12. 隠し事
幼馴染の武目線で進むお話しです。
武を乗せ15分程車を走らせると、月子のよく行くホームセンターが見えてくる。よく行くと言っても月に1回行くかどうかなのだが、食料品も農作業用品も衣服からペット用品まで、なんでも置いているのが自慢で、何ヵ所も店を回るよりとても便利なのだ。
週末は駐車場も混んでいるが、今日は平日の為か入り口近くの駐車スペースも空いており、漢字で『軽』と書かれたそこへ車を停める。
「そう言やお前、何を買うんだ?」
「洗面器かな。ちょっと壊しちゃって。あとはティッシュとかトイレットペーパーとか・・・・・消耗品ね。肉も野菜もだいたい家で植えてあるからいらないんだけど、目についたのを少しは買うかもしれないかな。あ、魚とか海産物は色々買いたいな」
「肉はともかく、海の魚は山にゃいねぇしな」
(その若さで肉も野菜も自給自足とか、どんだけだよ)
きっと月子となら遭難しても生き残れそうだなとそんな考えを思い浮かべたが、それ以前に遭難すらしないだろうと、武は頭の中でそれを打ち消した。
「あ、それとブルーシートを買わなきゃ!」
「お前は・・・・・もっとこう、女っぽいのはその口から出てこねぇのか?」
「出ません。あとシートは縦横7~8m位の正方形ので。畑で使うんだけど、重いし武くんヨロシクね!!」
「ヘイヘイ・・・・・」
先日のピクニック後、猪の解体シートを使った時に、刃先が当たって切れてしまい、ダメにしてしまったのを思い出して買い物リストに追加する。ブルーシートは畑の脇の堆肥に被せるつもりのものだ。
誰が来るわけでもないので気にしなくてもいいのにと武は思うのだが、雨がるとそこらに流れ出てしまうのが嫌らしい。
「さて、いざ買い物・・・・・あ、可愛い!!」
「入口抜けて1歩目でもう引っ掛かるしなぁ・・・・・」
入り口に入るとすぐ右手の壁にペットコーナがあり、ガラス窓の向こう側から可愛い子犬や子猫が出迎えてくれる。
引っ掛かるとは言葉が悪いが、入り口で可愛くお出迎えされたら近付きたくなるのは仕方ない。だって可愛いは正義だ。手荷物のない買い物前ならば、ついそばでゆっくり眺めてしまうのだから、この配置は本当に商売上手である。
「あ、あの子猫可愛い!ふわふわだ!あとこっちの・・・・・なんだろう、柴犬かな?しっぽフリフリしてる!!」
「どっちかってーと、お前のが今犬っぽいぞ?」
キラキラした目でガラスの向こうの子犬や子猫に夢中の月子は、自宅にだって沢山動物達がいると言うのに、とても楽しそうだ。
月子が無い筈の尻尾をぶんぶん振っている様な気がする武は、そう言えば月子は子供の頃から動物が好きだったなと、昔を思い出していた。
月子は子供の頃から、怪我をしたりして弱った小鳥や小動物等を拾っては連れて帰り、拙いながらに治療していた。助からなかった動物も勿論いた。けれど、助かり元気になった動物達は家でそのまま飼うでなく、また自然に還していた。例えどんなに懐いてしまっていたとしても、少し寂しそうにしながら、元居た場所まで行って逃がしてやるのだ。
武はそれに付き合わされて、よく一緒に行っていた。最初の頃は、寂しくて泣いていたのが心配だったのだ。だから1度だけ、『飼わないのか?』と聞いた事があった。離したくなければ家で飼えばいいのに。
それは幼い子供の単純な疑問だった。
今なら、家族の同意だとか飼うことが禁止されている野生動物だとか、色々あったのかもしれないと考えるのだが、月子はその時言ったのだ。
『だって、お父さんとお母さんが待ってるからかわいそうよ』
あの時、幼い武には静かに泣く月子の頭を撫でて慰める事しかできなかった。
月子に両親は居ない。居るのは祖父母の2人だけで、父親の名前も母親の名前も、聞いたことすらない。それは周りの気配りなのか、それとも口に出してはいけない何かがあるのか。武にはそこら辺の事はわからなかったが、月子の家だけは両親は居なくて当たり前だった。名前も知らなければ、何故いないのか理由すら聞いたこともない。
不思議な事に、幼い頃からそれが『当たり前』で日常だった武も、ずっとそれに何の違和感も感じていなかった。
あの時月子は、『家族』ではなく『お父さんとお母さん』と言った。
月子も本当は両親に会いたいと思っていたのかもしれない。幼い子供が周りの家族の様に父親や母親が居ないのを疑問に思わない筈はない。きっと、ただその疑問を祖父母に口に出来ないでいただけなのだろう。けれど、だからこそ、そんな言葉が出たのだろうか。
今更な話しだが、武はそんな事を思い出し、目の前でガラスのガラスに貼り付くようにして子猫を見ている月子の頭に手を伸ばした。
さらりとした髪の感触を掌に感じながら、わしわしとかき混ぜる様にしてやれば、「ヤメテ!」と髪をかき混ぜる手を叩いてふて腐れる。けれど、月子もそれを本当は嫌がっていないのだと、武はもう知っている。
大人になった己の腕に、すっぽり納まるであろう月子の身体は、あの頃より随分小さく感じられる。
ずっと傍で守ってきた。就職して、少し距離を置いてしまったけれど、これからも自分が守らなくてはと、今も変わらずそう思っている。
だからこそ、月子の違和感が気に入らない。月子が秘密を作る事が。隠し事をされている事実が。
「なぁ、お前・・・・・リュックにナニ入れてんだ?」
黙っておこうと思ったが、口に出てしまった言葉はもう引っ込まない。
「え・・・・・っと、なにを、」
言いよどみ、目線を反らす月子の頭を片手でがっちり掴み、しっかり目が合うように自分の方へ向けさせる。
「・・・・・何かあるんだろうと思って黙って知らん顔してたが、やっぱり止めた。なぁ、俺に隠し事するのか?」
「隠し事、なんて、」
「月子・・・・・何が入ってるか知らねぇが、ソレから危ない感じがするんだ」
「ソレイルさんは危なくなんて・・・・・!あ、」
思っていたより大きな声を出してしまい、慌てて口を両手で押さえた月子に、通りすがりの老夫婦がチラリと目をやり、離れて行った。
喧嘩かしら、と、そんな会話が遠くに聞こえる。
「・・・・・ソレイル、さん?」
「ごめんなさい、ちょっと色々ここじゃ話せないの。ちゃんと説明もするし、絶対危ない事はないから。でもここじゃあれだし、家に帰ってからでいい?」
「わかった・・・・・なら、せめてそのリュックは俺に持たせろ。ほら、さっさと買い物するぞ」
「・・・・・乱暴にしないでね?」
おずおずと背負ったリュックを下ろし、周りをチラリと見渡してから武に渡してくる月子の瞳は、少しだけ心配そうに、申し訳なさそうに揺れている。
信頼されていないわけではないと分かってはいるが、こんな所でする話ではなかったかと、武は小さく舌打ちしてぶっきらぼうにそれを受け取った。
「わかってる」
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