↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

427/427

幕間 失われた故国と疑念

サリージュ側のお話になります。


「え……いま、なんと」

「ウェーバー公国の公王陛下は公都を捨てる決意をなさりました」

「お父様、が……」


 ルベリア王国の騎士である一人から告げられた言葉。与えられた客室でサリージュはその報告を受けていた。詳細な報告は後程と言い、騎士が退室していく。静寂の中、サリージュはソファーにゆっくりと背中を預けた。何度か深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。


「……姫様」

「大丈夫です。覚悟していたことなのですから」


 ルベリア王国に保護してもらう前からわかっていたことだ。あのままでは公都が飲み込まれるのも時間の問題だと。だからこそサリージュは厚かましいことだとわかっていながらもここに来た。万が一、公王の身に何かが起きたとしても公王の血を絶やさないために。


「私たちに出来るのは、お父様や公都で暮らしていた民が無事でいることだけです」

「はい、そう……ですね」

「ウーラ?」


 侍女の一人であるウーラの表情がどこか優れない。もちろん祖国の都が実質陥落したともいえる状況なのだから、気落ちするのは当然だ。だがこの地からは祈ることしかできない。もしウーラが公都にいる誰かを案じていたとしても、サリージュには何もできない。当然、ウーラもだ。


「申し訳ありません、ふと以前耳にした噂話を思い出してしまって」

「噂話? というと、あのマラーナのことですか?」

「はい」


 一時公国で広まった噂。それはかのマラーナ王国が国家という体裁をなくしたことについてのとある噂だった。瘴気が強まったことで国を狂わせたマラーナ。その瘴気そのものは、人の負の思念の塊ではないかと。それによってマラーナは滅ぶべくして滅んだのだと。

 ウェーバー公国はかつてマラーナ王国と同じ王の下にあった土地である。袂を分かったといっても、元々一部であったことは事実だ。瘴気がマラーナ側からやってきたという話はそこかしこで聞かれた。それでも浄化する手段がなかったわけではない。女神ルシオラの力が宿っているとされた霊水で瘴気を浄化して回った。それでも瘴気はなくなるどころか、逆に増えていった。その結果が今である。


「中には、瘴気は人の罪の証だと怯える者もいたそうです」

「……」

「声高に言う者はおりませんでしたが、そういった考えをしている者も少なくありません」

「そう、ですか。ウーラ、その者たちがいう人の罪とは何か、貴女にはわかりますか?」


 サリージュがそう尋ねると、ウーラは「申し訳ありません」と頭を深々と下げた。責めたいわけではない。ただ単純に知りたかっただけで。


「姫様、僭越ながら申し上げても宜しいでしょうか?」

「ルル? えぇ、構いません」


 もう一人の侍女、ルルがウーラの隣に立った。ルルは何か知っているのだろうかとサリージュが先を促す。


「昨年くらいから、城下で気になること目撃情報を耳にしておりました。その身なりから平民だと思われるのですが、あまり平民に似つかわしくない言葉遣いをする少年の姿が目撃されていたのです」

「お忍びで城下に降りている貴族令息ではないのですか?」

「違うと思います」


 服装と容姿があまりにも不一致すぎるというのは、よくある高位貴族たちのお忍びとして目撃される。だからサリージュはそのように想像したのだが、ルルは即座に否定した。つまりそれだけの根拠があるということか。


「何故、そう思うのですか?」

「歪だと感じたからです」

「歪?」

「彼は瘴気が消えることはなく、霊水はただの誤魔化しに過ぎないと言っていました。女神ルシオラ様は人々を騙し続けているのだと」

「そのようなこと、誰も信じないでしょう。実際、霊水で瘴気は消えているのですから」


 サリージュもこの目で見たことがある。霊水を振りまいたことで、濃い紫色をした瘴気が霧散していくのを。貴族当主であれば誰もが目にする光景だ。サリージュが見たことがあるのは、次代を担う立場だから。それでも、霊水の力を疑ったことなどない。


「はい。ですがその少年は、非難の声も意に介することなく、だから人は愚かなのだと言い捨てたそうです。瘴気はただ見えなくなっただけで消えることはないし、消えるのであれば何故何度も瘴気が現れるのかと。消えたのではなく、散らばったから再び集まって見えるようになる。その繰り返しだと言って」

「……同じ場所にいつも瘴気が現れるのは、その地に集まってしまうからということですか?」

「はい。そして瘴気が消えないのは、人が罪を重ね続けているからだとも」


 人々の不安を煽るようなことをわざわざ言葉にする意味はよくわからない。けれど、馬鹿な事だと一蹴することもできない。


「ならば人の罪とは何かと尋ねた時、彼は笑ってこう答えたそうです。偽りの女神を信じ続けているからだと」

「……反女神信仰の方だったということですね」

「はい」


 ウェーバー公国は特別女神信仰が強い国というわけではない。ただ女神ルシオラと大神ゼリウムについては、子どもであっても知っている神様だ。特に女神ルシオラに至っては、その女神像が教会に設置されていることもあって、不快に思う人間こそ少ないと思っている。ただ中にはそれに不満を抱く者がいないこともない。世界的にも敬意を集めている女神ルシオラに対して、強い警戒心と疑念を抱く反女神信仰を掲げる者たちがいるのだ。そういった考えを持つ者はマラーナやウェーバー公国が一番多いとされている。


「その……先ほどの騎士様の報告を受けて、私たちの中にもそういう考えを持ってしまう可能性がないとは言えません」

「今我が公国は瘴気にまみれています。自ずとその言葉を信じてしまう者たちも増えてしまうということもわからないでもありませんが」


 そう、疑念を抱くことは理解できなくはない。何故女神ルシオラは我が国を救ってくれないのだと、そういった考えに及んでしまうことは止められない。それでも、とサリージュは口を開く。


「ルベリアではそのような事を口に出すことは許されません。この国は女神ルシオラ様の血を受け継ぐ国なのですから」

「わかっております、姫様。ですが――」

「えぇ、アルヴィス陛下にもこのことはお伝えしなければならないでしょう。これ以上、我が国の者がこの国で愚かなことをする前に……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。