総力戦
1体になった魔獣を陽動して北門近くまで来たカタリナの部隊は、そのまま一気に門を抜けようと今まで以上に速く走る。
飛び散る血肉、むせかえるような血の匂い。
北門付近は先の戦いで酷い有り様になっていた。
魔獣は入り口に戻ってきたことなど全く気にする様子もなくカタリナ達と共に北門を外に飛び出した。
自身の身を塞ぎ邪魔する障害物がなくなると魔獣は追跡の速度を上げ、みるみるうちにカタリナ達に追いついていった。
シュルシュルシュル〜
陽動していたハンター全員の身から転がりだした丸い物が音を立て白い煙を上げる。
辺りは途端に白い煙に覆われ、煙だけでなく、酸っぱく酸味が効いた匂いも充満した。
「このままロック玉の手持ちが切れて無くなるまで魔獣の周りにばら撒き続けな!」
カタリナの指示が飛ぶ。
ロック玉とは、翼を広げると10m近くになる怪鳥に襲われた場合に使う玉で、辺り一面を白く染めることで空からの攻撃を防ぐ目的がある。
またその酷い匂いでおこぼれにあずかろうと寄って来る獣も寄せ付けない。
魔獣は、頭が痛くなるほどあまりに酷い匂いと広範囲に全く見えなくなった視界に足を止めるしかなくなった。
カタリナの部隊は見事に任務を遂行出来たのである。
「急いで対魔獣編成を組め!弓隊は回避メインで、軽装にしろ、歩兵隊もだ!」
ガイアの声が北門の広場であがる。
魔獣の攻撃に防御する意味はない。
鉄の鎧すら軽く噛み破り、殴られれば鎧の中身が破裂する。
魔獣を取り囲んでも避けに徹し、魔獣が誰かを攻撃したその隙に周りが攻撃するのが正攻法なのだ。
「弓隊は眼を潰せ!歩兵隊は足の腱や関節に突きを入れろ!動きを封じるのだ!」
ガイアに何人もの兵士長が駆け寄る。
報告を聞き、頷くガイアは北門から外を見るユーリスのもとに合流した。
ユーリスの隣りにはカタリナとエルダ、スルストまでが既におり、状況を聞いている。
「ドン様は南門をですか?」
残念そうにユーリスが呟くが無理もない。
ドンが居れば例え魔獣が相手であろうと直ぐに片がつくのだ。
犠牲はほとんど出ないであろう。
しかしユーリスは、それでは駄目なのだとマクダイに言われたことを思い出し気を引き締めた。
「[巨腕]のザック率いる戦士隊は西、東はギルドマスターが単独で守備にあたります」
カタリナが丁寧に優しく、若い領主に話しかけた。
先ほどまでの姉さん言葉ではなく、カタリナ表の顔のおっとりした優しい声だ。
「分かりました、ガイア、隊は準備出来ましたが?」
ガイアは胸を張り、
「はっ!いつでもいけます!」
と報告する。
「ならば部隊を前へ」
「私の護衛はカタリナとスルストにお願いしました、あなたは私のことなど気にせず、存分に魔獣と打ち合ってきなさい」
「ははっ!必ずや魔獣の首をこの手に!」
ガイアが右手を前に出し握り締めた。
ガイアが兵士長達に命令し、兵士長が兵士達に指示を出す。
北門から外に出た場所に総勢500人の部隊が出来上がった。
魔獣を覆っていた煙が晴れつつあるの分かる。
そしてついに長い夜も明け始めたのであった。




