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ゼクト

街の北側のあちらこちらから紅蓮の炎が噴き出し、その灯りが本来は暗く何も見えないはずの夜空にどす黒い煙を浮き出させる。


風が運ぶ臭いも酷く鼻に付く。

焦げた臭いが街を覆い、外をいるものは目まで痛みだすほどに。


時折、聞くものを震えあがらせる恐ろしい咆哮が響き、この街が今、尋常ではない事態にあることをそこに住む全ての人に知らしめた。


ゼクトの街は今、極度の混乱の最中にある。


<ゼクトの街>

北にある王都<レッドキング>から真っ直ぐ南にのびる街道の最後の街であり、[サァーク伯爵家]が代々統治している街である。

周辺の街道に隣接してつくられた畑農業が盛んで、この王国<ダイクレスタ>の麦生産の8割を担っており、王国の人間はこのゼクトの街をムギドコロと呼んで商業の重要な拠点としていた。

街の周辺、西にはノックダウン川が流れるイツカの魔森が広がり、街の東には水平線が見えるほど広がる草原がある。

そして南には、遙か高くまでそびえ立つドルトナ山脈が並び、その麓にはルルの住むオリナ村がある。


そのゼクトの街の中心部にあるハンターギルド、[南の巨人]の1室で1人の男が怒りの声をあげた。


「まさか魔獣が3体もいるとは!偵察は一体何をしていたんだ!」

「3体もいると知っていたら街で迎え討つなんて作戦は考えなかったぞ!?」


人びとがもっとも恐れる魔獣という存在は、通常一個中隊、100人以上の兵が作戦をもって討ち取る。

その魔獣が、陽が暮れると同時に3体も連携して一箇所を同時に攻撃して来たのだ。

街のように広範囲を守らなければいけない戦いは兵が分散して一点突破に脆弱になる。


声を荒げる男に、すぐ近くにいた黒い長髪の長身の男も同意の声をあげる。


「3体もいたらこの街の兵の数では外壁どころか街を守ることもできやしないですからね」


そう言い、肩をすくめた長身の男は、部屋の中央に置かれたイスに座る場違いに美しい赤髪の女性に話をなげる。


「で、どうしますか?このままだと例え命が助かったとしても街は滅んでしまいますね」


話をふられた女性は、やがて閉じていた眼を開けるとたんたんと状況を説明しだした。


「魔獣は正面の門をたやすく破壊し、3体共に街の内部へ侵入、それにより魔獣を迎え討とうと待ちうけていた弓兵部隊300は孤立、北門の内で待機していた歩兵100は魔獣の侵攻により壊滅状態ですが、現在西と東の門の歩兵、計200と孤立していた弓兵が態勢を整えているところです」


女性はまた目を閉じると、


「ここまで簡単に門が破られるとは予測することかなわず、魔獣が街に侵入してしまった為、いまさら避難指示の出しようもありません・・・」

「恥を捨てて[南の巨人]のギルドマスターであるマクダイ氏にお聞きします、私は一体どうしたらこの街を守れますか?」


顔を青ざめている赤髪の美しい女性は、この街を治める[サァーク伯爵家]の当主であり、二人の男はその[サァーク伯爵家]に代々務める騎士団長と、この街に拠点を置くハンターギルド[南の巨人]のギルドマスターマクダイである。


[サァーク伯爵家]は先代が若くして病死してしまったため、3年前より一人娘である彼女がまだ25歳という若さであとを継いでいた。


先日、近辺で魔獣が目撃されたとの報告により、3人は街で一番堅固なこのハンターギルドに司令部を作り置いていた。


先ほどから怒りを抑えることができないサァーク家付きの騎士団長が、しかし女性を慌てて弁解した。


「何もユーリス様が恥を覚える必要などありませぬ!これは明らかに偵察をまかせたハンターに落ち度がありますゆえ!偵察さえしっかりしておればこのような事態になってなどおりません!」

「私の部隊もこうも簡単に魔獣などに抜かれはしなかったはずです!」


ユーリスと呼ばれた女性がこの発言にたまらず返事をする。


「ガイア、少し落ち着きなさい」

「いいですか?歳を経た魔獣は知恵をつけます・・・マクダイ氏があらかじめ言ったその言葉はこういうことだったのです」


ユーリスはそう言うとうなだれた。


騎士団長のガイアも言葉を失う。


騎士団長のガイアは、その辺りの男など貧弱にみえるほど筋肉質な立派な身体を持ち、剣の腕と馬の扱いに長けていたが、すぐに感情を出して周りが見えなくなる悪い癖があった。


それを見た長身の男は苦笑してこう言った。


「いや、俺も、まさか3体もいるとは思いもしなかったんですがね」

「眷属を隠して引き連れて来ていることは考えていたんですがね」


眷属とは、魔獣が自分と同じ種類の獣を支配して操ることである。

魔獣に統率され、普段とは違い連携をしてくるため格段に手強いのだ。


「で、どうしますって聞いたら、どうしたらいいのかって聞かれてしまったワケですが・・・」

「ここからは、俺の好きにしてもいいわけですね?」


長身の男、マクダイは、ニヤリと笑った。

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