なんだよ、怒られんの俺だけかよ!言っとくけど、酔いつぶれる程飲んではねぇからな?」
「片付けしてあったのであまり言いませんけど、普通の人間が飲む量では無かったんじゃないかな?とは思います」
空き缶/空き瓶を入れるゴミ袋が、一晩で一袋きっちりと埋まっていた。
しかし、酔わなければ良い訳ではない。
「わーったよ、そんな怖い顔すんなって!次は気を付ける」
「2人とも・・・・・『約束』ですからね?」
「「わかった」」
良い感じに声の揃ったところで、さっさと敷布団等を片付けてもらい、朝食を食べるために部屋を移動することにした。
「お、いい匂い!」
「今朝は昨日買ったなめこで作った味噌汁と納豆、韮の卵焼きと今朝出荷用に収穫した野菜で、お店に出せなかった野菜を使って作ったサラダです。あとは酢の物も。お残しは許されません。あ、そうだ!鶏や他の動物達の餌はもうあげておきました。何時も時間にお腹減るだろうし」
「ツキコ、すまない、謝る、する」
「おい、違うだろ?」
ペコリと下げられた小さな頭を、武が指先でつついて起こす。
「そう言う時は『する』は要らねぇんだよ。昨日教えたろ?」
「すまない、感謝」
「あー惜しい、もうちょい!」
「ソレイルさん、このような場合は『ありがとう』でいいんですよ?私達お友達じゃないですか」
「トモダチ・・・・・ありがとう、ツキコ」
「どういたしまして!」
もじもじと恥ずかしそうに「トモダチ」と言う単語を小さく繰り返しているソレイルは、やっぱり今日も可愛かった。
準備された席に着くと、2人は美味しそうに食べ始めた。
韮の卵焼きは、武の好みで合わせて少しだけ表面をパリッと焼き色をつけたものだ。表面が少しサクッとしていて、これはこれで美味しい。
「ナメカ、コ・・・・・?」
ソレイルがぬるぬるねばねばが苦手であろう事は分かっていたが、昨夜の飲み過ぎを諌めたい気持ちからあえて使ったなめこである。因みに酢の物はなめことすり大根とわかめにポン酢をかけただけのお手軽なものだ。
ぬるりとしたなめこ汁に微妙な表情を見せているソレイルを、月子は見なかったことにした。
「ところで、今日は出荷すんのな。俺も手伝うか?」
「大丈夫、今日は葉ものばかりだから軽いし。でもお店でちょっと話しもあるから、お昼過ぎちゃうのよね。武くんは行く時に家に送るとして、ソレイルさんはどうしましょうか。お留守番てのも暇ですよね?あ、それともまた森に行きますか?」
「なー月子。ソレイルは今日俺が預かっていいか?家に連れてく」
「それはかまわないけど・・・・・大丈夫なの?」
「大丈夫だって。ついでにばーちゃんからうまいこと服でも作ってもらってくるわ」
*******
月子にリュックを借りて、ソレイルを運ぶ。別段自分のバックにも入るスペースはあったのだが、慣れた物の方がいいだろうという月子の意見を尊重することにした。
「じゃ、帰りは俺が送るから。送ってくれてありがとな。もし泊まるって時は連絡するから、心配すんな」
荷台に野菜の入った段ボールをたっぷり載せた軽トラから降りる時も、最後まで心配していた月子には悪いが、たぶん、いや確実に我が家にはバレていると、口が裂けても言えそうになかった。
「いいか?『ハジメマシテソレイルです』だ。間違えんなよ?」
「ハジメシマテソレイルです」
「違う、ハジメマシテだ!」
そうこうするうちに玄関へとたどり着いた武は、新築してろくに住まない内に出た実家の空気を吸い込みながら、まだ真新しい家のドアを開いた。
武にすれば数ヶ月振りの帰宅だ。
「ただいまー」
玄関で靴を脱ぎながら声を掛けると、丁度洗面所の方からしていた水音が止んだ。
「・・・・・武か?」
カチャカチャと物を置く音がした後で、ひょっこり顔を見せた鎮に、武は素っ気なく手を上げた。
「ただいまオヤジ。母さんは?」
「母さんはさっきお友達と温泉行ったぞ。明日までは帰らん」
「そりゃ都合がいいな。ほら」
武がソレイルの入ったリュックを下駄箱に靴を入れながら持ち上げて見せると、鎮がその目をすうっと細めた。
「月ちゃんのおともだちも一緒か」
「やっぱり気付いてたのか。で、ばーちゃんは?」
「さっきは部屋でミシン踏んでたぞ」
「ちょっと俺じゃ解んねぇ事もまだ知らねぇ事もあるだろうし、言っちゃいけねぇ事もあるんだろ?だからオヤジ達に頼もうと思ってさ。なぁ、コイツの相談に乗ってくれねぇ?」
差し出されたままのリュックの中から、おずおずと顔を出したソレイルに、鎮は一瞬目を見張った後で小さく溜め息を吐いた。
「ハジメマシタ、ソレイルです」
「おい、ハジメマシテだろ!」
月子と別れてから庭で少し練習したというのに、やはり付け焼き刃では厳しかったらしい。
「あー・・・・・初めまして、かな?俺は衞守鎮だ。おい武、お前はばあちゃんを呼んできてくれ」
何時も長期間間を開けてしまうにも関わらず、読んでいただきありがとうございます!
仕事の都合等で遅れてばかりのお話しですが、次回も更新頑張りますので、宜しくお願いします!




