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【Web版】従弟の尻拭いをさせられる羽目になった  作者: 紫音
第三部

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20話

これでいったん章区切りになります。


 サロンの中央部に敷かれた柔らかなカーペットの上に片膝を立てて座りながら、アルヴィスは我が子であるルトヴィスとリングの遊びを眺めていた。世話をしてくれているミントも手を出すわけではなく、自由に遊ばせている。幼子にとって危険なものはここにはない。近くにあるのは柔らかなぬいぐるみの類だけだった。


「あうあ」


 そうして見守っていると、ルトヴィスがその身体よりも大きなぬいぐるみを引っ張って何かをしようとしていた。小さな力ではびくともせず、ただゆらゆらと動くだけ。やがてそのぬいぐるみの腕やらを口に含み始める。それでも思っていたのと違ったのか、大きな声を上げて泣き始めた。


「何がしたいんだ、お前……」


 思わずつぶやいてしまった。ここまでじっとルトヴィスの様子を見守っていることなどなかったからか、我が子ながら何がしたいのか全く理解できない。こういう時に限って、いつもは全力で伝えてくるマナを通した意志表示はなかった。否、ルトヴィスにもわかっていないのだろう。自分が何をしたいのか。何が嫌なのかも。だから伝えられないと。


「ふふふ、今日の殿下はいつもよりも元気ですね」

「そうなのですか?」

「はい。いつもはもっと大人しく遊んでいます。今日は陛下が、お父様がいらっしゃるからか、はしゃいでいるのかもしれません」


 ミントは泣いているルトヴィスを穏やかに見つめながら、それでいて抱き起そうとはしなかった。アルヴィスもそれに従うようにじっと見守っているだけだ。今の行為が正しいかどうかはわからない。ナリスやミントから、泣いただけで抱き起したりするのは駄目だと言われ、それに従っているだけである。


「あ”ー!」


 手足をじたばたさせて暴れ始め、近くにいたリングはミントの側まで避難した。するとルトヴィスが暴れつつも仰向けになっていた身体をうつぶせへと変え、アルヴィスの方へと顔を上げた。必死に泣き声を上げるルトヴィスに、アルヴィスは苦笑してから近づき、脇下に手を入れるようにして抱き上げた。


「そういう時は伝えてくるんだな、お前は」

「王子殿下の意志がおわかりになったのですか?」

「えぇ。まぁ感覚のようなものに近いのかもしれません。今だけだと、ルトもわかっているような気がするので」


 抱き上げて欲しいと、ルトヴィスがそう訴えてきていた。離れている時間が長くなっても、求めてくれるのであれば応じたい。その気持ちは今でも変わっていない。ポンポンと頭を優しく撫でれば、やがて泣き声が小さくなっていく。アルヴィスの服を握りしめる力が思ったよりも強いことに驚きながら、左腕にルトヴィスを座らせるようにして抱いて立ち上がった。突然、景色が変わったことに気が付いたのかルトヴィスは親指を口にくわえながらも目をぱちぱちとさせている。完全に泣き止んだ様子だ。


「流石は陛下です。王子殿下もすぐに泣き止んでしまいましたね」

「あはは……」


 まだまだルトヴィスの中に父や母という感覚は生まれていない。それでも少しでも身近に感じてくれていれば嬉しい。今は遠くにいるエリナに対しても。


「ルト、お前も早く会いたいだろうな」

「うー?」

「もう少しだけ待っていてくれ。きっともうすぐだ」


 涙の痕がある目元に指を滑らせ、柔らかな頬をつつく。お気に召したのか、ルトヴィスが笑った。


「きゃっきゃ、あー」

「わかったよ。今日はお前に構っていられるからな」


 もっと触ってほしいとルトヴィスが望むのであればと、アルヴィスはルトヴィスに触れる。嬉しそうに笑うルトヴィスを見ているだけで、気分が落ち着いてくるような気がした。書類仕事が嫌なわけではない。ただ、思いのほか彼――アルティウムとの邂逅は精神的にアルヴィスを追い詰めていたようだ。同じ顔なのに、全く違う様相を見せる彼を思い出し、アルヴィスはルトヴィスの顔を改めて見た。


「お前は俺に似ないでくれよな……」

「あう?」

「絶対に背負わせない。お前にも、エリナにも……」


 金色の髪にエリナの瞳の色を受け継いだ我が子。出来ればエリナに似て欲しい。そんなことを望んだところで、意味はないとわかっていても。



 ソファーへと移動してもルトヴィスはアルヴィスから離れることなく、膝の上で好きに遊んでいた。何をするでもなく、過ぎていく時間に慣れてきた頃、その知らせは突然もたらされた。

 バタバタと後宮へと響く複数の足音。アルヴィスは耳に届いた段階で身構える。何事が起きたのだと。ルトヴィスを抱き上げたまま立ち上がると、来るであろう尋ね人を迎えるべく扉へと移動する。サロンの外に出れば、焦りを見せながらかけてくる友人の姿が見える。


「レックス」

「アルヴィス! 公国が!」

「……いいから落ち着け。何があった?」


 傍まで来てから何度も深呼吸をするレックス。その顔色は酷く悪い。内容に何となく予想はつくけれど、報告は受けなければならない。


「失礼、しました陛下」

「急に取り繕うなよ……まぁいい。それで?」

「先ほど北の塔から使者が来ました。公都が瘴気にまみれ、落ちたと」

「……そうか。やはりあれでは間に合わなかったか……」


 

いつも誤字脱字報告ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ

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