51階層から、ダンジョンが完全に変わってしまいました!
ドン……!
50階の奥から、もう一度大きな振動が響いた。
ルナは期待に満ちた顔で扉を見つめている。
「お兄様!」
「うん」
「早く入ってみましょう!」
「ちょっと待って」
「はい!」
返事はしてるのに、もう体は扉の方へ向かってるんだけど……。
ガイルさんがそんなルナを見てため息をついた。
「普通、あんな音が聞こえたらまず緊張するもんなんだけどな……」
セリアさんが笑った。
俺たちはゆっくりと扉を開けた。
ギィィィ……。
扉の向こうには、今まで見た階層の中でも一番広い空間が広がっていた。
天井もかなり高い。
そしてその中央には、巨大な魔物が一体うずくまっていた。
最初は大きな岩かと思った。
だが、俺たちが中へ入ると、
スッ。
そいつがゆっくりと顔を上げた。
「……あれは!」
ガイルさんが剣を抜いた。
黒に近い濃い灰色の鱗。
背中に沿って生えた、硬そうな突起。
四つん這いになっているのに、アーマードトロールよりもずっと大きい。
何より、頭には太い角が二本も生えていた。
「グルルルル……」
低い唸り声だけで空気が震える。
ルナが感嘆の声を上げた。
「わあ!」
「ストーンドラゴンだ……!」
「ドラゴンですか?!」
ルナが驚いてガイルさんを見た。
俺も少し驚いた。
竜だって?
父さん以外の竜を見るのは初めてだ……!
でも……。
俺はもう一度そいつを見た。
「……あれがですか?」
「なんでそんな反応なの?」
セリアさんが聞いた。
「いや、俺が思ってた竜とちょっと違うなって……」
「まあ、そう思うのも無理はないな」
ガイルさんが言った。
「名前にドラゴンってついてはいるが、本物の竜種じゃない。竜に似た姿をした大型の魔物だ」
あ~。
やっぱりそうだったのか~。
どうりで小さすぎると思った。
「お兄様」
ルナが小声で囁いた。
「父さんと比べると、ものすごく小さいですね~」
「俺も同じこと考えてた」
「二人で何をこそこそ話してるの?」
「あ、何でもありません!」
危なかった!
ガイルさんは目の前の魔物に集中しながら続けた。
「ストーンドラゴンはBランク上位に分類される魔物だ。名前の通り鱗が岩みたいに硬くて、力もとんでもなく強い……」
「Bランク上位……」
前に倒したアイアンファングベアより強いのか。
「それと、あの尻尾には気をつけろ!」
ガイルさんが言い終えた、その瞬間だった。
「グルアアアアア!!」
ストーンドラゴンが突然体をひねった。
ブゥン――!
巨大な尻尾が俺たちの方へ薙ぎ払われる。
「避けろ!」
俺たちは同時に後ろへ飛び退いた。
ドガァン!!
尻尾が壁を叩いた。
壁の一部がそのまま崩れ、石の破片がパラパラと落ちてくる。
「………!!」
確かに強いな。
「来るぞ!」
今度は四本の脚で床を蹴り、こちらへ突っ込んできた。
ドン!
ドン!
ドン!
あの巨体なのに、かなり速い。
ガイルさんとセリアさんが左右へ散った。
セリアさんがすぐに弓を引く。
ヒュッ!
ヒュッ!
二本の矢がストーンドラゴンの目の周りへ飛んだ。
奴が顔を逸らして避けた瞬間、
「はあっ!」
ガイルさんが脇腹へ飛び込んだ。
ガァン!!
剣と鱗がぶつかり、金属みたいな音が響いた。
「くっ……!」
ガイルさんが後ろへ下がる。
鱗には浅い傷しか残っていなかった。
「硬いな……」
「じゃあ私がやってみます?」
ルナが杖を持ち上げる。
「待って」
俺がルナを止めた。
「今度は俺がやってみるよ……!」
「お兄様がですか?」
「うん」
さっきから峰打ちばかりだったせいで、少し物足りなくもあったし……あれだけ硬いと言われた鱗が、実際どれくらい硬いのかも気になる。
俺は剣を抜いて前へ出た。
「リオン!」
ガイルさんが叫んだ。
「気をつけろ!」
「大丈夫です」
ストーンドラゴンが俺を睨みつける。
「グルル……」
奴が地面を引っ掻き始めた。
そして――
ドン!
一気に突っ込んできた。
大きな頭を低くしたまま、そのまま俺を吹き飛ばすつもりらしい。
俺は一歩横へずれた。
奴の頭がすぐ横を通り過ぎた瞬間、
剣を下から上へ振り抜いた。
ザンッ!
「グアアアアッ!」
硬いと言われていた鱗が、そのまま斬り裂かれた。
ストーンドラゴンはバランスを崩し、横へ転がる。
ドン!!
「……」
ガイルさんがその場で固まった。
「え?」
俺も剣を見下ろす。
思ったより簡単に斬れるけど?
だが、奴はまだ倒れていなかった。
ストーンドラゴンが再び体を起こす。
「グルアアアア!」
怒ったように大きく咆哮した。
すると口の奥に赤い光が集まり始める。
「ブレスだ!」
ガイルさんが叫んだ。
「全員避けろ!」
ブレス?
まさか、父さんが使ってたあの技……!!
これは本当に気になる!!!!!!!!!
「お兄様!」
今度はルナが俺の前へ飛び出した。
「私が防ぎます!」
「え?」
ルナが杖を床へ突きつける。
「《アースウォール》!」
ゴゴゴゴゴッ!!
目の前に分厚い石壁がせり上がった。
そして次の瞬間。
ゴォォォッ!!
赤い炎が石壁を包み込んだ。
ここまで熱気が伝わってくる。
だが、石壁は崩れない。
数秒後、炎が止んだ。
「できました~!」
ルナが嬉しそうに言った。
だがガイルさんは石壁を見たまま、口を開けていた。
「……ブレスを壁一枚で防いだ?」
「どうしてですか?」
「いや……何でもない……」
俺はすぐに石壁の横から飛び出した。
ブレスを吐いた直後だからか、ストーンドラゴンは少しの間動けないようだった。
今度はわざわざ剣を使わなかった。
奴の頭の前まで行き、拳を強く握る。
「ふんっ!」
ドゴッ!!!
頭を横から思い切り殴った。
「グアッ?!」
ストーンドラゴンの巨体が横へ押し流された。
そして、そのまま床へ倒れる。
ドン!
「……」
静かだ。
少し待ってみたが、起き上がる様子はなかった。
「終わったみたいですね」
俺が言うと、セリアさんは倒れたストーンドラゴンと俺の拳を交互に見た。
「……剣は何のために持ってるの?」
「うーん……確かに」
ルナが嬉しそうに走ってきた。
「お兄様! 鱗も高く売れますよね?」
「たぶん?」
「角もですか?」
「それも高いんじゃないかな?」
「お肉も食べられますか?」
あああ……。
また肉の話か。
ガイルさんが言った。
「ストーンドラゴンの肉なら食べられるぞ」
「本当ですか?!」
ルナの目が今日一番明るく輝いた。
「美味しいですか?」
「俺も食べたことはないけど、高級食材だとは聞いてる」
「お兄様……!」
「うん」
「絶対に持って帰りましょう!!」
「分かったよ……」
50階の階層守護者を倒すと、
ゴゴゴゴゴ……。
広場の奥にあった巨大な扉がゆっくりと開いた。
その向こうには、下へ続く階段が見えた。
ガイルさんがしばらくその階段を見つめる。
「……まさか、本当に下へ行くつもりじゃないだろうな?」
「はい?」
ルナが首を傾げた。
「50階までって約束しただろ」
「でも、まだ日も沈んでないですよね?」
「ここはダンジョンだから日なんて見えないだろ!」
セリアさんが吹き出した。
ガイルさんは頭を抱えたあと、大きくため息をついた。
「とりあえず、51階の入口までだけ見に行くぞ」
「は~い!」
結局行くんだ。
俺たちは階段を降りていった。
かなり長く続く階段の先に、新しい扉が現れた。
その上には数字が刻まれている。
【51】
ガイルさんが扉の前で立ち止まった。
「ここから先は、たぶん今までとは完全に違うぞ」
「何がですか?」
俺が聞くと、ガイルさんが扉を押した。
ギィ……。
そして扉が開いた瞬間。
「……え?」
俺はその場で立ち止まった。
風が吹いてきた。
本物の風だ。
葉が揺れる音。
草の匂い。
どこかから聞こえてくる、鳥のような生き物の鳴き声。
そして目の前には……。
果てが見えないほど巨大な森が広がっていた!
頭上には青い光を放つ何かがあり、まるで外の空みたいに森全体を明るく照らしている。
「……ここ、本当にダンジョンの中なのか?」
思わず呟いた。
ルナはしばらく口を開けたまま森を見つめていたが、
突然両腕を勢いよく上げた。
「お兄様!」
「うん?」
「森です!!」
「見えてるよ」
「本当に森ですよ!」
「だから見えてるって……」
ルナは今にも飛び出していきそうなくらい体を弾ませている。
ガイルさんがそんなルナの服の襟を掴んだ。
「待て」
「どうしてですか?」
「51階からが、本当の深層と呼ばれる理由がこれだ」
ガイルさんは目の前の森を見つめた。
「ここから先は、階層ごとに地形そのものが変わる」
「階層ごとにですか?」
「ああ」
森の向こうから、何かの低い鳴き声が響いた。
木の上に止まっていた小さな生き物たちが、一斉に飛び立つ。
ルナの目がまた輝いた。
「……お兄様……!」
……どうやらこのダンジョンは、
ここからが本当の始まりらしい。
何も考えずに今まで「階」と書いていたのですが、「階層」のほうが合っている気がします……!
次話からは「階層」に統一しようと思います……!




