11. 幼馴染
車検が済んだとメールで連絡が来て、今日は急遽預けてあった車を取りに街まで行く事になった。
銀行に用事があるらしい鎮さんが行きは送ってくださるそうで、帰りにちょっと寄り道して、先日ソレイルさんに壊された洗面器と日用品を少し買い足す予定だ。
「ソレイルさんも行ってみますか?人が多いので、リュックの隙間から覗く位しか出来ないかもしれませんけど・・・・・折角だし色々見てみるのも気分転換になりますよ。気を付けるのは行きだけで、車を受け取ったら車内では出て来ても大丈夫だし。あ!でも、人が近くに来たりした時は、隠れて貰う事になるんですけど」
「行く」
迷う事無く即答したソレイルは目を輝かせていて、また少し子供の様な顔を覗かせている。家か初めて目にする物が多いので、きっとまた此方へ来たばかりの頃の様な反応を見せてくてそうだ。
「わかりました!では鎮さん・・・・糸さんの息子さんなんですけど、行きは乗せて行って下さるそうなので、買い物は帰りになります」
「わかった」
「では行きましょうか!」
車検を頼んでいた所には、幼馴染みで鎮の息子の武が働いている。因みに連絡をくれたのも彼だ。
就職してからはあまり会えなくなっていたので、今日会えるのを楽しみにしている。
武は少し口は悪いが、喧嘩も強い上に背も高いし、ぶっきらぼうではあったが優しいので昔からよくモテていた。
まぁ、それが原因で中学・高校と女子の群れに色々やっかまれたりしたのだが・・・・・今となってはそれも良い思い出だ。
学生時代のアレコレを思い出しながら歩いてソレイルと共に徒歩で山を降りると、民家が見える前に、すぐリュックに入ってもらった。ソレイルさんのリュックに入るスピードが、早すぎて神業みたいになってきている気がするのは、気の所為じゃないはずだ。
此方に気付いたのか、車の中で手を振っている鎮さんの方へ手を振り返してから駆け寄ると、急いで車の後部座席に乗り込んだ。
「月ちゃん久しぶりだね」
「おじさんも元気そうで!」
「たまには遊びに来なよ。遠慮なんかしなくたって、うちは大歓迎なんだし」
「ふふふ、おじさんの大歓迎はオツマミとお酒でしょ?」
「ありゃ、バレてたか!」
「飲み過ぎるから怒られるんですよ?」
1日片手で足りる程度のバスしか行き来していないこの地区は、車等が無ければ買い物1つ出来ない。今回は車検の済んだ車を取りに行かなくてはならないから『ついでに乗せていくよ?』との申し出はとても有り難かった。
見渡す限り畑、畑、山。そして森。又は林か。合間に道路と言うか農道?舗装すらされていない砂利道の箇所も一部有る位だ。
わかってはいたが、改めて別の目線から見てみると、やはり随分田舎で、しかもノートに描いたパラパラ漫画の様に、その似たような風景がずっとくるくる回っている様に景色が巡る。なんと言ったらいいか、とにかく緑が多い。
すっごく目には優しいけど。
「そうなんだけどさぁ・・・・・あ、そう言えば猪肉ありがとうな!角煮も旨かったよ!」
「どういたしまして!あ・・・・・そう言えば、家の裏で熊が出たんです」
「え、熊?!でも、ここらはいないはずだ・・・・・見間違いじゃないの?」
「いいえ、子連れの・・・・・恐らく雌の熊でしょう。うちの畑や動物達には被害が無かったですけれど、伝えておく方が良いかと思って。私の姿と罠にかかってる猪を見て近付きはせず去っていったので、人間を恐れてはいるはずです。たぶん民家の方へは降りて来ないと思うのですけど・・・・・注意はしておいた方が良いかと思います」
「熊がどっかから逃げたとは聞かないし・・・・・でも、うん。注意を呼び掛けとくよ。ありがとう」
「いいえ」
熊について色々聞きたいことがありそうにしている鎮だが、申し訳なく思いつつ、うまく説明出来そうにないので予め準備しておいた設定で話を進める事にした。
本来であれば信じてもらえないか可能性が高いし、若しくは大騒ぎになる案件なのだ。けれど、なんとなく聞いて欲しくないと言う空気を察してくれたのか、ただ信じてくれただけなのか、それ以上詳しく聞かれることもなかった。
「ところで月ちゃん。リュック、新しいのに変えた?」
「え!?いえ、何時ものですよ?」
「そう?なんかちょっと・・・・・雰囲気が違うかと思ったんだけど気のせいか」
「まだしっかり現役で頑張ってくれてます!」
「すまんすまん!あ、着いたよ。武に会ったらたまには帰れって言っといてくれ。最近ちっとも寄り付かないんだ」
「わかりました、伝えますね。送ってくれてありがとうございました」
「じゃ、くれぐれも気を付けるんだよ?」
「はい!」
小さな自動車の修理工場前で鎮の車を降りると、お礼を言って別れた。
少し遠回りになるのに、わざわざ送ってくれる鎮には頭が上がらない。明日はお礼に何か作って届けようと思う。
ブロック塀に付けられた小さな看板に、『のむら板金』と書かれた中へと入り工場の前に立ってみたが、外からぱっと見た感じでは誰もいない様に見える。
門の呼び鈴を押しても誰も出て来てくれない。うん、もう仕方ないよね?
「あのー、車検をお願いしていた泉と申します」
開きっぱなしの事務所のドアから少しだけ顔を出し、思いきって声に出してみると、事務所から作業場へと繋がる奥のドアの方から「はーい」と年輩の男性の声が返ってきた。
「こんにちは、泉と申します。メンテナンスと車検が終わったって聞いて、車を取りに来ました」
「あー、武の!ちょっと待っててな。おーい、武!例の子来たぞー?」
車が宙釣りになっているその奥で、繋ぎ姿の幼馴染みが車体の下から顔を出して見せた。
「あぁ、やっぱりさっきのはお前の声か」
「武くん久しぶりだね!」
そのまま作業を止め、汚れた顔を首に引っ掛けたタオルで雑に擦りながら、目の前まで来ると、白い歯を見せてにかりと笑った。
「お前・・・・・元気だったか?熱とか出してねぇ?」
「うん。最近はずっと調子いいよ!」
「具合悪い時は家を出ずに、ちゃんと家の中で大人しくしてろよ?」
「もう、わかってる!」
「へーへー、ならいいけどよ・・・・・あ?」
「どうかした??」
「お前、そのリュック・・・・・」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ。新しいのにしたのか?」
「ううん・・・・・?前から使ってたやつだよ。なんで?」
「いや、何かちょっと違って見えただけだ。よく考えたらよ、洒落っ気も無いお前が、使えるもん有るのに買い直すわけねぇわ」
「ちょっと、それ言い方酷くない?!」
「事実だろーが」
そう言ってにやりと笑った武は、私の頭に手を乗せて、犬でも撫で回す様にして髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
「鎮さんが、たまには帰れって言ってたよ」
「わーってるよ。丁度今日この後連休貰ってるし、帰る予定なんだ」
「良かった!おば様も糸さんもきっと喜ぶよ!!」
「おう。そんでだが、お前俺を乗せて帰れ」
「え?なんで???」
「何でって、次は俺の車を車検に出すんだよ。お前のみたいにエアコンが壊れてたりラジエーターがダメになってたりって、弄るところが多い訳じゃねぇから7日もかからねぇ筈だしな」
「うわ、金額知りたくない・・・・・」
「ま、気を遣ってこっちも頑張ったんだが、今回エアコン修理にラジエーターも取り替えてるし、タイヤも4本共替えてるからな。因みに20は越えてる」
「だよね・・・・・」
わかってた。うん、エアコンが故障した時点で、薄々そんな気はしていた。エアコン修理高いもんね。
「そう言えば私、連絡来た時金額を聞いておかなかったから、一万円札25枚しか持って来てないんだけど足りるよね??」
「あー、そう言えば言い忘れてたな・・・・・すまん。でもま、大丈夫だ足りてる」
「でも私の心はへし折れそうだよ・・・・・」
「次の時は今回の半分もかからねぇ筈だし、今回は諦めろ」
「はーい・・・・・」
やっと幼馴染出せました。毎度不更新遅くて申し訳ないです!




