12. 隠し事 2
ちゃんと話すと言った言葉を信じ、武は取り敢えずその話しには口を噤む事にした。
少しだけギクシャクしたものの、すぐに普段と変わらない空気に戻ったのは、付き合いの長い幼馴染ゆえだろう。
預かったリュックを背負い、カートを押す月子の横をダラダラと着いて回っていた武だが、入店20分程で早速自分の言葉を後悔し始めた。
「・・・・・確かに、荷物持ちしてやるなんて言ったのは俺だ。だがお前、いくらなんでも多過ぎだろ!?明らかに予定より多いし、カゴ2つも山盛りにしやがって!」
「だって・・・・・せっかく荷物持ちがいるんだから、1人の時は諦めてる大きいのとか重いのを買っておきたくて。あ、まさか持てないとか?」
「カート取りに行った時嫌な予感はしたんだ・・・・・クソッ!男に二言はねぇよ!!」
「大丈夫!駐車したスペースは出入口に近いから、持てない分はカートに乗せて私が押して行けばいいんだし。あとは着いたら私の家に運ぶのを手伝ってくれるだけだよ」
「ヘイヘイ・・・・・」
まだレジへ向かわない所を見ると、きっとまだ買う気なのだろう。
大きなため息を吐きながら、包まれたビニールのせいですぐに滑り落ちそうになるブルーシートを抱え直した。
「良く会ってはいたけど、家に来るのは久し振りだよね。最後は1年位前かな?」
「・・・・・そうだな」
月子の祖母が病気で亡くなり、半年も経たない内に、祖父も後を追う様に亡くなって天涯孤独となった月子は?寂しくて悲しくて食事も喉を通らず、しばらくは家から出ることも出来ない時期が1ヶ月程あった。その時武が、ドアを蹴破り勝手に家に上がり込ンだ事があった。
仏壇の前に置かれたローテーブルに伏せってメソメソしている月子に、『もう泣くな!!』と怒鳴り付け、『泣いてもなんにもらなねぇ、ジジイも婆ちゃんも心配するだけだ。笑えとは言わねぇけど、飯はちゃんと食え。そしたらよ、ちっとは元気になるんだから』と、自分が作った握り拳大で大きく歪なおにぎりを差し出した。
きょとんとした顔をして、じっと武の手の上のおにぎりを見つめる。あまりの形と大きさにか、少しだけ苦笑いを浮かべて、それでも食べようとそろりと伸ばされた手の細さを、武は今でも良く憶えている。
そのまま2人で一晩中かけて、ジジイとばあちゃんの想い出話をした。
裏山に2人で入って迷子になって、2人でジジイに拳骨されたこと。
遊びに夢中になってばあちゃんの植えた野菜の苗を踏みつけてダメにして、ジジイに滅茶苦茶怒られて拳骨喰らったこと。そんでそのままジジイの道具置き場で遊んで、月子の前で格好付けて振り回し、刃物で手を切って血だらけになり、月子が『死んじゃやだ』と号泣したたこと。その時ばあちゃんがとんできて、傷の手当てをしてくれた後、やっぱり拳骨を喰らったこと。
・・・・・あれ、なんか俺、拳骨ばっか喰らってねぇか?
まぁ、ほかにも色々、沢山の想い出を泣いたり笑ったりして話して。夜が明ける頃に月子がやっと思いを出し尽くしたのか、そのままローテンブルで寝落ちた。
子供の頃から何時も一緒にいて、良いことも悪いこともあったけれど、就職してからは顔を会わせる機会自体も減っていて、ジジイが亡くなった後でこんなに気落ちしている事にも気付いてやれなかった事が、悔やまれてならない。
こんな弱い面が有ることを知らなかった。月子なら、独りになっても元気にやっていると勝手に思い込んでいたのだ。
月子の身体をそっと抱え上げると、余程眠れていなかったのか、全く起きる気配もない。それどころか、胸元を掴んで首筋にすり寄ってくる姿に、急に鼓動が早さを増し、顔に熱が集まる。
想像していたより軽い身体は細く柔らかで、意識が変な方向へ向かいそうになるのを、ブンブンと頭を振ってから雑念を払うのに必死になった。
自分にとって大事な1番の親友で、手の掛かる妹みたいな、時々しっかり者の姉みたいな・・・・・大事な家族の様な存在なんだと、ずっとそう思ってきたのだけれど。
久し振りに会う月子は、こんなにも愛しい。話をするだけで満たされる自分がいて、彼女が泣くのも笑うのも、自分の前だけにして欲しいと願ってしまう。
(・・・・・今更幼馴染を抜け出すのって、難しそうだよなぁ)
泣きすぎと擦りすぎで月子の瞼は真っ赤になり、パンパンに腫れていて痛そうなそこへ唇を寄せ、細い身体をベッドへそっと下ろした。
自分の鈍感さに頭を殴りたくなったが、自分の気持ちに気付く事が遅かったとしても、きっとまだ遅すぎる事はない筈だ。
実家へ帰るとそのまま布団に倒れこんで丸1日眠っていて、目が覚めた時に決めたのだ。
全く意識されていないのは解っているから、これからはもっと月子の側へ行こうと。
・・・・・それなのに。
『ソレイルさん』とはなんだ。明らかに男の名じゃないか。
自分が居ない間に何があったのか、不穏な気配をさせるリュックの中に、殺意が芽生えるではないか。
「・・・・・さて、これで最後!」
買い物を続けていた月子の言葉にはっとして、軽く咳払いを1つ。
危なかった、ここは殺気立つ様な場所じゃない。
「・・・・・おう、さっさと帰るぞ」
缶ビールの6本セットを2つ入れ、レジへと足を向けた。
「ご飯食べて帰るでしょ?ビールで良かった?」
「お、ありがとな!」
「お礼に武くんの好きなの、いっぱい作るからね!」
そう言って笑い掛けられるだけで、満足してしまう自分のチョロさに心の内で苦笑いしつつ、とりあえずはどうやってこの量を袋に詰めるかを考える事にした。




