鉱山には魔物がたくさんいました!
翌朝。
俺たちは再び、冒険者ギルドの依頼掲示板の前に立っていた。
「お兄様~」
「うん」
「今日は絶対に、魔物を倒す依頼にしましょう!!」
「分かったよ……」
「調査じゃなくて!」
「分かったって~」
「素材を売れる魔物なら、もっといいです!!!」
「うん……」
「食べられるなら……!」
「その条件は、もう言わなくても分かるよ……」
ルナは満足そうに頷いた。
昨日から、いったいどれだけ根に持ってるんだ。
俺は掲示板をゆっくり見ていった。
ゴブリン討伐。
商隊護衛。
薬草採取。
農家周辺の魔物退治。
そして、その中で一つの依頼が目に入った。
【ラグナ東部・第三鉱山周辺の魔物討伐】
依頼ランクはC。
最近、鉱山の入口や運搬路周辺に魔物が頻繁に現れ、鉱夫たちの作業を妨害しているため、周辺を巡回しながら魔物を討伐してほしいという内容だった。
「お、これはどう?」
俺が依頼書を指差した。
ルナが素早く読む。
「Cランク……魔物討伐……!」
そして最後の行まで読むと、顔を上げた。
「いいですね~!」
こうして俺たちは依頼書を外し、受付へ持っていった。
職員は内容を確認してから言った。
「第三鉱山の討伐依頼ですね……」
「はい」
「最近、あちらではグレイウルフやロックリザードといった魔物の出現が増えています。本来なら、鉱山のすぐ近くまで頻繁に下りてくる種類ではないんですけどね」
また魔物の移動の話か。
俺は思わず少し考え込んだ。
するとルナが隣で俺の袖を引っ張った。
「お兄様~」
「ん?」
「今日は調査しに行くわけじゃないですよね~?」
「討伐依頼だって」
「よかった~」
何がそんなに安心なんだ。
職員は地図を一枚渡してきた。
「東門を出て、大通りをそのまま進んでください。徒歩で二時間ほどです。鉱山の管理所に着いたら、現場責任者にこちらの書類を見せてください」
「分かりました」
「それから……」
職員が少し心配そうな顔をした。
「鉱山の奥へは、あまり深く入らないでください。今回の依頼範囲は入口と運搬路周辺です」
「はい」
「分かりました!」
ルナまで元気よく答えた。
……なんだか少し不安だな。
俺たちはラグナの東門を出た。
街から離れるにつれて道を行き交う馬車は減り、周囲の景色も農耕地から徐々に岩だらけの丘へと変わっていった。
一時間ほど歩いた頃から、遠くに灰色の山が見え始めた。
山のふもとには何本もの道が伸びていて、重そうな鉱石を積んだ馬車がラグナ方面へ行き交っている。
「わあ~」
ルナが鉱石を積んだ馬車を見つめた。
「あれ、全部鉱山から採れたものなんですか?」
「そうみたいだね」
「ふふ……あれも高く売れるんでしょうね?」
「俺たちが掘ったわけでもないのに、なんで値段から考えるんだよ……」
「ただ気になっただけですよ~」
…………本当に?
もう少し進むと、大きな木製の看板が見えてきた。
【第三鉱山】
その下には小さな管理所や倉庫、鉱夫たちが寝泊まりする建物が集まっていた。
そして予想通り、ドワーフが多い!!
「お兄様」
ルナが小声で言った。
「ドワーフがすごく多いですね~」
「鉱山だからじゃないかな」
背は低いが、がっしりした体格。
太い腕。
長い髭を生やした者が多く、ほとんどがツルハシやハンマーを手にしていた。
俺たちが管理所へ近づくと、一人のドワーフがこちらに気づいた。
灰色の髭が胸元まで伸びた中年のドワーフだった。
「何だ? 観光客か?」
「いえ。冒険者ギルドから来ました」
俺は依頼書を見せた。
ドワーフは紙を受け取って確認する。
「ほお」
彼は俺たちを上から下まで眺めた。
「お前たち二人がCランク依頼を受けたのか?」
「仮のCランクです」
「仮?」
彼の視線が俺とルナの顔を交互に行き来する。
「ずいぶん若そうだが」
ルナがすぐに言った。
「でも強いですよ!」
「……」
ドワーフが瞬きをした。
「まあ、それはそのうち分かるだろう」
「はい!」
なんでそんなに堂々としてるんだ。
ドワーフは、自分は第三鉱山の現場責任者でボルデンという名前だと名乗った。
「ここ一週間ほどで、魔物の出現が急に増えた」
ボルデンさんが鉱山入口のほうを指差した。
「特にあっちの運搬路だ。岩が多くて見通しが悪いから、隙間に潜んで鉱夫や馬車を襲う奴が出てきた」
「怪我人もいるんですか?」
「大怪我をした奴はまだいない。だが昨日は鉱石を積んだ馬車が一台ひっくり返った」
その言葉を聞いて、ルナが辺りを見回した。
「どんな魔物が出るんですか?」
「グレイウルフが一番多い。それからロックリザードもいる」
「食べられますか?」
「……何?」
ボルデンさんがルナを見た。
「ロックリザードです!」
「食えることは食えるが……」
「美味しいですか?!」
「……」
ボルデンさんが俺を見た。
どうして俺を見るんですか、ボルデンさん?
結局俺は、知らない人ですと言わんばかりの顔で視線をそらした。
「ふむ……焼けば悪くない」
ボルデンさんがついに答えた。
ルナの顔が明るくなる。
「おお……」
まずい。
今の顔は間違いなく、狩る気が一気に上がった顔だ。
この辺り一帯を狩り尽くすつもりじゃないだろうな……!
「とりあえず依頼からやろう」
「はい!」
俺たちはボルデンさんに案内され、鉱山入口近くの運搬路へ向かった。
道の両側には、人の背丈をはるかに超える岩が並び、あちこちに鉱石を積んだ荷車が通った跡が残っていた。
「この周辺を一周して、魔物を見つけたら処理すればいい」
「分かりました」
「ロックリザードは岩と色が似ていて見つけづらい。足元にも気をつけろ」
ボルデンさんはそう言い残し、管理所へ戻っていった。
俺たちは二人で、ゆっくり道を歩き始めた。
十分ほど経っただろうか……。
何も出てこない……。
「お兄様~」
「ん?」
「魔物がいません……」
「いいことじゃない?」
「依頼なのに」
「いないなら安全ってことだろ」
「じゃあ素材は?」
……また始まったな。
その時だった。
コロッ。
小さな石が一つ、上から転がり落ちてきた。
俺は顔を上げた。
「ルナ」
「はい?」
「上を見て」
ルナが見上げる。
岩の上に何かが張り付いていた。
灰色の鱗。
平べったい体。
体長は俺の身長ほどある。
「あれがロックリザードみたいだ」
「おおっ!」
ルナが感嘆の声を上げた。
ロックリザードは俺たちに気づくと、姿勢を低くした。
そして。
ヒュッ!
岩の上から、そのまま飛び降りてきた。
俺に向かって。
「また真正面から来るのか」
俺は剣を抜いた。
今回は首を斬らなかった。
体を横へひねりながら、剣の峰でロックリザードの頭を軽く叩く。
ドゴッ!
「ギィッ?!」
ロックリザードはそのまま地面へ叩きつけられた。
そして動かなくなった。
「……」
ルナが俺を見る。
「何?」
「斬らなかったんですね」
「最近、斬りすぎな気がして」
「そんなことも気にするんですか?」
「少しね」
毎回突っ込んでくる魔物の首ばかり斬ってると、俺だってちょっと気分が悪くなるんだよ……。
ルナがしゃがみ込み、ロックリザードを見つめた。
「これ、食べられるって言ってましたよね~?」
「依頼が終わったら詳しく聞こう」
「いいですね!」
その時。
ガサガサ。
今度は岩の向こう側から音がした。
一匹。
二匹。
三匹。
ロックリザードが次々と姿を現す。
「お兄様」
「うん」
「多いですね~~~!」
「そ、そうだね」
五匹。
六匹。
七匹。
……。
「思ったよりずっと多いな……?」
ロックリザードたちは俺たちを取り囲むように、ゆっくり動き始めた。
ルナが手のひらを前へ向けた。
「私がやりましょうか?」
「あまり強くしすぎないでね」
「分かってますよ~」
いや、一つも分かってない気がする……。
ロックリザードが数匹、同時に飛びかかってきた。
その瞬間。
「《ゲイルバースト》!」
ゴオオオッ!
ルナがちゃんと魔法を使っているところを見ると、かなり楽しんでいるらしい。
強烈な風が俺たちの周囲を円状に吹き抜けた。
ロックリザードたちは空中でそのまま体勢を崩し、吹き飛ばされる。
ドサッ!
ドン!
ゴロゴロッ!
岩や地面の上へ次々と落ちていった。
「……」
俺はしばらく何も言えなかった。
「ルナ」
「はい?」
「加減したんだよね?」
「はい!」
「本当に?」
「もちろんです!」
周囲に倒れている七匹のロックリザードをもう一度見る。
まあ、死んではいないみたいだし……。
「これで倒していいですよね?」
ルナが楽しそうに聞いた。
「うん」
結局、俺は一匹ずつ動けないように処理した。
その後も運搬路を進んでいる間に、ロックリザードを何匹かと、グレイウルフの群れをさらに見つけた。
だが、異常なほど数が多い。
一匹や二匹じゃない。
次から次へと出てくる。
「ボルデンさん、一週間くらい前から増えたって言ってたよね?」
「はい」
「これじゃ鉱夫たちも仕事しづらいだろうな……」
ルナも頷いた。
「それにしても、今日はみんな襲ってきますね」
「えっ……確かに」
昨日見た魔物たちとは違う。
こっちの魔物は普通に俺たちを敵だと認識し、襲いかかってきた。
その点だけはおかしくない。
問題は数だった。
その時、前方から大きな音が響いた。
ドォン!!
「何だ?」
「あっちです!」
俺たちは音のした方向へ走った。
運搬路を曲がると、何人かの鉱夫が見えた。
そして彼らの前には、大きな岩が一つ、道を完全に塞いでいた。
高さは人間三人分くらいありそうな巨大な岩だった。
「くそっ!」
鉱夫の一人が叫んだ。
「また落ちてきた!」
「荷車が通れないぞ!」
「早く人を呼べ!」
俺たちが近づくと、鉱夫の一人が言った。
「危ないから近づくな! 今、上の崖から落ちてきたんだ!」
俺は岩を見た。
道の真ん中を完全に塞いでいる。
「これをどかすのは時間がかかりますか?」
「当たり前だ!」
鉱夫が呆れたように言った。
「あの大きさじゃ十人がかりでも動かない! 砕いてから運ぶしかないぞ」
「そうですか」
俺は岩の前へ歩いていった。
「お兄様?」
ルナが後ろから呼んだ。
「ちょっと待ってて」
剣を抜こうかと思ったが、やめた。
前にも岩を剣で斬ったし。
今回は……!
俺は岩の下側へ手を差し込んでみた。
「ん?」
横にいた鉱夫が変な顔をする。
「何してるんだ?」
「動かそうと思って」
「何?!」
俺は少し腰を落として、力を入れた。
「ふっ!」
ゴゴゴゴゴ……。
「……?!」
岩が動いた。
「え?」
鉱夫が呆けた声を出す。
俺は岩を少し持ち上げた。
思ったより重くはあった。
だが、父さんが山で運べと言ってきた、本当に重い岩たちと比べればずっと軽い。
「ルナ!」
「はい?」
「どこに置くのがいい?」
「あっちのほうが道が広いです!」
「分かった」
俺は岩を持ち上げたまま横へ数歩移動した。
ドン!
そのまま道端へ下ろす。
土煙が一気に舞い上がった。
「……」
周囲が静まり返った。
鉱夫たち全員が俺を見ている。
「どうしたんですか?」
俺が聞いても、誰も答えなかった。
しばらくして、一人のドワーフ鉱夫がゆっくり口を開いた。
「お前……それ、どうやって持ったんだ?」
「え?」
「その岩だ!」
俺は岩を振り返った。
「かなり重かったですけど?」
「そ、それだけか?!」
なんで怒ってるんだ?
「お兄様は元々力が強いんですよ~」
ルナが誇らしげに言った。
その瞬間、ドワーフたちが一斉にルナを見た。
「…………」
その時、管理所のほうからボルデンさんが走ってきた。
「何があった?!」
彼は道端へ置かれた巨大な岩を見つけた。
「……誰がどけた?」
鉱夫たちが一斉に俺を指差した。
ボルデンさんが俺を見る。
そして岩を見る。
もう一度俺を見る。
「え? お前が?」
「はい」
「一人で?」
「はい」
「……」
みんな同じ反応するな……。
ボルデンさんはしばらく何も言わなかった。
やがて、呆れたように首を振った。
「最近の若い冒険者は、いったいどうなってるんだ……」
「私たち、ちょっと強いんです!」
ルナがまた口を挟んだ。
こうして運搬路は再び通れるようになった。
鉱夫たちは何度も俺たちに礼を言い、中には今でも俺の腕を不思議そうに見ている者もいた。
依頼範囲をほとんど回り終えた頃。
俺たちが処理した魔物は、ロックリザード十一匹とグレイウルフ九匹だった。
「いっぱい倒しましたね~」
ルナが満足そうな表情を浮かべた。
「これで満足?」
「はい!」
本当に単純だな。
俺たちは死体の中から持って帰れるものをまとめ、管理所へ戻った。
ボルデンさんは数を聞くなり目を見開いた。
「二十匹?」
「はい」
「半日も経ってないぞ?」
「たくさん出てきたので」
ボルデンさんの表情が険しくなった。
「やっぱりおかしいな……」
「普段はこのくらい出ないんですか?」
「当たり前だ」
彼は腕を組んだ。
「この数じゃ、鉱山周辺に巣でもできたようなもんだが……」
俺は少しだけ、昨日の森での出来事を思い出した。
魔物たちの異常な移動。
そして黒い金属片。
だが、今日会った魔物たちには特に変な行動はなかった。
ただ、数が多かっただけだ。
「とりあえず、ギルドにも報告しておきます」
俺が言うと、ボルデンさんは頷いた。
「ああ。頼む」
そして彼がロックリザードの死体を見た。
「それ、全部ギルドへ持っていくのか?」
その瞬間、ルナが一歩前に出た。
「食べられるって言ってましたよね?」
ボルデンさんがニヤリと笑った。
「その話、まだ覚えてたのか?」
「当然です~!」
「尻尾の肉は結構うまいぞ」
「本当ですか?!」
「焼いて塩を振るだけでも、かなりいける」
ルナの目が輝いた。
今日の夕飯が決まってしまった……。
「お兄様~」
「うん」
「ロックリザードのお肉、何匹分持って帰ります?」
「一匹分で十分じゃない?」
「二匹ですか?」
「なんで増えた?」
「一匹じゃ足りないかもしれないじゃないですか」
「お前一人で食べるわけじゃないんだぞ?」
「お兄様も食べるでしょう?」
「……」
まあ、そうだけど。
結局、俺たちはロックリザード二匹分の肉を残すことにした。
鉱山を離れる時、ボルデンさんと鉱夫たちが手を振ってくれた。
「また来いよ!」
「岩が落ちたら絶対呼ぶからな!」
「それを依頼にしないでください!」
俺が叫ぶと、鉱夫たちは大笑いした。
ルナも隣で笑っている。
今日は変な金属片もなかったし、
正体不明の音に従って動く魔物もいなかった。
ただ魔物を倒し、人を助け、美味しそうな肉まで手に入れた一日だった。
うん。
やっぱり冒険者の依頼は、こういうほうがずっと気が楽だ。
「お兄様~」
「ん?」
「今日の夕食、ロックリザードを焼いてもらえばいいですよね?」
「また銀月亭の料理長さんに?」
「はい!」
「俺たちのせいで、だんだん魔物専門の料理人になってない?」
「いいことじゃないですか!」
……料理長さんの気持ちもちょっとは考えてあげようよ……。
こうして俺たちは、ロックリザードの肉を持ってラグナへ戻った!
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