10. 青い火
向こうがどうなっているのか、短い話しです。
ソレイルが嵐を魔力で相殺してから20日が過ぎた。
未だ本人は行方不明のままではあるが、捜索隊はソレイルの母で元魔法師団団長で在られたハイデレーゼの進言をもって、捜索を打ち切る事になった。
「ハイデレーゼ様、捜索を打ち切るなど・・・・・ソレイルが心配ではないのですか?!」
「ふふ・・・・・大丈夫。生きているのは判っているよ。ソレイルの命を現すこの魔石が、まだ元気に炎をとも灯しているのだからね。因みに、こっちのは旦那様のだよ。あぁ、そう言えば昔、アルには何度か見せたことあったね」
ハイデレーゼが、シンプルな蔓草模様の彫り込まれた、艶やかな黒みの強い海老茶色の棚から鍵を開けて取り出して見せたのは、迷子を見つける時や遭難者を見つける時に重宝される魔力を宿した魔道具だ。
魔石の中に予め本人の身体の一部(髪や爪)と魔力を注ぎ、現在の居場所の映像や、生死の判定迄を現す優れものである。
元気なら青、命の危機は赤、衰弱している時は黄色と、色で示してくれる。
「それは・・・・・子供の頃ソレイルが森で迷子になった時に使っておられたモノですね?」
「御名答。映像は・・・・・恐らく魔力切れを起こしているのだろう。映し出してはくれないが、炎は青だ。だから大丈夫さ。旦那様も放っておけとおっしゃってるし」
「ですが、では!では・・・・・何故ソレイルは帰らないのですか?!」
「さてね・・・・・そこまで分かる程、この魔道具は上物ではないからね。古い物だし。ただ、昔からその為だけに使っていた分、精度は高いよ。それに、あの子はずいぶんと無茶をした様だから・・・・・何処に居るのか知らないが、帰ってないのは恐らく、『帰れない何か』があるのだろうよ。青い炎がずっと点っているから命の危機ではないし、元気にしているはずさ」
「ですが・・・・・」
「アルフレッド」
この話はここまでだと、名を呼び細められた目に言葉の続きを飲み込んだ。
「わかりました、『叔母上』」
「・・・・お前は隊を任されたのだろう?最近王都周辺にまで現れる魔物が増えて来ているじゃないか。こんな時にソレイルの為に人員を裂くことを、アレが良しとはすまい。分かったらお前は、今ある自分の仕事に集中しなさい」
「・・・・・はい」
何か異変がわかったらすぐに連絡するからと諭され、アルフレッドは渋々エルデ伯爵家を後にした。
確かに、ハイデレーゼが言ったように、ここ最近は魔物の類いが増えていた。
特にソレイルが居なくなってからは、例年の倍近い量にまで跳ね上がっているので、アルフレッドや他の隊員達も、ソレイルの捜索に加え王都周辺の魔物討伐に治安保持と、休みをとる暇さえない有様で。今日もほんの小一時間程出来た合間に、アルフレッドがハイデレーゼの元へ訪れたのだ。
副隊長であるアルフレッドは今、追い詰められていた。
ソレイルは隊長自ら隊舎に居住し、寝食を共にしている。そのせいか、隊長を勤める隊は良い信頼関係が構築されており、其処らにあるお飾りの様な纏まりの無い隊とは違う。
国内最強とまで謳われる剣技と魔力を誇るソレイルは、隊のカリスマであり強さの象徴とも言えるのだ。だから今の、頭の居ない部隊は少し不安定になっていた。副隊長とは言え自分がいくら頑張ったとして、他の隊員から自分がソレイルと同じ信頼を得ることは難しいだろう。
自分では隊の実力の総てを出す事は恐らく出来ない。それがどんな隊のひずみになるか、引いては命を危険に晒す事になるかも知れないのだ。
「クソッ・・・・・あのバカどこ行ったんだよっ!!」
あの時の凄まじい圧を伴った、魔力の膨らみ。そしてその後に起きた、爆発の様な大気と地面の揺れ。
後に残ったのは、抉れた地面だけで他には何も無かった。あの渦巻く嵐も、暗雲も、倒れた木々さえ、総て掻き消された様に何一つ残っていなかった。
ソレイルの身を案じた王から捜索を命じられるも、手掛かりは何一つ見つからぬままにここまで来てしまい、ただただ、時間だけが過ぎる。
「アイツ・・・・・・帰ってきたら絶対一発殴らないと気が済まん」
馬の鐙に足を掛けながらアルフレッドから溢れた言葉は、その背に乗せた馬だけが聞いていた。




