表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/38

初めての依頼は、猪狩りです!

冒険者ギルドから、アーマーボアが出現した農地までは、歩いて三十分ほどかかるらしい。


「討伐証明は右の牙です」


マリアが依頼書を渡しながら説明した。


「ただ、アーマーボアは皮も肉も牙もすべて値がつくので、可能であれば死体を持ち帰ることをおすすめします」


「死体もギルドで買い取ってくれるんですか?」


俺が尋ねると、マリアは頷いた。


「はい! ギルドには魔物専門の解体場があります。死体を丸ごと持ち帰っていただければ、解体手数料を差し引いた上で、素材と肉の代金を精算します」


おお~!


魔物を倒した上に金まで受け取れるなんて!


やっぱり冒険者は素晴らしい職業だ。


「ですが、アーマーボアはかなり重いと思いますよ」


マリアが付け加えた。


「一般的な成体でも、一頭三百キログラムほどあります。現地で必要な部位だけ切り取って持ち帰っても構いません」


三百キログラムか……。


「丸ごと持って帰ります」


「はい?」


「その方が、たくさんの部位を売れるんですよね?」


「それはそうですが……」


マリアはしばらく俺を見つめていたが、結局それ以上は何も言わなかった。


ギルドを出た俺たちの後ろには、警備隊長とギルド職員が一人ついてきた。


暫定Dランクを正式に認めるためには、依頼を遂行する様子を直接確認する必要があるらしい。


ギルド職員の名前はカルドさん。


茶色い髪に短い髭を生やした中年の男性で、腰には短剣を下げていた。


「俺は戦いには手を出さない」


カルドさんが言った。


「二人の実力を確認するのが目的だからな。本当に危険になれば助けるが」


「分かりました」


「だが、油断はするな。アーマーボアは名前の通り、皮膚が鎧のように硬い。正面から攻撃すれば、並の剣など簡単に折れるぞ」


俺は背負っている剣へ手を触れた。


「では、横か後ろを攻撃すればいいんですね」


「それができればな。奴は体格の割に素早い。突進を正面から受ければ、熟練の冒険者でも大怪我をする」


「そうなんですね~」


ルナが俺の隣で頷いた。


「お兄様、今回は剣を折らないように気をつけてくださいね」


「俺の剣は絶対に折れないぞ……」


町の北門を出ると、広大な畑が広がっていた。


麦や野菜の植えられた畑の間を、一本の土道が長く延びている。


だが、北へ進むほど周囲の様子はひどくなっていった。


柵は壊され、畑には大きな足跡や、地面を掘り返した痕が残っている。


「こっちです!」


農民たちが集まっていた場所から、一人の男が駆け寄ってきた。


「あ、あの! もしかして、ギルドから来てくださったんですか?」


「そうです」


カルドさんがギルドの証を見せた。


「アーマーボアはどこに?」


「あの森の近くです! 朝から畑を掘り返していて、人を見ても逃げようとしないんです……」


男の腕には包帯が巻かれていた。


「怪我をしたんですか?」


ルナが尋ねた。


「避けようとして転びました。幸い、直接突進を受けたわけではありませんが……」


「少し見せてください」


ルナが包帯の上へ手を置いた。


柔らかな光が一瞬だけ輝く。


「もう大丈夫ですよ」


「え……?」


男は腕を何度か動かし、大きく目を見開いた。


「全然痛くないぞ?」


「転んで打っただけだったので、すぐに治りました~」


ルナは何でもないことのように言ったが、周囲の農民たちは口を開けたまま彼女を見つめていた。


カルドさんがため息をつく。


「まだ依頼も始まっていないのに、もうこれか」


その時、森の方角から荒々しい鳴き声が響いた。


ブギイイイイッ!


木々の間から、巨大な影が姿を現した。


分厚い灰色の皮膚。


前方へ湾曲した大きな牙。


背中を覆う、硬い板のような甲殻。


依頼書の絵で見たアーマーボアに違いない!


少し小さいけど。


「あれがアーマーボアか……」


「そうだ」


カルドさんが緊張した顔で頷いた。


「成体の中でも大きい方だ。少なくとも四百キログラムはあるだろう」


「小さいな……」


俺が呟くと、カルドさんが振り返った。


「何だって?」


「いえ、何でもありません」


アーマーボアは俺たちを見つけると、前脚で地面を掻いた。


鼻から荒い息を噴き出している。


カルドさんが急いで後ろへ下がった。


「来るぞ! 横へ避けろ!」


アーマーボアが地面を蹴った。


分厚い巨体が、驚くほどの速さで迫ってくる。


土が跳ね、地面が揺れた。


農民たちは悲鳴を上げながら逃げていく。


俺はアーマーボアの動きを観察した。


確かに速くはある。


その時、ルナが俺の袖を掴んだ。


「お兄様」


「ん?」


「殺さずに捕まえるんですよね?」


「あ、そうだった」


マリアは、可能なら生け捕りにしてもいいと言っていたはずだ。


死体を買い取ってもらえると聞いて、すっかり忘れていた。


でも、生きたまま持っていったら解体できないんじゃないか?


うーん……ギルドで後から処理してもらえばいいのか?


そんなことを考えている間に、アーマーボアは目の前まで迫っていた。


俺は両手を伸ばし、そいつの牙を掴んだ。


ドォン!


足元の地面が深く抉れた。


「え?」


驚いたのは俺ではない。


後ろにいたカルドさんだ。


アーマーボアは前へ進もうと必死にもがいていた。


「なかなか力が強いな」


父さんが指一本で押してきた時よりは、ずっと弱いけど。


「お兄様、怪我をさせないように捕まえてくださいね!」


「分かってる」


俺は牙を掴んだまま身体を横へひねった。


アーマーボアの巨体が勢いを失い、そのまま宙へ浮かび上がる。


ちょ、ちょっと力加減を間違えたか……!?


アーマーボアは地面を二回転した後、畑の中央へ突き刺さった。


ドン!


「……」


幸い、生きていた。


そいつはふらつきながら起き上がると、再び俺たちへ頭を向けた。


「まだ戦うつもりみたいですね」


ルナが言った。


「頑丈だな」


カルドさんは後ろで何も言わなかった。


アーマーボアが再び突進してくる。


今度は牙を掴まず、そいつの額へ手のひらを置いた。


そして軽く押せば……!


ズブッ。


アーマーボアの四本の脚が、一斉に地面へ沈んだ。


「ブ、ブギッ?」


そいつは動こうとしたが、身体は少しも動かなかった。


俺は背中へ乗り、首の辺りを軽く叩いた。


「大人しくしろ」


「ブギィ……」


アーマーボアが震え始めた。


「お兄様」


ルナが少し可哀想そうな顔をした。


「怯えているみたいですよ?」


「そうなのか?」


俺は手を離し、そいつの頭を撫でた。


「悪かった。怪我をさせるつもりはなかったんだ」


アーマーボアは地面へ平たく伏せたまま、目だけを動かしていた。


もう攻撃する気はなさそうだ。


「終わったんですか?」


遠くへ避難していた農民が、恐る恐る近づいてきた。


「はい。もう畑を荒らすことはないと思います」


「死んではいないんですよね?」


「生きています」


「生きたアーマーボアが、あんなに大人しくしているんですか?」


農民たちは理解できないという表情を浮かべていた。


俺はカルドさんを振り返った。


「このままギルドへ連れていけばいいですか?」


カルドさんはしばらく答えなかった。


「……普通は牙だけ持ち帰るんだが」


「でも、丸ごと持ち帰った方が高く売れると言っていましたよね?」


「そうだな」


「では、持って帰ります」


俺はアーマーボアの腹の下へ手を入れた。


そして、そのまま持ち上げる。


「ブギィッ!?」


アーマーボアの四本の脚が宙でばたついた。


「お兄様、その持ち方では苦しそうですよ」


「そうか?」


「背負った方がいいんじゃないですか?」


「それがいいな」


俺はアーマーボアを背中へ担いだ。


身体が大きいため、頭と脚が左右へ垂れ下がっている。


重さはほとんど感じなかった。


「行こう」


俺が先に歩き始めても、周りにいた者たちは誰もついてこなかった。


「どうしたんですか?」


ルナが尋ねると、カルドさんは顔を手で擦った。


「いや。もう、そういうものだと思うことにする……」


町へ戻る間、かなり多くの人々が俺たちを見ていた。


正確には、背中にアーマーボアを担いだ俺を。


子供たちは珍しそうに後ろをついてきて、馬車を操っていた男は手綱を引き、道を譲ってくれた。


アーマーボアは最初こそ何度も暴れていたが、途中で諦めたのか、ぐったりと力を抜いた。


「死んでいませんよね?」


ルナが心配そうに尋ねた。


「息はしてる」


「それならよかったです」


ギルドの前へ到着すると、入口付近にいた冒険者たちが動きを止めた。


「何だ、あれ?」


「アーマーボアじゃないか」


「生きてるんじゃないのか?」


「まさか、背負ってきたのか?」


俺はそのままギルドの中へ入った。


ホールにいた者たちが、一斉に俺たちを見た。


マリアも受付台から立ち上がる。


「リオンさん?」


「依頼を終えました!」


「それは見れば分かるのですが……」


マリアは俺の背中にいるアーマーボアを見つめた。


そいつは力なく目を瞬かせている。


「どうして生きているんですか!?」


「可能なら殺さずに捕まえてこいと言いましたよね?」


「可能ならとは言いましたが、本当に生け捕りにして肩へ担いでこいという意味ではありません!」


「では、今ここで殺せばいいんですか?」


「ここではやめてください!」


マリアが慌てて叫んだ。


ホールにいた冒険者たちが一斉に笑い出した。


その音に驚いたアーマーボアが身体を動かすと、笑い声は一瞬で消えた。


マリアは頭を抱えた。


「ひとまず、裏の解体場へ行ってください」


「生きたままでも解体できるんですか?」


「できるわけないでしょう!」


マリアがギルド職員を呼んだ。


しばらくすると、大きな斧を担いだ禿頭の男が現れた。


身につけた前掛けのあちこちに、古い血の痕が残っている。


「俺が解体場の責任者、ガルムンだ」


彼はアーマーボアを調べると、感心した声を上げた。


「ほとんど傷がないな。皮の状態も最高だ」


「撫でただけです」


「何?」


「少し押さえつけたりもしました」


ガルムンさんはアーマーボアの脚を確認しながら、目を細めた。


「こいつ、普通のアーマーボアじゃないぞ」


「何か問題でもあるんですか、ガルムンさん?」


「身体も大きいが、魔力が異常なほど濃い。少なくとも、何年も生き延びてきた群れのボスだ」


カルドさんが驚いて尋ねた。


「ボス個体だと?」


「ああ。皮と牙だけでもかなりの値になる。肉の状態までよければ、金貨十枚は軽く超えるだろう」


「金貨十枚!」


俺は思わず声を上げた。


初めての依頼だけで金貨十枚だなんて~!


冒険者って、本当に金を稼げる仕事なのかもしれないな~。


ガルムンさんが首を横へ振った。


「ただし、生きたままでは買い取れない。ギルドで処理してもいいか?」


俺はアーマーボアを見下ろした。


そいつは俺の視線に気づくと、身体をびくりと震わせた。


ついさっきまで俺たちを襲い、農民にまで怪我をさせた魔物だ。


このまま放してやるわけにもいかない。


「お願いします」


「分かった。では外で待っていろ。解体と鑑定には一時間ほどかかる」


俺たちは再びギルドのホールへ戻った。


マリアは、仮に作られた銀色のギルド証を二枚渡してきた。


プレートには俺たちの名前と、Dの文字が刻まれている。


「依頼の遂行に問題がなかったことを確認しました。お二人とも、正式にDランクです」


「ついに……!」


俺はギルド証を両手で掲げた。


ついに、本物の冒険者になったぞおおっ!!


「お兄様、本当に嬉しそうですね」


「ああ。ルナは嬉しくないのか?」


「嬉しいですけど、お兄様ほどではありませんね」


ルナは自分のギルド証を光にかざしながら笑った。


一時間後、ガルムンさんが俺たちを解体場へ呼んだ。


大きな作業台の上には、アーマーボアから取れた素材が整然と並べられている。


分厚い皮。


大きな牙が二本。


赤黒い魔石。


そして、いくつもの塊に分けられた肉。


「鑑定が終わったぞ」


ガルムンさんが帳簿を開いた。


「皮が金貨四枚、牙が金貨二枚、魔石が金貨三枚。肉は一部を残してすべてギルドへ売るなら、金貨五枚だ」


「全部合わせると……」


「金貨十四枚。解体手数料の銀貨二十枚を引いて、金貨十三枚と銀貨八十枚だ」


ルナは指を一本ずつ折りながら計算した。


「お兄様、服の代金よりずっと多いですよ~」


「そうだな」


「これからも毎回魔物を捕まえてくれば、すぐにお金持ちになれそうですね!」


「それは難しい」


ガルムンさんがきっぱりと言った。


「アーマーボアの中でも、こうしたボス個体は珍しい。それに、皮へ刃物の傷一つついていない状態など、さらに滅多にないからな」


「それなら、次も素手で捕まえた方がいいですね」


俺が言うと、ガルムンさんはしばらく俺を見つめた。


「……それができるならな」


彼は肉の塊を一つ、別に分けて指さした。


「それから、これは買い取らずに残しておいた」


「どうしてですか?」


「初めて仕留めた獲物の肉を、すべて売ってしまう冒険者は少ないからな。自分で食べてみるのも経験だ」


良い人だった。


俺は肉の塊を持ち上げ、匂いを嗅いだ。


山で食べていた猪より香りは弱かったが、十分に美味しそうだ。


「今日の夕食はこれにしよう」


「はい!」


ルナの顔が明るくなった。


その時、解体場の外から慌ただしい足音が聞こえてきた。


扉が開き、一人の職員が息を切らしながら駆け込んでくる。


「大変です!」


その手には、血のついた矢が握られていた。


「北の森を調査していた斥候隊が戻ってきました」


マリアの表情が険しくなった。


「負傷者がいるんですか?」


「二人が重傷です。それから、斥候隊の話では……」


職員が唾を飲み込んだ。


「アーマーボアは、一頭だけではなかったそうです」


解体場の中が静まり返った。


「森の奥に、少なくとも二十頭以上の群れが集まっているそうです」


「二十頭だと!?」


ガルムンさんが信じられないというように聞き返した。


職員は青ざめた顔で頷く。


「その中には、こいつより何倍も大きな個体もいるそうです」


俺は作業台の上に置かれたアーマーボアの牙を見つめた。


今日捕まえたものより、何倍も大きな猪か……。


山で食べたものと、同じくらいの大きさかもしれない。


「お兄様!」


ルナが俺を見た。


「夕食が増えそうですね~」


マリアとガルムンさんが、同時に俺たちの方へ顔を向けた。


ついに第5話です!


これからも応援していただけると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ