対魔獣戦
戦士達は大通りをひたすら北へ駆ける。
重々しい装備の彼等は見た目に反し風のように駆ける。
やがて大通りに魔獣らしき影を捉えると、走る速度もそのままに武器を抜き、雄叫びをあげて突っ込んで行く。
魔獣は咆哮から予想された位置にうずくまっており、戦士達を片眼で睨みつけ吼えた。
「ガアアァアアアーッ!」
魔獣が後ろ足だけで体を支え立ち上がると、前足を振りかぶり戦士達を待ち受けた。
このまま戦士達を前足で払い退けるか叩き潰すかするのであろう、魔獣の攻撃が安易に予測できるにもかかわらず戦士達は止まらない。
「喰らえや!このわんころがっ!」
ザックがまるで前転するがごとく両手で斧を投げた。
魔獣は、前足が届くか届かない至近距離から放たれたザックの斧に慌てて振り上げていた前足を防御に下ろすが、それが間に合う事もなくがら空きだった腹に斧がめりこむ。
「ギャアャアアァー」
4足歩行の獣が後ろ足だけで立ち上がるということは前足を下ろさなければ回避行動も防御も出来ないということである。
その体勢のままザック達全員を間合いに迎い入れた時点で、例え斧が防御できたとしても他の者の捨て身の一撃をかわすことはできなかった。
ザックの斧はこの時魔獣に致命傷を与えた。
さらに続く戦士達も、ザックの攻撃で怯んだ魔獣にそれぞれ手応えある一撃を入れることに成功する。
だがそれでも魔獣が倒れることはなかった。
一撃を入れた戦士達は続けて攻撃することもなく急いで間合いを取る。
彼らは無謀に突っ込んだわけではないのだ。
「チッ、しぶてえな」
ザックが魔獣の初手に合わせて防御もせずに攻撃し、隙を作る。
ザックは簡単に、俺が最初にやる、あとに続け、と宣言していただけだが、打ち合わせ通りの仕事だといえる。
続く戦士達全員がそれを信じ魔獣に突っ込んだのはザックの人徳であり、[Cランク]ハンターのカリスマだった。
あらかじめザックが宣言してた通りの流れで、まさに会心の連携攻撃だったが、魔獣はその巨体にみあう体力があるのかこちらを変わらず睨み続けている。
手負いの獣は凶暴になる、戦士でハンターである全員が理解していることで、間合いを取った戦士達は途端に慎重になった。
「ガアァッ!」
魔獣がザックに飛びかかる。
ザックが横に飛び、周りの戦士達が着地した魔獣を取り囲む。
魔獣は逃げたザックを追おうとするが、周りの戦士達がその隙を逃さない。
背後を取った戦士達4人が魔獣の後ろ足を滅多斬りにする。
たまらず悲鳴をあげ振り返る魔獣の横から、今度は別の戦士が槍で足の付け根を突き刺した。
さすがの魔獣も今度は横倒しになった。
「これが魔獣か?!ちょれえなっ!」
槍を刺した戦士は槍をそのままにして腰から剣を抜くと飛びかかっていった。
「待て!」
周りの戦士が注意するも、槍の戦士は魔獣の腹を狙って剣を振りかぶる。
シュン
音は剣ではなく、ムチの様にしなり槍の戦士を払った魔獣の尾であった。
虫のように払われた槍の戦士は、まるで石ころのように転がり、やがて痛みに顔を歪ませてなんとか顔だけをあげた。
そこには・・・爛々と片眼を紅く光らせた魔獣の顔があった。
「ひぃっ!助け」
途中で途切れた声。
一噛みで鎧ごと噛みちぎられた槍の戦士の体は半分になっていた。
「馬鹿かっ、相手は魔獣だぞ!?一撃でも喰らったらあっけなく死ぬだろがっ!」
戦士の1人が叫んだ。
鎧さえ全く役に立たずに一瞬で噛み殺された事実、未だ血を吹き上げる仲間の骸を実際に目の当たりにした
戦士が唖然とし、数人ほど動きを止める。
「動きを止めないで下さい、狙いうちされますよ!」
スルストも叫んだ。
「おんどりゃあー!」
ザックが新しく手渡された斧槍を魔獣に向けて投げつける。
魔獣は簡単にそれをかわしてみせると、ザックではなく動きを止めた戦士を狙って前足を振るった。
ドゴッ
2人が吹き飛ぶ。
周りの戦士が魔獣の動きを止めようと攻撃するが、魔獣はもはや痛みを感じていないのか全く気に止めることなく自身が吹き飛ばして動きを止めた戦士のもとに飛びかかり噛み殺した。
「糞が!」
ザックが魔獣に走り寄る。
魔獣は、開戦した当初より動きにキレがあるように見え、戦士達は少なからずも恐怖した。
「おっらあぁ!」
魔獣に走り寄ったザックは素手で魔獣の顔を横から殴り飛ばした。
渾身の一撃は魔獣の巨体を動かし、退け反らせた。
それでも魔獣はダメージを受けたように見えなかったが、怒りに燃えた目でザックだけを睨む。
「来やがれ!わんころがっ!」
ザックを睨む魔獣を、しかしザックが睨み返す。
怒りに燃えた魔獣は、ザックに噛みつこうと飛びかかる。
「させませんよ!」
スルストが既にザックと魔獣の間に立ち塞がり、魔獣とすれ違うように剣を振るった。
右手に剣を、左手にも剣を握るスルストは、一瞬で全身を血で染める。
すれ違った魔獣の血だ。
魔獣はザックの前で着地・・・できずに崩れ落ちた。
魔獣の前足が1本切断されている。
[二刀]のスルストがすれ違うたった一瞬に、1本の足の同じ場所を複数回斬りつけ切断したのだ。
それでも魔獣は這うようにザックに噛みつこうとするが、ザックはなんとか横に転がり避ける。
周りの戦士達が体制を整えザックを執拗に襲う魔獣を取り囲んだ。
魔獣は警戒したのかその場で動きを止めた。
「スルスト、もう一回あの野郎の足を切り飛ばせねえか?」
ザックがスルストに話しかける。
しかしスルストは頭を横に振り、ザックに返事を返した。
「無理です、先程の攻撃で剣だけでなく手も痛めました」
「硬えよな、あいつ・・・俺も拳がやられた」
[Cランク]の2人は攻撃を喰らうことなく満身創痍になっていた。
魔獣が人びとに恐れられるのは恐ろしい外見だけでなく、その強靭な体と身体能力の高さゆえにだ。
普通の剣では歯が立たない硬さをほこり、並みの腕前の戦士では全く相手にならない。
だがしかし、周りの戦士達は包囲を緩めることなく逆に狭めていく。
この場合、囲んで魔獣の攻撃を制限することが唯一魔獣を追い詰める有効的な手段だと彼等は分かっているのだ。
[Cランク]ではないにしても、この戦士達の心意気はザックとスルストに負けていない。
次は自分が魔獣を斬り伏せてやる、戦士達はそれぞれ魔獣の隙を目を光らせて狙っていた。
「そっこだあぁ!」
魔獣の背後から、赤髪の青年テッドが剣で斬りかかる。
青年は魔獣の尾を見事に斬り飛ばしてみせた。
「よっしゃっあ!・・・て、あれ?」
魔獣は尾を斬り飛ばされてもまったく動かない。
「どうやらやっと死んだみたいですね」
スルストは、未だにザックを睨みつけたままの魔獣を見つめそう呻いた。
「これで毒薬を喰らってたんだから魔獣は本当に怖えよな」
ザックが魔獣からやっと視線を外し、痛めた拳を見る。
片手は当分使えないだろう、ぱんぱんに腫れ上がっていた。
「え?毒薬!?ザックさんが斧に仕込んでいたんですか?」
テッドがザックの言葉に驚く。
「馬鹿か、てめえ?魔獣が1匹だけここに大人しく居た時点で気づけよな」
テッドは、確かに・・・と、うなだれた。
戦士達の怪我の状況を確認したスルストがそんなテッドに近づき、話しかける。
「カタリナさんの部隊が使用したのはブロスの毒薬ですよ、本来なら即死級の猛毒ですが、魔獣には途中から効いてませんでしたね」
魔獣は最初に致命傷を受けたにもかかわらず、時間が経つにつれ動きが早くなったのは、毒の効き目が薄れたからに他ならない。
「ブロス・・・、龍型の獣だよな、鱗が鉄より硬いから武器じゃ殺せない、だから特製の毒薬でやるんだっけ」
テッドがうろ覚えに独りごちる。
「もしもの為にギルドに用意されていた代物です、最初の1体を速やかに倒すために全部使っていただきました」
スルストが今になってネタをばらす。
「油断されると困りますから皆さんには言いませんでしたがね」
「しかし・・・3人殺されてしまいましたが」
既に街を守る兵士は100人以上が殺されている現状で、魔獣を倒してみせてのハンター3人の犠牲者は少ないと言える。
スルストは寝かされたまま動かない戦士3人を眺めたあとに全員に告げる。
「魔獣はまだ2体居ます」
「時間がありません、次に行きますよ」
戦士達は再び走り出した。
誰もが顔をこわばらせて。




