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ついに新しい都市へ旅立ちます!

マリアさんについてギルドへ戻ると、俺たちは奥にある小さな応接室へ案内された。


部屋の中には大きな机が一つと、数脚の椅子が置かれていた。


机の向こうには、灰色の髪をきっちりと後ろへ撫でつけた中年の男が座っている。


左目には小さな眼鏡をかけており、机の上には何枚もの書類が整然と並べられていた。


その隣にはガルムンさんも立っていた。


「来たか」


中年の男は俺たちを見ると、椅子から立ち上がった。


「私はレーベン冒険者ギルドの副ギルド長、ロドリックだ」


「リオンです」


「ルナです~」


「二人の話は、嫌というほど聞いている」


ロドリック副ギルド長の視線が、俺とルナをゆっくりと見回した。


「冒険者登録試験では訓練用の人形と壁を壊し、初めての依頼ではアーマーボアを生け捕りにして持ち帰り、昨夜はクリムゾンボアを倒したそうだな」


「はい」


「そして今日は、ヴェノムドレイクを一度斬っただけで仕留めたと聞いた」


「はい」


「……本当に一度だけなのか?」


「首を一度斬りました」


ロドリック副ギルド長は、しばらく何も言わなかった。


それから片手で額を押さえた。


「報告書を読んだ時点でも信じ難かったが、直接聞くと余計に信じられなくなるな……」


隣に立っていたガルムンさんが頷いた。


「ですが、事実です。切断面も私が直接確認しました」


「普通の剣で、ヴェノムドレイクの首を鱗ごと斬り落としたというのか?」


「はい」


「剣は折れなかったのか?」


「まったく折れていません……」


ロドリック副ギルド長は、今度は俺の腰に下がっている剣を見た。


「もしかして、その剣は特別な品なのか?」


「いいえ。山にいた頃から使っているだけの剣です……」


「……どう見てもかなり特別な剣に思えるが、これ以上は聞かないでおこう」


ロドリック副ギルド長は再び椅子に腰を下ろした。


「まずは精算の話からだ」


彼は机の上に置かれていた書類を一枚手に取った。


「それから、昨夜倒したクリムゾンボアと、今日持ち帰ったヴェノムドレイクの査定がある程度終わった」


ルナの目が輝いた。


「いくらですか?」


「ルナ」


「大事なことじゃないですか~」


間違ってはいない。


俺もロドリック副ギルド長を見つめた。


彼は一度咳払いをしてから、書類を読み上げた。


「クリムゾンボアは甲殻、牙、魔石、血、肉をすべて含め、金貨58枚と査定された」


「金貨58枚!」


予想していた金貨50枚より多い。


「状態が非常によかったからだ。首の部分を除けば、皮にも甲殻にもほとんど傷がなかった」


ガルムンさんが付け加えた。


「あれほど綺麗な状態のクリムゾンボアは、俺も初めて見た」


「ヴェノムドレイクは?」


ルナがすぐに尋ねた。


「そちらは毒袋と魔石の査定がまだ完全には終わっていないが、ひとまず金貨120枚と見積もられている」


「120枚!」


俺とルナは同時に声を上げた。


「最終査定が終われば、もう少し上がる可能性もある」


クリムゾンボアと合わせれば、金貨178枚だ。


これだけあれば、蜂蜜パンをいくつ買えるのだろう。


ざっと計算しようとしたが、すぐに諦めた。


もう蜂蜜パンを基準に考えるのはやめたほうがよさそうだ。


ルナが指を折りながら呟いた。


「お肉の串焼きが一本、銅貨2枚だったから……」


……ルナの場合は串焼きが基準なのか。


まさか、本当にそれだけ買うつもりじゃないだろうな?


「串焼きを買うのに、全部使うつもりじゃないよね……?」


「全部ではありませんよ~」


「半分も駄目だからな」


「では、三分の一は?」


「駄目」


ルナは残念そうに唇を尖らせた。


ロドリック副ギルド長は笑いを堪えるように口元を手で隠した。


「二人には、まず金の管理から教える必要がありそうだな」


「俺もそう思います」


俺は真剣に頷いた。


「お兄様も、お金の価値をよく分かっていないじゃないですか~」


「それでもルナよりは分かっている」


「昨日、銀貨1枚で蜂蜜パンを何個買えるのか、ずっと計算していたじゃないですか」


「……」


ロドリック副ギルド長は机の引き出しから、小さな革袋を二つ取り出した。


「ひとまず今すぐ支払える分だけ、二つに分けて入れてある。残りについては、ヴェノムドレイクの最終査定が終わり次第、精算書を回しておく。別の街のギルドで受け取ればいい」


俺は革袋を一つ受け取った。


ずっしりと重い。


中には金貨と銀貨がぎっしり入っていた。


ルナは自分の袋を振ってみようとしたが、俺は慌ててその手首を掴んだ。


「ここで中身をこぼしたら駄目だ」


「音が気になったんです~」


「宿に戻ってから聞いて……」


「はい~」


ロドリック副ギルド長は、今度は別の書類を広げた。


「それから、二人の冒険者ランクについてだ」


「ランクですか?」


「現在、二人はDランクだな」


俺たちは登録試験を受けた後、そのままDランクになった。


「だが、実績だけを見れば、すでにDランクの範囲を大きく超えている」


「では、Cランクに上がるのですか?」


「原則として、一定数の依頼達成回数と活動期間が必要だ」


ロドリック副ギルド長は、指先で机を軽く叩いた。


「どれほど強くても、冒険者としての経験が不足している者を、すぐに高いランクへ上げるのは危険だからな」


「なるほど」


「とはいえ、今回の功績を無視することもできない」


彼は俺たちの前に、小さな金属製のプレートを二つ置いた。


今まで持っていたものと同じ形をしているが、中央に刻まれた文字が違っている。


「仮Cランク証だ」


「仮、ですか?」


「正式なCランクとほぼ同じ依頼を受けられるが、しばらくはギルドの確認を受ける必要がある。ラグナへ到着した後、向こうのギルドでいくつか依頼をこなせば、正式な昇格審査を受けられるだろう」


ルナは金属プレートを持ち上げた。


「では、もっと強い魔物を倒せるんですか~?」


「やはり、そちらが先なのか……?」


ロドリック副ギルド長は呆れた表情を浮かべた。


「報酬の高い依頼も受けられる」


「わあ~、いいですね!」


やはり金の話が出ると、すぐに喜ぶ。


俺も新しいプレートを眺めた。


Dと刻まれていた部分に、Cの文字が刻まれている。


冒険者になってからまだ数日しか経っていないのに、もうCランクだなんて。


どうやら冒険者というのは、思っていたよりも早くランクが上がるらしい。


「普通は数年かかる」


ロドリック副ギルド長が、俺の考えを読んだかのように言った。


「え? 本当ですか?」


「二人がおかしいんだ」


ガルムンさんがきっぱりと付け加えた。


ロドリック副ギルド長は、ラグナと書かれた書類を俺たちのほうへ滑らせた。


「では、本題に入ろう」


ラグナはレーベンから東へ、三日ほどの距離にある大都市らしい。


レーベンよりも城壁がはるかに高く、人口も数倍多い。


商店や宿、飲食店はもちろん、武器屋、魔道具店、大規模な競売場まであるという。


「競売場ですか?」


ルナが首を傾げた。


「高価で珍しい品を、複数の人間が値を上げながら買う場所だ」


「食べ物も売っていますか?」


「普通は売っていない」


「残念です」


ルナと話していると、本当に何の話でも食べ物へ繋がるな……。


ロドリック副ギルド長は説明を続けた。


「ラグナ周辺では最近、魔物の数が急激に増えているらしい」


「強い魔物もいるのですか?」


俺が尋ねると、ロドリック副ギルド長の表情が少し険しくなった。


「正確な原因はまだ分かっていない。だが、鉱山や周辺の街道で魔物による襲撃が増え、商人たちに大きな被害が出ているそうだ」


「それで、腕の立つ冒険者を探しているのですか?」


「そうだ。ラグナのギルドが、各地へ応援要請を出している」


彼は俺たちを見た。


「二人に無理やり任せる依頼ではない。本来なら、登録したばかりの冒険者に頼むような仕事でもないからな」


「ですが、俺たちならできると思ったのですね?」


「正直に言えば、そうだ」


ロドリック副ギルド長は苦笑した。


「ヴェノムドレイクを一撃で倒す冒険者に、普通のゴブリン討伐ばかり任せるわけにもいかないだろう」


それはそうだ。


弱すぎる魔物ばかりでは、すぐに終わってしまって少し物足りない。


もちろん、早く終われば街を見て回れるという利点もあるけれど。


「ラグナへ行きます」


俺が答えると、ルナもすぐに手を挙げた。


「私も行きます~!」


「市場も大きいと聞いたから?」


「まあ、それもありますけど」


ルナは少し考えた。


「食べ物屋さんも多いと言っていたじゃないですか~」


やはり、それが理由なのか。


ロドリック副ギルド長は予想していたように頷いた。


「ちょうど明日の朝、レーベンを出てラグナへ向かう商隊がある」


「商隊……」


「複数の商人が馬車を連ね、まとまって移動する一団だ。食料品や布、薬品などをラグナへ運ぶらしい」


「その人たちと一緒に行けばいいのですか?」


「そうだ。本来はCランク冒険者四人が護衛を担当する予定だった。二人が同行すれば、商隊も安心するだろう」


「俺たちも護衛依頼を受けるのですか?」


「望むならな」


ロドリック副ギルド長は依頼書を取り出した。


「レーベンからラグナまで、商隊を護衛する依頼だ。基本報酬は一人につき金貨2枚。道中で魔物を討伐した場合、素材については別途精算される」


「受けます!」


ルナは、俺が答えるよりも早く声を上げた。


「報酬が気に入ったのか?」


「別の街へ行きながら、お金まで貰えるんですよ~」


確かに、いい依頼だ。


ただ道に沿って移動するだけでも金が貰えるなんて。


「俺も受けます」


俺たちは依頼書に署名した。


「商隊は明日の朝、日の出直後に東門から出発する」


ロドリック副ギルド長は書類を整理しながら言った。


「今日中に必要な物を準備して、あまり遅くまで出歩かないように」


「はい」


「それから……」


彼は俺たちをまっすぐに見つめた。


「出発する前に、エルマには必ず話しておけ」


「エルマさんにですか?」


「君たちが森へ向かってから、何度もギルドに人を寄越して状況を確認していた。何も言わずに明日出ていったら、相当怒るだろうな」


その言葉を聞いて、エルマさんの顔が頭に浮かんだ。


きっと心配するだろう。


いや、もしかすると最初に怒るかもしれない。


「すぐに話します」


面談を終えて応接室を出ると、マリアさんが受付で待っていた。


「お話は無事に終わりましたか?」


「はい。明日、ラグナへ行くことになりました」


「やはり行かれるのですね……」


マリアさんは少し寂しそうな表情を浮かべた。


「レーベンへ来てから、まだほとんど日も経っていないのに、もう出発してしまうんですね」


「俺たちも、こんなに早く出るとは思っていませんでした」


ルナが新しく受け取った仮Cランク証を見せた。


「これも貰いました~」


「仮Cランク!」


マリアさんは目を見開いた。


「冒険者登録をしてから、まだ何日も経っていないのに……」


「皆さん、同じことを言いますね」


「当たり前です」


マリアさんはしばらく金属プレートを見つめた後、笑った。


「でも、お二人ならラグナでもすぐに有名になりそうです」


「有名になる必要はないのですが……」


俺は昨日からずっと俺たちについてきていた子供たちを思い出した。


「また窓の下に人が集まるのは、少し困るかもしれません」


「数日経てば慣れますよ」


「慣れなければならないのですか?」


「お二人のすることを見ていると、仕方がないと思います」


その時、受付の近くにいた冒険者が俺たちに気づき、こちらへ歩いてきた。


昨日の調査隊に参加していたメルヴィンさんだった。


「本当にラグナへ行くのですか?」


「はい。明日出発します」


「そうですか……」


メルヴィンさんは少し複雑そうな表情を浮かべた。


「どうしたのですか?」


「結局、私はお二人と一緒にいる間、一度もまともに魔法をお見せできませんでした」


まだ気にしていたのか。


「次に会った時に見せてください」


「次に……」


メルヴィンさんは小さく呟いた。


それから決意したように顔を上げた。


「私も、もっと強くなります!」


そして、さらに力を込めて続けた。


「もっと強くなって……次に会う時には、必ず私の魔法をお見せします!」


「メルヴィンさん、楽しみにしています~!」


ルナが笑顔で答えた。


メルヴィンさんは元気を取り戻したように、力強い足取りで歩いていった。


「どうしてあんなに魔法を見せたがるんだろう?」


俺が尋ねると、マリアさんが笑った。


「ルナさんの魔法を見て、衝撃を受けたのでしょう」


「私の魔法ですか?」


「城壁の上から、アーマーボアの群れをまとめて吹き飛ばしたじゃないですか」


「あれは少し押し返しただけですよ?」


「そう思っていること自体が問題です」


マリアさんも、エルマさんと似たようなことを言う。


俺たちはギルドを出て、『金鹿亭』へ向かった。


宿の扉を開けた瞬間、美味しそうな匂いが漂ってきた。


エルマさんは厨房で、大きな鍋をかき混ぜていた。


「おかえり」


「ただいま戻りました」


「森の調査はどうだった?」


「終わりました」


エルマさんは安堵したように息を吐いた。


「怪我はない?」


「はい」


「今度は何を倒したの?」


「ヴェノムドレイクという魔物です」


「そう」


エルマさんは何気なく答えた後、手を止めた。


「まさか……あのヴェノムドレイク?」


「おそらく、それです」


「Bランク上位の魔物の?」


「はい」


エルマさんはお玉を置くと、ゆっくり俺のほうへ近づいてきた。


「ど、どうやって倒したの?」


「首を一度斬りました」


「……」


エルマさんは俺の肩を軽く叩きながら、怪我がないかもう一度確かめた。


「もう驚くのにも疲れたよ……」


今日、その言葉を聞くのは二度目な気がする。


「それから、エルマさん」


「何?」


「俺たち、明日レーベンを出ることになりました」


エルマさんの手が止まった。


「明日?」


「はい。ラグナという街へ行きます」


「そんなに急に?」


「ちょうど向こうへ向かう商隊があり、ギルドで護衛依頼も受けました」


エルマさんはしばらく何も言わず、俺たちを見つめた。


ルナが恐る恐る尋ねた。


「怒っていますか?」


「いいや」


エルマさんは小さく息を吐いた。


「いつかは出ていくと思っていたよ。あんたたちは世界を見るために山を下りてきたと言っていたからね」


彼女は少し寂しそうに笑った。


「ただ、こんなに早いとは思っていなかっただけさ」


「今まで本当にありがとうございました!」


俺が頭を下げると、ルナも続いて頭を下げた。


「美味しいものもたくさん作ってくださって、ありがとうございました~」


「あんたはやっぱり、そっちが一番印象に残っているんだね」


「はい!」


エルマさんは声を上げて笑った。


「そうだね。出発の前日なのに、暗い顔をしている必要はない」


彼女は再び厨房へ戻った。


「今夜は、いつもよりたくさん作らないとね~」


「お肉ですか?」


ルナの目が輝いた。


「ああ。肉もたっぷり焼いてあげるよ!」


「わあ~!」


「ただし、明日は朝早く起きるんだから、遅くまで食べてはいけないよ」


「食べる速度を上げれば大丈夫です!」


「そういう意味じゃないよ」


俺たちは残った荷物を整理するため、部屋へ上がった。


荷物といっても、それほど多くはない。


山から持ってきた服と武器、市場で買った外套と鞘、そしてルナが買った大量の食べ物がすべてだ。


「ルナ」


「はい?」


「どうして鞄の中に、こんなにパンが入っているんだ?」


「旅の途中でお腹が空くかもしれないじゃないですか」


「明日食べる分は、宿でも用意してくれると言っていたよ」


「それはそれ、これは非常食です~」


「蜂蜜パンが12個も必要なのか?」


「三日間も移動するんですよ」


「一日に4個ずつ食べるつもり?」


「うーん……違います」


ルナはとても真剣な表情で言った。


「初日に全部食べてしまうかもしれません」


非常食の意味をまったく理解していないようだ……。


結局、パンの半分は俺が別に持つことにした。


荷物を整理した後、俺は窓の外を眺めた。


傾き始めた夕日が、レーベンの屋根を赤く染めている。


初めてこの街へ来た時は、何もかもが見慣れなかった。


城壁も、ギルドも、金も、宿も、市場も、すべてが初めてだった。


それなのに、まだ数日しか経っていないというのに、すでに見慣れた景色のように感じられる。


「寂しいですか?」


ルナが隣へ来て尋ねた。


「少しは」


「私もです」


ルナは髪に差した青い宝石の髪飾りに触れた。


「でも、新しい街も楽しみです!」


「うん」


レーベンよりも、はるかに大きな街。


もっと多くの人と建物。


初めて見る食べ物と品物。


そして、新しい依頼と魔物。


考えれば考えるほど、胸が高鳴った。


「明日は早く起きよう」


「はい!」


「絶対に寝坊しないように」


「心配しないでください~。お兄様が起こしてくださるでしょう?」


「俺が起きられなかったら?」


「そうしたら、二人とも遅れるだけです~」


そ、それは大変だ。


その日の夕食に、エルマさんは本当に食卓が埋まるほどの料理を用意してくれた。


厚切りにして焼いたアーマーボアの肉、香辛料を使った鶏肉の炙り焼き、ジャガイモと野菜の入ったスープ、焼きたてのパンまで次々と並べられた。


いつの間にか話を聞いたガルムンさんとカルドさん、マリアさんも宿へやって来た。


「お前たちが出ていくと聞いたから、最後に顔だけ見に来た」


ガルムンさんが酒杯を持ちながら言った。


「ラグナのギルドに着いたら、俺の名前を出せ。解体場の責任者とは知り合いだからな」


「ありがとうございます」


「それから、魔物を倒したからといって、何でも丸ごと街中へ持ち込むんじゃないぞ!」


「どうしてですか?」


「ラグナはレーベンよりも人がはるかに多い。騒ぎも十倍になる」


「では、どこへ持っていけばいいのですか?」


「城門で先にギルド職員を呼べ!」


それはよく覚えておかないと。


マリアさんは、小さな布袋をルナへ渡した。


「旅の途中で食べてください」


中には干した果物が入っていた。


「わあ~! ありがとうございます~」


「一度に全部食べてはいけませんよ」


「はい!」


ルナがあまりにも元気よく答えたので、逆に不安になった。


カルドさんは、俺に折り畳まれた地図を渡した。


「ラグナまでの道と、周辺の村が記されている」


「地図をいただいてもいいのですか?」


「予備だ。それから、商隊から離れるな」


「道に迷うかもしれないからですか?」


「違う」


カルドさんは真剣な表情で言った。


「お前が道に迷ったら、道を探すために山を突き破りそうだからだ」


「そこまではしません……」


たぶん。


皆が笑った。


食事は夜まで続いたが、エルマさんに何度も急かされたおかげで、いつもより少し早く部屋へ戻った。


ルナはベッドへ横になるなり、明日食べる物の話を始めた。


「ラグナには、どんな食べ物があるのでしょう?」


「マリアさんが飲食店も多いと言っていたから、種類も多いんじゃないかな」


「レーベンにはなかったお肉もありますよね?」


「きっとあるよ」


「市場も大きくて、果物もたくさんあって、パンもたくさんあって……」


ルナの声がだんだん小さくなっていった。


しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。


俺は隣のベッドに横になり、天井を見つめた。


人間の世界へ下りてきて、最初に辿り着いた街で本当にいろいろなことを経験した。


だが、俺たちの旅はまだ始まったばかりだ。


明日にはレーベンを出て、新しい街へ向かう。


楽しみで、簡単には眠れそうにない。


そう思っていたはずなのに、いつの間にか俺の目も閉じていた。


翌日の早朝。


「お兄様! 早く起きてください!」


「ううん……」


目を開けると、ルナはすでに旅用の外套まで身につけ、俺の前に立っていた。


「え? ルナが先に起きたの?」


「はい!」


「すごいな」


「ラグナへ行く日なのに、寝坊なんてしていられませんよ~」


食べ物が目当てのような気もするが、口には出さなかった。


俺たちは荷物を持ち、階下へ下りた。


エルマさんは、小さな鞄を二つ用意してくれていた。


「昼と夜に食べる物だよ。パンと肉とチーズを入れてある」


「ありがとうございます!」


「街までは三日かかるんだったね。途中の村に泊まれるかもしれないけれど、いつ何が起きるか分からない。大事に食べるんだよ」


ルナが答えようとしたので、俺は先に口を開いた。


「俺が管理します」


「それがいいね」


「え~、どうして私を信用してくれないんですか?」


「……どうしてだと思う?」


エルマさんは俺たちを扉の外まで見送ってくれた。


朝の空気は少し冷たく、通りはまだ静かだった。


「元気でいるんだよ!」


「はい」


「怪我をしないように」


「はい」


「食べられるか分からない魔物を、勝手に食べたりしないこと」


「……はい」


エルマさんは、俺たちを一人ずつ強く抱きしめた。


「時々、レーベンにも寄るんだよ」


「必ずまた来ます」


「次は、もっと美味しいお肉を持ってきます~」


「何も持ってこなくていいから、無事に帰ってきな」


俺たちはエルマさんへ手を振り、東門へ向かった。


城門の前には、何台もの馬車が並んでいた。


箱や袋を山のように積んだ馬車が六台。


その周囲では、商人や御者、武器を持った冒険者たちが忙しそうに動き回っている。


先頭の馬車の横には、腹の出た中年の男が立っていた。


彼は俺たちを見つけると、満面の笑みを浮かべて近づいてきた。


「もしかして、リオンさんとルナさんですか?」


「はい」


「初めまして! 私は今回の商隊を預かる商人、ブラムと申します」


ブラムさんは俺の手を両手で握り、勢いよく振った。


「お二人が同行してくださると聞いて、どれほど安心したことか!」


「そこまでですか?」


「ヴェノムドレイクを一撃で倒したそうではありませんか!」


噂がもうここまで広がっているのか。


「俺たちもラグナへ向かう途中ですので、よろしくお願いします」


ブラムさんは、ルナが持っている鞄を見た。


「荷物が重ければ、馬車へお載せしますよ」


「大丈夫です~」


ルナは鞄を胸へしっかりと抱きしめた。


「食べ物が入っているので、自分で持ちます」


「そ、そうですか」


ブラムさんは少し戸惑ったように笑った。


馬車の横では、俺たち以外にも四人の護衛冒険者が待っていた。


剣士が二人、弓使いが一人、そして杖を持った女性魔法使いが一人だ。


その中の赤毛の男が俺たちを見て、眉をひそめた。


「まさか、あの子供たちが追加の護衛なのか?」


「子供とは何ですか?」


ルナが頬を膨らませた。


「私は16歳ですよ!」


「十分に子供だろ……」


赤毛の男は、俺の腰の剣とルナの小さな鞄を交互に見た。


「ギルドから腕の立つ冒険者が来ると聞いて期待していたのに、どう見てもDランクにしか見えないな」


俺は仮Cランク証を取り出した。


「今日、Cランクになりました」


「仮Cランク?」


男は金属プレートを確認しても、まだ疑わしそうな顔をしていた。


「最近のギルドは、子供にもCランクを与えるのか?」


その時、後ろにいた別の冒険者が、慌てて男の肩を掴んだ。


「おい、ちょっと待て」


「何だ?」


「お前、本当にあの兄妹を知らないのか?」


「有名な貴族の子供か何かか?」


「昨日、クリムゾンボアとヴェノムドレイクを倒した兄妹だ」


赤毛の男の表情が固まった。


彼はゆっくりと俺を見た。


「ヴェノムドレイクを……誰が倒したって?」


「俺です」


「何人で?」


「一人です」


「……」


赤毛の男は、それまでの表情を消すと、静かに一歩後ろへ下がった。


「ラグナまで、よろしく頼む」


「はい」


急に態度が変わったな。


ルナが俺の隣で小さく笑った。


「お兄様、もう新しい人を驚かせましたね~」


「まだ何もしていないけど」


「だからこそ、もっとすごいのではないでしょうか?」


ブラムさんが馬車の先頭へ移動し、大声を上げた。


「皆さん、出発の準備を済ませてください! まもなく出発します!」


御者たちが手綱を握り、商人たちは最後の荷物確認を始めた。


巨大な東門が、ゆっくりと開いていく。


門の向こうには、広い街道と朝日が広がっていた。


俺は後ろを振り返った。


城壁の上には、マリアさんとガルムンさん、カルドさんが立っていた。


少し離れた場所では、エルマさんも手を振っている。


「行ってらっしゃい!」


「ラグナでも騒ぎを起こすなよ!」


「それは保証できないかもしれません~!」


ルナが大声で答えた。


「そんなことを言わないで」


俺も皆へ向かって手を振った。


「必ずまた来ます!」


馬車の車輪が、ゆっくりと動き始めた。


ガタリ。


ゴトリ。


商隊はレーベンの城門を抜け、東へ続く街道を進んでいった。


ルナは先頭の馬車へ乗り、遠ざかっていく街を見つめていた。


「お兄様」


「何?」


「本当に、新しい街へ向かうんですね」


「そうだね」


山を出た時とは、また違う気分だった。


あの時は、人間の世界がどのような場所なのか、何も知らなかった。


だが、今は知っている。


街には美味しい食べ物があり、新しい人々と出会える。


金を稼ぐこともでき、冒険者として依頼を受けることもできる。


そして時には、少し強い魔物も現れる。


これから向かうラグナは、レーベンよりもはるかに大きいらしい。


ならば、そこには今まで経験したこと以上に、多くの出来事が待っているのだろう。


「本当に楽しみだ」


俺が言うと、ルナは明るく笑った。


「私もです~!」


「食べ物が目的?」


「食べ物も含めてです!」


商隊は朝日を浴びながら、街道を進んでいった。


こうして、俺たち兄妹の最初の街での生活は終わった。


そして、新しい都市へ向かう旅が始まった。


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