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9. 森

投稿失敗していた分を手直ししつつ上げていきます。

ご迷惑をおかけしします。

 


「タダイマ」


 月子の部屋。少しだけ開けたままになっている窓の隙間から、小さな身体がするりと滑り込む。

 声が聞こえなければ、いつ帰ったのかすら気づかないだろう。気配を感じさせないその動きは、毎日欠かさない鍛錬の賜物だ。


 朝食の準備を終え、今日も朝の鍛錬だと出ていったソレイルを待っていた月子は、その声に笑顔を向けた。朝食前と夕食前、必ず1時間程裏の森へ窓から出て行くソレイルのストイックさには驚かされる。



「お帰りなさい。鍛練も良いですけど、あまり無理はしないでくださいね?」

「ツキコ、これ」


 小さな身体を両手で掬い上げようと両手をだせば、武骨な手に差し出された小さな花。ソレイルが持てば丁度いいが、実際は月子が指でつまむ位の大きさのそれを受けとると、鮮やかなピンクがふるりと揺れた。


「可愛い蓮華(れんげ)!私に?」

「お礼、何時もアリガト」  


 明日には枯れてしまうそれは、小さな身体とは言え、屈強な男性が持つにはずいぶん可愛らしい。男性から花なんて貰ったことがないから、自分の為に持ってきてくれたのだと思うと、月子はなんだかむず痒い気持ちになった。


「嬉しいです。男の人に花を贈られたのは初めてだから・・・・・ちょっと照れますね。これ、どこに咲いてました?私も子供の頃に、レンゲが沢山咲いている場所へ行ったことがあって。小川のある辺りですか?」 


 小学校より前だったか。祖父母とお弁当をもってピクニックをした事があった。祖母のお手伝いをながら2人でサンドイッチを作った。

 小川で祖父と魚釣りをして、小さな魚を何匹か釣り上げて、けれどまだ小さいからとそのまま逃がしてあげたっけ。


「川、ある」 

「折角だから、この花が咲いている内に、お弁当作ってピクニックしましょうか。色々美味しいもの作りますね!唐揚げとか、おにぎりも!」 

「オニギリ、スキ!!」 

「ああでも、この辺りの山には猪や鹿いますから気を付けなくちゃ。流石に熊はないけど、跡は鹿も猿なんかもいます。この辺りにから下へは降りて行かないだけで、家より奥に行けば色々います。だから、独りで鍛練とか修行もいいんですけど、くれぐれも気を付けて下さい」


 何時だったか、猟師の祖父が森の奥で熊を狩ってきた事があった。この辺りには居るはずのない生き物だったが、大人になったばかりの若い個体だったせいか、随分と大きく毛艶よかったのを覚えている。

 車も通れない道なのに、巨大な熊をどうやって家まで持ち帰ったのかはわからないが、血抜きした翌日には祖母が熊鍋にして食べさせてくれた。

 熊の独特な獣臭が強く、苦手な人も多いかもしれないが、若い熊は肉も弾力があり脂身も多くて食べごたえがあった。 


「ダイジョブ。狩り、できる」 

「え?」

「狩、する!」

「そうなんですね!ではなんか出た時はお願いしますね!」


 自信満々で小さい身体の胸元を、とんと拳で叩いて見せる姿は勇ましい。


 きっと向こうの世界では強かったんだろうなと、年上相手に月子は微笑ましく思う。


「・・・・・帰り、クマ見るした。狩る、いい?」

「え、今?・・・・・って言うか、クマ!?ここらには居ない筈なんですけど・・・・・いやそれより、危ないからダメです!!」  

「ツキコ・・・・・クマ、食べるしない?」 


 それはそれは残念そうに見上げてくるソレイルは、目の前のお菓子を取りあげられた子供の様な表情だ。


 (ダメ・・・・・可愛いからやめてくださいって言ってるのに!)←言ってない


「もしかして・・・・・熊肉が好きなんですか??」 

「スキ!母、よく狩る、した。沢山食ベる、身体大きい!」 

「・・・・・」 


 お母さんが、熊を?とか、食べたら大きくなるものなの???とか思いはしたが、満面の笑顔に月子は突っ込む事を諦め、今度こそその小さな身体を両手で掬い上げた。


「ソレイルさんは強いのだろうとわかっています。でも、身体が小さいので心配なんです」

「ダイジョブ。見た、クマ、大きい。でも、ここの、弱い」 

「・・・・・ソレイルさんの所では、魔獣とか出るって言ってましたね。隊長さんなら強いんでしょうけど・・・・・それでもやっぱり心配です」  

「ダイジョブ!」

「そう言われても、心配なんです!!」

「ツキコ。今、気配近く。アブナイ」

「え、今ですか!?」

「夜、アブナイ。ここ、鶏、山羊、タクサン。今行く、したい」


 どうやら家の近くに熊の気配がするそうで、暗くなる前に何とかしたいとの事らしい。


 (うーん。狩猟期間ではあるけど・・・・・)


 狩の時期は決まっている。確かまだ期間中だったはずだがと、悩んだ所で役所やなんやと話を通すと時間もかかる。それから狩猟組合へ連絡が行ってそれからとなると、更にだ。冬眠明けの熊なんて遭遇するのは御免だし、鶏や山羊等も庭にはいる。ましてや麓の民家へでも向かったりしたなら大問題だ。


「わかりました・・・・・本当に、できます?危なくない?私も行ったらダメですか?」

「行く、ダメ。狩ったらツキコ、呼ぶ」 

「私も・・・・・少しならお手伝い出来ますよ?」 

「クマ、大きい。ツキコ、狙う。ダメ!」


 結局押し切る様にして、鎧も着けずに窓から出て行った。 


「罠なんかもあるんだけど・・・・・準備してないし熊は流石に無理か。でも本当に大丈夫かな?怪我とかしないといいんだけど」


 強いとは言われても、正直に言ってどんなレベルの強さなのか検討もつかないので、心配でしかたない。如何せん小さいのだ。それだけでも不安が増す。

 


「無事に帰ってきて・・・・・」


 既に出ていった後の窓を見ながら、月子は祈るように小さく呟いた。





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