戦いの場へ
騎士団長のガイアは目の前を歩く領主、ユーリスに話しかける。
「ユーリス様の御身は私が命に代えても御守りいたしますうえ、どうか心配なさらずお勤めに専念下さいませ」
「ええ、お願いします」
ユーリスは、振り返ることなくそう短く答えると歩みをさらに速めた。
ハンターギルドで、ギルドマスターのマクダイとの会話を思い出す。
「ユーリス様におきましては、今すぐ北の門に回っていただいて全兵の指揮をとっていただきたい」
マクダイのこの進言にガイアが反論する。
「北の門はすでに破壊されて魔獣は街をこちらに南進しておるんだぞ?今さら門に行ったところで何を指揮しろと言うのだ?」
マクダイは反論に答えるように話を続ける。
「魔獣は3体、街中で同時に相手をすると被害が大きくなりますし戦力が足りません」
「まずは魔獣の進行を止め、陽動するハンター達を送ります」
魔獣を止め操ると簡単に言うマクダイに話を続けるようユーリスが促す。
「魔獣と戦う訳ではありませんのでこれは上手くいくでしょう、魔獣は北の門へ戻ります」
「魔獣が3体とも都合良く陽動にかかるとは思えぬが?」
ガイアが疑う。
「1体にばらければこちらのものです、ハンターギルドの精鋭を全てその1体にぶつけます」
「残りの魔獣はどうする?精鋭が倒すのを待って鬼ごっこでもしているのか?」
「[紅剣]のドンに、1体仕留めるようお願いしました」
「「なっ!?」」
ガイアとユーリスは声を出して驚く。
「この街にあの人が居たのですか?」
ユーリスが表情を明るくさせマクベスに聞いた。
「ええ、普段ならハンターの仕事など頼まれてもしない方ですが」
「街の危機ですし相手は魔獣ですからね、彼も理解していますよ」
マクダイがユーリスに微笑んだ。
「[Bランク]ハンターか・・・まさに1人でも魔獣を殺せる豪傑・・・」
ガイアもそう言い何度も頷く。
しかしマクダイは表情を引き締めると、
「これで2体は討てるでしょうが、問題はここからです」
マクダイはユーリスの顔を見つめる。
「陽動部隊には最低1体は北の門、街の外まで誘導していただきます」
「そこで、あなた方2人に北の門まで行っていただいて魔獣を討伐していただきます」
ガイアはふむと頷き、しかし、と喋り始めた。
「こちらは、魔獣との戦いこそ望むところだが、ユーリス様が前線に行かれる必要はあるまい?だいたい最低1体ということは、最悪3体を相手どるのであろう?いくらなんでも危険過ぎる」
兵を集めれば500は超えるだろう。
魔獣3体ともなると被害は大きいだろうがやれないわけではない。
幸いあと数刻で夜も開けるのだ。
ガイアとしては是非にと願うところだが、戦に馴れぬ領主を連れて行き何かあればことである。
ただでさえユーリスは伯爵家の一人娘であり、他にサァーク家を継げる血筋は居ないのだ。
ガイアは、戦さでは何があるか分からないことを重々理解していた。
「魔獣に簡単に外門を突破され街内を蹂躙されたうえに領主は何も出来ずハンターギルドに全てをまかす」
マクダイはたんたんと述べる。
「伯爵様とはいえ、さすがに問われる責任は重いですよ」
途端にガイアがマクダイの側に歩みより掴みかかろうと手を伸ばす。
「貴様ぁっ!」
「止めなさい!」
ユーリスが慌てて止め、ガイアは掴んだマクダイの襟を離した。
マクダイの表情は何も変わらず未だユーリスを見つめている 。
「マクダイ氏の言う通りです、全ては未熟な私の責任であり、その責任から逃げるつもりはありません」
ユーリスはマクダイを見つめ返す。
ガイアはそんなユーリスを見ると、
「ユーリス様・・・申し訳ありません、私の力が足りぬばかりに」
またもやうなだれた。
「他人事ではありませんよ?ガイア卿、この街の警備を任されていたあなたは間違いなく斬首刑ですから」
「しかし、それは全て、このままだったらの仮の話です」
マクダイはガイアを見、ガイアに話しかける。
「ガイア卿、あなたが魔獣の1体をその手で討ち取ればあなたのことを不甲斐ないと罵る者も居ないどころか魔獣殺しの名誉が与えられるでしょうし、街の大事に身を呈して領主様自らが最前線に赴き指揮をとれば、ユーリス様の名は勇名として人びとの話にあがるでしょう」
マクダイはにこりとユーリスに笑いかけた。
「私が何も出来ない領主だという事実は変わらないのに・・・勇名ですか・・・」
ユーリスは悔しげに顔を歪ませた。
手は白くなるほど握り締めている。
「嫌なら結構です、俺が出るだけですから」
マクダイが意地悪気に語りかけた。
エルダはそんなマクダイを見やり、素直に頭を下げると、
「私に行かせて下さい、私にはそれしかできそうにありませんから」
表情を引き締めそう言った。
ガイアの顔も怖いくらい引き締まる。
2人は、このギルドマスターに挽回する機会を作ってもらえたことを悟り改めて頭を下げると部屋を出た。
戦いの場へと向かう為に。
1人残されたギルドマスター、マクダイは部屋の椅子に座ると、苦笑した。
(それしかできないと、騎士でも兵でもハンターでもない者が魔獣のもとに赴く、そんなことが当たり前にできる貴族がこの国にはたして何人いることか)
(さらに自分の未熟さを認め決して誇張せずに、身分が低い者の意見でも頭を下げて聞く)
「これからが楽しみじゃないか、少なくともこの街をどこの誰とも知らない阿呆な貴族が統治することは許したくないしね」
マクダイはそんなことを独り言いながら、テーブルの水晶に手をやる。
「大地に宿る魔力よ、大気に満ちる魔力よ、その偉大なる力で我が敵の姿をこの水晶に照らし出せ」
水晶が淡く光ると、そこには大量の獣が潜んでいるのが映った。
それをマクダイがにやりと見やる。
「やはり眷属がいたか、俺もしっかりと力を見せとかないとなめられたらお終いだからな」
マクダイは立ち上がると部屋の外へと向かって歩き出した。
その手にはテーブルにかけてあった一振りの杖を握り締めて。




