第32話 ーー『静かな探り合い』
第32話 ーー『静かな探り合い』
ヴァレイオン・プライムでの外交の宴は、華やかでありながら陰謀に満ちた雰囲気の中で進行していた。
凪彦は賓客たちの間を歩き、片側にクララ、もう片側にアマランスを従えていた。ミレヤは入口付近に留まり、カメリア・オプスとの通信を維持し、遠くから状況を監視することを選んだ――彼女が自ら選んだポジションだ。凪彦に囁いた時には、「退路を確保しておく方が落ち着きます、艦長」と言っていた。
彼らの周りでは、様々なギャラクシーからの貴族たちが低い声で会話を交わし、時折隠しきれない好奇心で凪彦の方へ視線を向けていた。何人かは挨拶のために近づいたが、ほとんどは遠くから観察することを選んだ――まるで新しい獲物を研究する捕食者のように。
「あなたは多くの注目を集めているわ」クララが囁いた。
「望んでそうなったわけじゃない」凪彦は低い声で答えた。
「でもそうなった。そしてあなたは自分のやり方で立ち向かうのよ」
凪彦は微かに微笑んだ。「いつも通りだな、クララ」
---
明確な目的を持って最初に彼らに近づいてきたのは、ヴァリラ・フォン・リザンドだった。
金髪の少女は優雅に歩み寄り、空色のドレスをひらりと揺らした。手には、照明の下で輝く金色の飲み物が入ったクリスタルのグラスを握っている。
「志堂様」彼女は親しみやすい微笑みを浮かべて言った。「この宴をお楽しみいただけていますか?」
「ヴァレイオン・プライムは非常に印象的です」凪彦は礼儀正しく答えた。「このような豪華さは初めてです」
「あら、これは始まりに過ぎませんよ」ヴァリラは微笑んだ。「ユルヴァレン・ギャラクシーのリザンド家の宮殿は、これよりもはるかに壮麗です。いつかお越しいただけるなら、喜んでご案内いたします」
「興味深いお誘いですね。検討させていただきます」
ヴァリラは鋭くも穏やかな目で彼を見つめた。「あなたは非常に慎重な方ですね、志堂様。それは評価に値します。ギャラクシーの政治の世界では、慎重さは稀で貴重な資質です」
「慎重さは生存のための基本ではないでしょうか?」
「状況によります」ヴァリラは神秘的な微笑みを浮かべた。「時には、慎重さよりも勇気が重要であることもあります」
凪彦は眉を上げた。「私に勇気が足りないとおっしゃっているのですか?」
「決してそんなことはありません」ヴァリラは小さく笑った。「ただ、リスクを取るべき時があるということです。そしてあなたは、そのリスクを取るべき時を知っている方だと私は思います」
「ご信頼ありがとうございます」
「お礼には及びません」ヴァリラは飲み物を一口すすると。「ただ、私の見たままを言ったまでです」
会話は数分間続いた――ギャラクシーの政治、ユルヴァレンの文化、宇宙での生活についての軽い議論だ。凪彦は注意深く耳を傾け、時折興味を示す質問を挟んだ。ヴァリラの親しみやすい微笑みの裏で、この少女が自分を試していることを感じ取っていた――何を知っていて、何を考え、何を隠しているのかを探ろうとしているのだ。
彼女は賢い、と凪彦は思った。非常に賢い。
---
ヴァリラが他の賓客と話すために去っていくと、別の人物が断固とした足取りで近づいてきた。
レヴェラ・フォン・ドラウゲン。
燃えるような赤い髪の少女は戦士のように歩いた――背筋を伸ばし、鋭い目つきで、挑戦に満ちた微笑みを浮かべて。彼女の燃えるような赤いドレスは、その情熱的な性格を反映しており、腰には短剣を携えていた――外交の場では珍しいアクセサリーだ。
「志堂凪彦」彼女は断固とした声で言った。「ようやく邪魔なく会えたな」
「レヴェラ様」凪彦は落ち着いて答えた。「まだ剣を携えておられるのですね」
「ドラヴォス・ギャラクシーでは、戦士は決して武器を離さない」レヴェラは鋭く微笑んだ。「そして私は戦士だ。ヴァリラのような外交官ではない」
「外交のために来られたのですか、それとも戦うために?」
「その両方だ」レヴェラは輝く金色の瞳で彼を見つめた。「お前が伝説に値するかどうか確かめるために来た。そのためには、お前を試さねばならん」
「そしてどのように試されるおつもりですか?」
レヴェラは微笑んだ――戦闘の喜びに満ちた微笑みだ。「いずれ分かる。しかし今は……」彼女はグラスを掲げて合図を送った。「観察させてもらう」
凪彦は小さな会釈で応えた。「待っている」
レヴェラは笑った――力強く、心からの笑い声だ。「面白い男だ、志堂凪彦。気に入った」
彼女は断固とした足取りで去っていき、凪彦の顔には微かな微笑みが浮かんでいた。
「レヴェラは言葉よりも行動を好むタイプですね」クララが隣で言った。「いつかあなたの実力を試すでしょう」
「分かっている」凪彦は言った。「しかし彼女は正直だ。微笑みの裏に意図を隠す者よりはましだ」
「その通りです」
---
凪彦が次の行動に移る前に、小さな影が手帳を片手に彼の前に現れた。
ジェスカラ・フォン・レイン。
紺碧の髪の少女は大きく微笑み、その紫色の瞳は抑えきれない熱意で輝いていた。彼女の紺碧のドレスは他の貴族たちのドレスに比べて質素だったが、それでも彼女なりのエレガントさを保っていた。
「志堂様!やっとお話しできます!」彼女は熱意を込めて叫んだ。「質問がたくさんあるんです!」
凪彦は微笑んだ。「どうぞ、ジェスカラ。でも歩きながら話しましょうか?」
「はい!もちろん!」
彼らは宴会場を歩きながら、話したり笑ったりする賓客たちの間を縫って進んだ。ジェスカラは素早く手帳を開き、ペンを構えた。
「最初の質問!イヴンタイド・オプスのワープシステムはどのようにしてレベル12を達成しているのですか?ギャラクシーの標準技術はレベル5までです!古代の技術を使っているのですか?それとも絶滅した文明の技術ですか?それとも――」
「一つずつ、ジェスカラ」凪彦は小さく笑った。「すべての詳細をお伝えすることはできませんが、イヴンタイド・オプスは非常に特別な船だと言えます」
「もちろん特別です!海賊との戦闘データを分析しました!速度、機動性、隠蔽武装システム――すべてがギャラクシーの標準を超えています!」ジェスカラは素早く何かを書き留めた。「もっと深く研究しなければ!いつかイヴンタイド・オプスを訪問してもいいですか?」
凪彦は眉を上げた。「訪問?」
「製造施設を見たいんです!武装システムを見たいんです!それから――」
「ジェスカラ」凪彦が優しく遮った。「明確な理由なく誰かをイヴンタイド・オプスに入れるわけにはいかない」
「でも明確な理由があります!私は研究者です!科学の進歩のために船の技術を研究したいんです!」
凪彦は微笑んだ。「また今度にしよう」
ジェスカラはふんと鼻を鳴らしたが、笑顔は変わらなかった。「わかりました!待ちます!でも諦めませんよ!」
「君は本当に頑固だな」
「もちろんです!研究には頑固さが必要なんです!」
---
部屋の隅で、アヴェントラ・フォン・カエドリオンは遠くから観察していた。
黒い髪の少女は大きな窓のそばに立ち、遠くで輝くフェンロス・ギャラクシーの星々を見つめていた。彼女の質素な服装は、華やかな貴族たちの間でほとんど目立たなかった――まさに彼女の望む通りだ。
「殿下」変装した助手が隣で囁いた。「どのようにお考えですか?」
アヴェントラはすぐには答えなかった。エメラルドグリーンの瞳は、部屋の向こう側でジェスカラと話す凪彦に注がれたままだった。
「彼は違う」彼女は最終的に言った。
「どのように違うのですか?」
「他の貴族たちとは違う」アヴェントラは優雅な動作で飲み物を一口すすると。「注目を集めようとしない。権力を誇示しようとしない。ただ……そこにいるだけだ。それが彼を他の誰よりも危険にしている」
「危険?」
「力を誇示する必要のない者が、真に強い者だ」アヴェントラは微かに微笑んだ。「彼についてもっと知らねばならない」
「どうなさいますか?」
「彼に近づく。しかし私なりの方法で」アヴェントラはグラスを置き、歩き始めた。「ここにいろ。ついてくるな」
「かしこまりました、殿下」
アヴェントラは静かで自信に満ちた足取りで部屋を横切った。凪彦――ちょうどジェスカラとの会話を終えたところ――に到達すると、彼女は親しみやすく微笑んだ。
「志堂様」彼女は柔らかい声で言った。「私はアヴェントラと申します。遅ればせながらのご挨拶をお許しください」
凪彦は振り返った。目の前には、黒い髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ少女が、読み解くのが難しい微笑みを浮かべていた。彼女の目には何かがあった――どこかで彼を知っているかのように感じさせる何かが。
「アヴェントラ様」彼は礼儀正しく言った。「お会いできて光栄です」
「アヴェントラで結構です。ここでは堅苦しいのは不要です」アヴェントラは微笑んだ。「あなたのことを多く聞いております、志堂様。イヴンタイド・オプスのこと。海賊に対する勝利のこと。レディ・カエリアへの脅しのこと」
「それらはすべて公知の事実です」
「その通りです。しかし一つだけ公知でないことがあります」アヴェントラは鋭い目で彼を見つめた。「あなたは本当は誰なのですか?イヴンタイド・オプスの艦長としてではなく、傭兵としてでもなく、一人の人間として」
凪彦は背筋に冷たいものを感じた。その質問は――以前彼女が尋ねたのと同じ――単なる好奇心以上の深いものを感じさせた。
「私はあなたが見ている通りの者です」彼は慎重に答えた。「それ以上でも以下でもありません」
「本当ですか?」アヴェントラは微かに微笑んだ。「あなたが示している以上の何かがあるという予感がします、志堂様。しかし今は、あなたのプライバシーを尊重しましょう」
「ありがとうございます」
「いつか、真実を探り当てます」アヴェントラは優雅に飲み物を一口すすると。「しかし今は、この宴を楽しみましょう」
凪彦は頷いたが、心の中では警戒していた。この少女――アヴェントラ――は四人の中で最も危険だった。レヴェラのように攻撃的でも、ヴァリラのように外交的でも、ジェスカラのように好奇心旺盛でもない。しかし彼女は静かで、計算高く、そして他の誰よりも深く見透かしているように見えた。
お前は本当は誰なんだ、アヴェントラ?と彼は思った。
---
部屋の反対側で、クララはユルヴァレン・ギャラクシーの老貴族と話していた。
「志堂様は非常に興味深い人物です」老貴族は言った。「その船、その能力、その勇気――すべてが彼を我々の間での話題にしています」
「イヴンタイド・オプスは確かに特別な船です」クララは親しみやすく答えた。「しかし所有者は陰に隠れることを好みます」
「ああ、謙虚さ。貴族の間では稀な資質です」老貴族は微笑んだ。「しかしギャラクシーの政治の世界では、謙虚さは弱みになり得ます」
「志堂様は、謙虚であるべき時と力を示すべき時を知っています」クララは微かに微笑んだ。「それが彼を生き残らせている資質です」
老貴族は敬意を持って頷いた。「クララ様、あなたの話し方に感銘を受けました。あなたも貴族でいらっしゃるのですか?」
「私は志堂様のアシスタントでありパートナーです。それ以上ではありません」
「非常に有能なパートナーです」
「ありがとうございます」
---
宴会場の外で、ミレヤは入口近くに立ち、手に通信機器を握っていた。
「カメリア・オプスは良好な状態です」機器から声が聞こえた――周辺の監視に送ったドローンの一つだ。「ヴァレイオン・プライム周辺に不審な活動はありません」
「良し」ミレヤは静かに答えた。「監視を続けてくれ」
「了解しました」
ミレヤは安堵の息を吐いた。彼女はこのような人混みの中にいるのは好きではなかった――操縦席の後ろで、安全な距離からシステムを監視する方が落ち着いた。しかし凪彦が一緒に来るように頼み、彼女は艦長を失望させたくなかった。
「大丈夫?」
ミレヤが振り返ると、アマランスが陽気な笑顔で立っていた――その物理的な体はまるで本物の人間のように見えた。
「大丈夫よ」ミレヤは答えた。「ちょっと緊張してるだけ」
「緊張する必要なんてない!僕がいるから!」アマランスは熱意を込めて彼女の肩を叩いた。「もし誰かが邪魔しようものなら、粉砕してやる!」
「あなたは本当に元気ね」
「もちろん!それが僕の魅力だ!」
ミレヤは小さく笑った。「あなたは本当にじっとしてられないのね」
「できない!それが僕の強みだ!」
ミレヤは笑いながら首を振った。見知らぬ不確かな世界の中で、少なくとも彼女にはいつも笑顔にさせてくれるアマランスがいた。
---
宴会場の中で、凪彦は大きな窓のそばに立ち、フェンロス・ギャラクシーの星々を見つめていた。
クララが静かに近づいた。「疲れた顔をしているわ」
「考え事をしていただけだ」凪彦は振り返らなかった。「この四人の少女たち……彼女たちは皆、異なる目的を持っている。しかし共通していることが一つある――彼女たちは皆、私に何かを求めている」
「当然よ。あなたはこの部屋で最も興味を引く人物なのだから」
「注目の的になりたいわけじゃない」
「しかしそうなった。そしてあなたは自分のやり方で立ち向かうのよ。いつものように」
凪彦は微かに微笑んだ。「君はいつも何を言うべきか分かっているな、クララ」
「私はあなたのことをよく知っているからよ、凪彦」
彼らはそこに立ち、並んで、遠くで輝く星々を見つめていた。彼らの周りでは貴族たちが話し続け、笑い続けていたが、凪彦は静けさを感じていた――クララがそばにいるから。
---
次回 第33話 ーー『貴族の仮面』
次回予告:
ヴァレイオン・プライムでの外交の宴は新たな段階に入る。四人の貴族のヒロインたちは仮面を少しずつ剥がし始め、それぞれの性格の別の側面を見せ始める。ヴァリラは隠された政治的野心を示す。アヴェントラ――まだ変装を続けて――はより個人的な方法で凪彦に接近し始める。レヴェラは凪彦を訓練場に連れて行き、彼の身体能力を試そうとする。そしてジェスカラはイヴンタイドの技術について質問を続ける。水面下では政治的陰謀が芽生え始め、凪彦はヴァレイオン大領域では、言葉と行動のすべてに結果が伴うことに気づく。
次章に続く。




