魔物たちがラグナを襲撃しました!
翌朝。
ドォン――!!
「……?!」
凄まじい音で目が覚めた。
なんだ……?
俺はすぐにベッドから体を起こした。
ドォン!!
今度は少し近い。
窓が小さく揺れた。
外からは、人々の悲鳴と怒鳴り声が入り混じって聞こえてくる。
「魔物だ!!」
「逃げろ!」
「ギルドに知らせろ!!」
……魔物?
俺はすぐに剣を掴み、部屋を飛び出した。
廊下へ出ると、ちょうど向かいの部屋の扉も開いた。
「お兄様!」
ルナだった。
いつもの朝とはまるで違う表情をしている。
すでに杖まで持っていた。
「聞こえた?」
「はい! 外が大変なことになってます!」
俺たちは同時に階段を駆け下りた。
《銀月亭》の一階も大混乱だった。
宿泊客たちは不安そうな顔で外を見ていて、
ミアさんは人々を建物の奥へ誘導していた。
「リオン! ルナ!」
「ミアさん、何があったんですか?」
「分からない! 突然、東の通りに魔物が現れたんだって!」
「東?」
「一匹や二匹じゃないらしいよ!」
その瞬間。
通りから再び轟音が響いた。
ズドン!!
「きゃあっ!」
外から悲鳴が聞こえた。
俺は扉を開けた。
「ルナ」
「はい」
「俺たちも急ごう」
「はい!」
俺たちは通りへ飛び出した。
外へ出た瞬間、状況が目に入った。
「……」
魔物がいる。
一匹や二匹じゃない。
通りのあちこちに、何十匹もの魔物が散らばっていた。
グレイウルフ。
ブラックファング。
アーマーボア。
そして見たことのない魔物まで。
店の看板は壊れ、
人々は路地や建物の中へ逃げ込んでいる。
冒険者たちもすでに戦い始めていた。
「食い止めろ!」
「民間人を先に逃がせ!」
「東からまだ来るぞ!!」
一人の冒険者が魔物の爪を受け止め、後ろへ押された。
その瞬間。
横の路地から、さらに二匹のグレイウルフが飛び出してきた。
「危ない!」
俺は地面を蹴った。
そしてグレイウルフへ向かって、一気に剣を振るう。
ザシュッ!
ザシュッ!
ザシュッ!
少し遅れて、
三匹の魔物がほぼ同時に地面へ倒れた。
近くにいた冒険者が呆然と俺を見た。
「……」
時間がない……!
俺はすぐに走り出した。
前方では、何匹ものアーマーボアがまとめて通りを塞いでいた。
体が大きいため、
他の冒険者たちは簡単には近づけないようだ。
「そっちから!」
「はい!」
ルナは反対側へ走った。
俺は剣を両手で握る。
魔物たちが一斉に突進してきた。
これまでなら一匹ずつ斬っていたかもしれない。
でも今は――
数が多すぎる。
「ふぅ……」
剣を横薙ぎに大きく振るった。
ヒュン――!
刃の先から、長く鋭い斬撃が飛び出した。
ズアアァン!!
地面すれすれを走った剣気が、アーマーボアの群れをまとめて横切る。
次の瞬間。
魔物たちの体から血が飛び散り、
突進していた群れが一斉に崩れ落ちた。
「……」
後ろにいた冒険者たちが固まった。
「今の……なんだ?」
「剣……気?」
「あんな範囲を一度に……?」
俺は剣を軽く振った。
父さんと修行していた頃なら、このくらいは何度もやっていた。
人間の町へ下りてきてから、
わざわざ使う必要がなかっただけだ。
でも今は――
使ったほうがよさそうだ。
「はあっ!」
ルナの声が聞こえた。
反対側では、何匹もの魔物が宙へ浮かび上がっていた。
「《ゲイルバースト》!」
ゴオオオオ――!
強烈な風が通りを吹き抜ける。
魔物たちはまとめて吹き飛ばされ、
壁や地面へ叩きつけられた。
それにしても……。
何かがおかしい。
「……」
俺は周囲を見回した。
魔物の数が多すぎる。
でも、それ以上におかしいのは――
動きだった。
普通の魔物なら、人間を見つければ好き勝手に襲いかかったり、
危険だと思えば逃げたりする。
でも今は違う。
魔物たちは一定の方向へ動いていた。
まるで誰かから命令されているみたいに。
「ルナ!」
「はい?」
「魔物たちの動きがおかしい!」
ルナも周囲を見回した。
「……そうですね」
その瞬間。
ピィィ――!
どこかから鋭い音が聞こえた。
口笛?
いや、少し違う。
その音が響いた直後、
近くにいたグレイウルフたちが同時に方向を変えた。
「……!」
一つの路地へ向かって走っていく。
そこには住民たちが逃げていた。
「ルナ!」
「分かってます!」
俺は先に駆け出した。
一瞬でウルフの群れの前へ回り込む。
一匹が飛びかかってきた。
俺は体を少しずらし、首元を剣の峰で打ちつける。
次。
横へ一歩動き、
剣を振るった。
さらにもう一匹。
体を低くして、そのまますれ違いざまに斬る。
数秒も経たないうちに、
ウルフたちはすべて動かなくなった。
「早く逃げてください!」
「あ、ありがとう!」
住民たちは路地の奥へ走っていった。
そのとき。
「お兄様!」
ルナが上を指差した。
建物の屋根の上。
誰かが立っている。
黒い外套。
顔の半分を隠す布。
手には、黒い金属で作られた小さな道具を持っていた。
「……あれ……!」
間違いなく見覚えがある。
ラグナ近郊の森で見つけた黒い鉄の欠片。
そして100階層で見た、
古代魔王軍の魔道具。
形があまりにも似ていた。
「見つけた……!」
俺が呟く。
屋根の上の男が俺たちを見下ろした。
その横にも、
同じような格好をした者たちが何人か現れる。
ルナが目を細めた。
「あの人たちが、魔物を動かしてるんでしょうか?」
「たぶん」
俺は大声で叫んだ。
「お前たちは何者だ!」
少しの間、沈黙が流れた。
中央にいた男が低く笑う。
「もう気づいたか」
「この魔物たち、お前たちが操ってるんだろ?」
「……」
答えない。
代わりに、
男は手にしていた黒い装置を動かした。
ピィィ――!
!!!
すると、
周囲にいた魔物たちが一斉に顔を上げた。
そして――
全てが俺たちを見た。
「……」
ルナが杖を構える。
「これではっきりしましたね……!」
「うん」
男が手を下ろした。
「始末しろ」
何十匹もの魔物が同時に襲いかかってきた。
俺は前へ出た。
「ルナ!」
「はい」
「後ろを頼む」
俺は剣を握った。
そして魔物たちが間合いに入った瞬間――
ヒュン!!
剣を大きく振り抜いた。
ズアアァン――!!
巨大な剣気が凄まじい速さで広がっていく。
斬撃が通り抜けた場所では、
魔物たちが血を撒き散らしながら次々と倒れていった。
「な……」
屋根の上にいた男たちの表情が、
初めて変わった。
「あの剣士……」
俺は地面を蹴った。
次の瞬間には、
屋根の上。
男の一人が驚いて後ずさった。
「いつの間に――」
俺は奴の手にある装置へ剣を振るった。
ガキン!
黒い装置が真っ二つに割れる。
「くっ!」
男が短剣を抜いた。
だが遅い。
俺は手首を打って短剣を落とさせ、
そのまま剣先を喉元で止めた。
「さあ、話せ」
「……」
「お前たちは何者だ?」
男が歯を食いしばる。
そのとき、
横にいた別の男が叫んだ。
「撤退!」
「なに?」
黒い煙が弾けた。
ボンッ!!
「くっ!」
視界が遮られる。
俺はすぐに後ろへ下がった。
煙が晴れた頃には、
屋根の上にいた奴らはすでに遠くへ逃げていた。
「逃げてます!」
ルナが言った。
「追う!」
俺が動こうとした、その瞬間。
「リオン!!」
下から誰かが叫んだ。
ガイルさんだった。
「西の通りにも魔物が出た!」
「……!」
俺は遠ざかっていく黒い外套を見た。
今追えば、
捕まえられるかもしれない。
でも――
街の中にはまだ魔物が残っている。
「ルナ」
「はい」
「まずは人を助けよう」
ルナも少しだけ奴らを見つめ、
すぐに頷いた。
「はい!」
俺たちは再び通りへ飛び降りた。
ガイルさんとセリアさん以外にも、
大勢の冒険者が集まっていた。
しかし状況は良くない。
魔物の数が多すぎる。
負傷した冒険者たちが道端に座り込み、
ギルド職員が彼らを後方へ運んでいた。
遠くからは今も戦闘音が響いている。
ガイルさんが息を切らしながら聞いた。
「あいつらとやり合ったのか?」
「はい」
「何者なんだ?」
「まだ分かりません」
俺は壊れた黒い装置の欠片を見せた。
ガイルさんが顔をしかめる。
「……これ」
「100階層で見たものと似てますよね?」
「ああ」
セリアさんが言った。
「じゃあ、本当に誰かが古代魔王軍の技術を使ってるってこと?」
「たぶん」
そのとき。
さっき逃がした黒い外套の男が、
遠く離れた建物の上に姿を現した。
そして俺たちを見下ろしながら言った。
「思ったより厄介な奴らがいたようだな」
ガイルさんが剣を構える。
「貴様ら、何者だ!」
男はしばらく俺たちを見つめていた。
やがて、
ゆっくりと口を開いた。
「《黒環》」
「……黒環?」
「覚えておけ」
男が笑った。
「まあ、死ねば覚えていることもできないだろうがな!」
その直後。
男が手を上げた。
ピィィィ――!
今度は、さっきよりも遥かに大きな音が街全体へ響き渡った。
そして。
ズウゥン……。
遠くで何かが動いた。
一匹じゃない……!
何匹も。
いや――
何十匹だ。
通りの先から、
新たな魔物の群れが姿を現した。
ガイルさんの表情が固まる。
「……まだいるのか?」
セリアさんが矢をつがえた。
ルナも杖を強く握る。
俺は剣を構えた。
「ルナ」
「はい」
「少し忙しくなりそうだな」
ルナは魔物の群れを見ながら頷いた。
「そうですね……」
ラグナの朝は――
まだ終わる気配すら見えなかった。
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