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9. 森 6


 ツキコの料理は何でも美味しい。エアドボーデンでは食べる習慣のない『米』で作ったおにぎりは、甘味がありもちもちした食感で何とでも合うし、いくらでも食べられる。そしてあの『角煮』!硬い猪肉があんなに柔らかくなっていて、口の中で脂身がとろりとほぐれ、肉はナイフも要らない程だった。

 

 疲れて要るのだろうに、使い終わった食器を満足そうに洗っているツキコは、とても機嫌がいいらしい。

 

 シンクの窓際に凭れて眺めながら、本日食べた『角煮』を思い出してい 口元が緩む。

 ツキコの料理は、どれも食べたことのない味で美味しい。何時も楽しそうに料理を作るその姿を眺めるのが、実は密かな楽しみでもある。

 

「ふふふ、美味しく出来て良かった!やっぱりお肉が新鮮だったのも良かったわ!」 

 

 最後の皿を洗い終え、タオルで手を拭いているツキコと目が合えば、優しい笑顔を向けられた。

 

「オイシイ。カクニ、スキ」 

「そんなに美味しかったんですか?気に入ったならまた作りますね!お肉も沢山有りますから」 

「アリガト!」 


 そう言ってツキコが笑うから、ついつい甘えてしまう。

 

 ここへ来て少し・・・・・いや、かなり子供の様に童心に帰っている自覚はあるのだ。見るもの触れるもの全てが珍しい物ばかりで、毎日楽しくて、自分が残してきたもの事を忘れそうになる。

  

 魔力は少しずつだが戻り始めている。だが、魔力が完全に戻ったとして、どうやったら帰れるのかは判っていない。どうすることもできない現状に、そう思えば思う程不安ばかりが(つの)る。

 

「どうしたんですか?ソレイルさん。急に暗い顔をして」 

「・・・・・ダイジョブ」

 

 せめてツキコには心配を掛けたくないと、咄嗟(とっさ)に顔に笑顔を貼り付けた。

 

「『ダイジョブ』、じゃないでしょ・・・・ソレイルさん。そんな絵に描いた様な顔で」 

「うん・・・・・?」

 

 絵に描いた様な顔とはどんなものか。そんな変な顔だったろうか。

 確かに、正直言って他の貴族よりは作り笑いがあまり得意ではない。けれど、一応貴族の嗜みとして幼い頃から笑顔を作る練習もさせられて育った身としては、大変不本意である。

 

「ここにいる間だけ・・・・・せめて、私の前でだけでも無理して笑ったりしないで下さい」 

「?」  

「どっかの肖像画みたいな笑顔でしたよ、今の」 


 どうやらツキコにこの笑顔は、逆効果だったらしい。


「すまない。国、ダイジョブ、シンパイ」

「そうですね、帰る方法が解れば・・・・・・せめて、向こうがどうなっているのか知る事が出来たらいいのに」 

「・・・・・シンパイ、でも、毎日タノシイ。ゴメンナサイ」

「ソレイルさん・・・・・」  

 

 毎日をツキコと共に過ごす中で、ふと浮かぶ漠然(ばくぜん)とした不安。

 今すぐにでもどうにかしたい気持ちと、けれども現状では何もできない自分にやるせなさを感じる気持ちとで、頭の中がぐちゃぐちゃになる。それなのに、毎日楽しいと感じている自分。更にはそれに罪悪感も感じていて、時々押し潰されそうになる。

 

「ツキコといる、タノシイ。でも・・・・・」 

「ソレイルさん」 

 

 (たしな)めるように名を呼び、ツキコがその手で身体を掬いとる。

 

 彼女からすれば、この身体のなんと小さいことだろう。

 

 毎夜、夜遅くまで『パソコン』と言う物を使って、調べ物をしているのを知っている。パソコンを使えば、色々な『情報』を知ることが出来ると聞いた。

 早く寝ないと身体に悪いと言っても、なかなか止めようとしない。

 始めは何をしているなかちっとも解らなかったが、それが自分の為である事を、今はもう理解している。

 

 ツキコがその気になれば、小さな自分など一握りでぺちゃんこにも出来る筈だ。けれど彼女は何時だって、優しく、暖かく、自分を包み込んでくれる。

 そう、何時だって。初めて出会ったあの時からずっと。

 

「・・・・・ツキコ、手伝う、する。調べる、する」 

 

 彼女の掌の中、小さな子供の様に(うずくま)る。

 さっきまで洗い物をしていた手は冷たい筈なのに、じんわりとした温もりが自分の身体を包み込んでくれる。

 

「・・・・・・不安ですよね、すみません気付けなくて。何もしないより気が紛れるだろうし、今日から2人で一緒に帰る方法を探しましょうね」 

「アリガト!」  

「折角だからパソコンの使い方も覚えてみましょうか!」 

「パソコン!使う、する!」 


  この日から、寝る前に2人でベットに並び、ノートパソコンでネットサーフィンするのが習慣になるのだった。







 



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