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ハンター

屋根の上を影が走る。


まるですべるように屋根から屋根へと跳ぶ影はおよそ20。

やがて、先頭を走る者が足を止めると、後ろからついてきていた影たちも一定の距離を空けて止まった。


その中から1人小柄な影が先頭にいた人物と合流する。


「いやがった!分かるか、エルダ?3匹ともかなりでかい!」


先頭を走っていた女がいつもとは違う緊張した感じで後ろから来た少女に話しかける。


「うへぇ〜、なんすかあれ、聞いてる魔獣よりふた回りはデカいッすよ?」


話しかけられた少女は軽い口調で抗議した。


魔獣は、元となる獣の種類にもよるが、高さが3m近くなるほどのものはなかなかいない。

その昔、別の国、その首都を破滅に追いやった魔獣は言い伝えによると幻獣であるドラゴンのように10m以上の体格であったと聞くので特別おかしな事ではないのだが。


「てか、姐さん!」


少女はあの禍々しい姿にさすがに不安を感じたのか、先頭を走っていた女に注意をうながす。


「いくら何でもあれはマズいッスよ、とてもギルマスの策が上手くいくとは思えないッス!」


少女が仕事において否定的な話をするのは実は珍らしいことである。


髪は短くそろえ、地味な色のうわぎとズボンを着用した少女は、まるで女ではなく華奢な男のようであるが、すでにハンターとしての実力だけは[Cランク]であり、いつもなら楽勝ッスよ!と宣言しては先達に叱られている。

経験が足りないうえに物事を安易に考えるから[Dランク]にいるわけだが、話しかけられた先頭の女は、このぶんなら意外に早く[Cランク]になれるかもな、と思わず嬉しくなった。

この女にとって少女は自分の妹に等しい存在なのだ。


「ちょっと姐さん、聞いているんスか!!?」


少女が真剣に取り合わない女に声をあらげた。


「いや、悪い悪い、考え事をしてた」

「そんなことよりエルダ、お前な、ターゲットが近くにいるのにんなでかい声を出すな」


「あ、すんません・・・でも姐さんも考え事とからしくないッスよ」


まずそうな顔で声量を落としながらも抗議を続けるエルダに女も話しかける。


「魔獣どもと正面からやり合う訳じゃないから心配するな、もしもの場合は私らだけでもさっさと逃げていいとすでに話はつけてある」


女は当然だと言わんばかりに退路の話もする。

相手が強ければ強いほど最悪の状況をあらかじめ予測して行動するのはハンターとして当然なのだ。

この辺りは敵前逃亡が御法度の騎士や兵士とは正反対である。


「さすが姐さん!でも他のメンツは大丈夫ッスかね?」


エルダが心配しているのは姐さんと親しみを込めて呼んでいる目の前の女や、自分、さらにここにいる者達ではない。

ここにいる者達は諜報、隠密、探索を主に生業としているものばかりで、今回ギルドマスターから任命された指示も一番危険度が低い。


「エルダは私がこの仕事をしくじると思うかい?」


女がエルダを見つめ、そう聞いた。


「まさか!姐さんに限ってしくじるとかないッスよ」


エルダはすぐに答える。

エルダにとって女は、不可能すら笑って成し遂げてしまう英雄のような存在なのだ。


それを聞き、女はエルダに諭すように話しかけた。


「この部隊に私がいるように他の部隊にもその筋のプロがいるのさ、私らが心配するのは私らだけのことだけでいい」

「それぞれがやるべきことをやればそれで終いなんだよ」


女はエルダに心配なんて野暮なことするんじゃないよと笑って言った。


「分かったッス・・・、でもドンとかいう人、ホントに大丈夫ッスかね?聞いた作戦では1番危険じゃないッスか?」


「それが無粋だって言ってるんだ、ドンさんがいるからこの作戦は成り立つ、逆なんだよ」


エルダは言い切る。


「元[Bクラス]なんスよね?なんかまったく分かんないんスけど、そんな凄いんスかね・・・」


「CとBじゃ格が違うからね、それに・・・」


エルダは少し考えたあと、にやっとして続けて喋る。


「私がいくら誘惑しても全く相手にもされないし」


これにはエルダが目を見開き驚いた。


女は少し歳をとってはいるが、暗闇に浮かび上がるシルエットだけでもはっきりと分かる魅惑的な体をしているうえ、全体からわきたつように出る色気は若い女では到底太刀打ち出来ない。

顔立ちも美しく、彼女の笑顔は色気とあいまってゼクトの街では1、2を争う人気を作り出していた。

ただし、人気があるのは普段猫を被ったおしとやかな表の顔のほうであるが。


もっともエルダ自身は気さくに笑う今の女のほうが好きである。


「さて、そろそろ取り掛かるとするよ」


女が全員を見渡す。

いつの間にか全員が女の周りに集まっていた。


「分かってはいると思うが一応確認しとく、最初に一斉に攻撃をかましたらこちらからは一切手を出さず逃げに徹する!魔獣が1体になるまでは何が何でも街の外に向かって逃げ続けろ」

「逃げる私等を追う魔獣達を、他の部隊が攻撃する。他の部隊が魔獣どもをばらばらに引き離したら、私等は最後に残った魔獣1体の注意を常にひき、どこにも逃がさず固定する!」

「絶対に倒そうなどとは思うなよ?その場合は足を引っ張った時点で見殺しにさせてもらう」

「もしも他の部隊が魔獣どもをばらばらに引き離すことに失敗したら・・・」


女は今一度全員を見渡すと、


「そのまま魔獣を街の外まで引きつけ、散り散りに逃げおおせろ!お前らの得意分野だろうが?」


にやりと女は笑う。


彼女の名は、カタリナ。


戦闘に特化したハンターよりもトレジャーハンターのように感知能力や危機回避に優れたハンターであり、ゼクトの街にあるハンターギルド[南の巨人]の[Cランク]ハンターである。

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