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9. 森 4

※猪を解体するシーンがありますのでご注意下さい。


 べっちょりしないようにと、米粉を少し多めに使った唐揚げは予想以上に硬く、1口齧るとかりりと硬質な音が耳奥へと響いた。

 

「すみませんソレイルさん。唐揚げ、ちょっと硬すぎましたね」

 

 着ているシャツの両袖を捲り、豪快に唐揚げを両手で持ち上げてかぶり付いて食べているソレイルは、まるでリスのように、頬を膨らませて口内の唐揚げを咀嚼(そしゃく)しながら「ダイジョブ」と言った。

 

「何時も思うんですけど、ソレイルさんの身体の体積より、食べたものの方が質量が大きいとおもうんですけど」

 

 ソレイルが食べたものは一体どこへ行っているのか。食べたからと言って、お腹が膨らむ訳でもないから摩訶不思議(まかふしぎ)

 

 健康が1番をモットーにしているから、食事制限や無理なダイエットなんかもしたことはない。一応は女子として、常日頃から気を付けてはいるが、食べたら動くを基本にしているくらいだろう。正直言って、他の一般的女性より気にしてはいない方だろうと思う。

 

 だが、それにしてもだ。


「・・・・・羨ましい!」

「?」

「いいえ、なんでも。あ、これも食べて下さい。こっちが普通のサンドイッチで、こっちは糸さんちの庭で実ったブルーベリーのジャムをクリームチーズと和えたのが挟んでます。唐揚げの後だとちょっとこってりかもしれませんが、口直しにはいいですよ」 

 

「糸、イタダキマス」 

 

 小さくカットされたサンドイッチ達に、小さくペコリと軽く会釈してからソレイルは手をつける。

 

「ブルーベリーとクリームチーズの方は、甘いからコーヒーと一緒にどうぞ」

 

 右に卵、左にはブルーベリー色をくっ付けた頬は小さい子供の様だ。

 つい拭いてあげてしまいたい衝動に駆られるが、なんとかこらえて持ってきたウエットティッシュを1枚抜き取りそっと差し出した。

 

「アリガト」 

 

 にかっと笑ってお礼を言う姿が本っ当に可愛いんだけど、ここはまたしてもぐっと我慢だ。

 

「それにしても、魔法を使ったにしろどうやって血抜きとか下処理も終わらせたんですか?」 

「水、風、イロイロ。ツカウ、する」

 

 話を詳しく聞いてみると、分厚い皮膚は魔法で水を薄く勢いよく動かしたり、細く絞って噴出させることで水圧を使って切ったりしたのだそうだ。あとは自前の剣を使ったらしい。

 内臓は傷付けないように綺麗に取り出されており、心臓や肝臓、腸等も既に綺麗に洗い流してあった。

 しかし、一体どんな水圧を掛けたら脂ののった立派な猪の腹の皮を裂けるのだろうか。凄く気になる。

 

 因みにどうやら元来魔力の量が普通の人より多いらしく、普段は多過ぎて扱いきれないので使わないらしい。だから、魔力の少ない今の状態でなくては細かい操作は出来ないのだそうだ。

 

 

 

 

*******


 

 

 

「さて、お弁当も食べたことだし解体作業に入りましょうか」 

 

 ソレイルの魔法で立派な木がお辞儀するように腰を折り、月子の前に太い枝を差し出したので、その隙に猪の脚を縛ったロープを結びつける。すると木はゆっくり元の姿勢へと戻り、簡単に猪を逆さに吊る形になった。

 

 数種類あるナイフの中から皮を剥ぎやすいものを選び、手元に気を付けながら、後ろ足から頭へ向けて皮を剥ぎぐ。すぐに切れ味が落ちるから、ナイフはその度に取り替える。

 頭のまでくると、大きいナイフに持ち替えてから、頸椎(けいつい)の間にナイフを入れて頭を落とす。

 

 祖父が使っていた解体用ナイフはしっかり手入れをしておいたからよく切れる。

 自分の手を切らない様に気を付けながら、関節の軟骨にナイフを入れて骨をはずしながら肉を切り分け、持ってきていた袋に入れて密封し、又川の水にさらしておく。

 

 女の力で解体は流石に時間が掛かるので、冷やして雑菌の繁殖はなるべく抑えたいところだ。

 

「・・・・・こんなものでしょうか?」

 

 大きな腿肉(ももにく)と腕、骨を外してブロック分けした肉を全てソリに乗せる頃には、月子はすっかり疲れきっていた。

 途中ソレイルも手伝いをしていたのだが、それでも立派な猪1頭丸々全てをやるのは流石に無理があったかもしれない。

 

「ツキコ、ダイジョブ?」  

「あー、ギリギリ。帰る体力は本当にギリギリではないかと」 

 

 骨や頭、内臓は取り除いたが、正直言って引いて帰る自信がない。

 

 深いため息は喉元で呑み込んで、リュックを背負いソレイルを肩に乗せると、ぎゅっと引き綱を引く。 

 

 ぎち、と縄が鳴き声をあげ15㎝程前へ進んだが、それきり動かなくなってしまった。草や刈り取った枝なんかが引っ掛かるのだろう。


 (これはかなり骨が折れそうだな)

 

 最悪の場合は、持ち帰る量を減らすしかない。けど、又来るのも面倒だ。

 

「・・・・・オス、する」

「へ?」 

 

 びゅう、と風がソリの背を押すと、引いていた自分の力が後押しされて随分楽に前へ動かす事が出来た。

 

「・・・・・これも魔法?」 

「風、ツカウ」 

「わわ、凄い!ソリと私の背中も押してくれてるの?!凄く楽に歩けそう!」

「よかった」  

「ありがとうございます!」 


 

 

 

 

 

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