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第二十四話 倒龍

アンデッドを破り、西の脅威はなくなった。残りはドラゴン国だ。デンシンの後を継いだ小竜はブショウを名乗った。おそらく、体長はドンドン大きくなっているだろう。

 対策を練らねばならない。秀光の様に眼の潰して、戦闘不能にする事もひとつ手だが、代替わりをするため、時間稼ぎにしかならない。どの様にして代替わりを防ぐか難しい問題だった。

 私は、まず魔導士型ゴブリン全員を集め、ゴブリンソープをフル生産させた。今まで以上に沢山必要だ。

「頑張ってね、皆」

「はい。乃菜様」

私の激励にゴブリン達は笑顔で答える。

「リンツウ、キノフジ。ちょっとお願い」

一通り、視察を終えた後、リンツウとキノフジを呼び出した。ブショウに対する武器がゴブリンソープだけでは心もとない。

「リンツウ、イフリートを召喚して!」

イフリートを制御できれば、大きな力になる。

「えっ。イフリートの召喚は禁忌でごさいます」

リンツウは驚いて私を見た。

「制御できなければ、逃げろって書いてあったわね。大丈夫、ゴーレムが居れば、制御できるわ」

「乃菜様。大丈夫でしょうか?」

キノフジも不安そうだ。

「大丈夫。やって見ましょう」

私はゴブリンソープの甲冑を身に着け、ゴーレムにゴブリンソープの樽を持たせて待機させた。

「上手く召喚できますかどうか……」

リンツウは自信なさげに呪文を唱える。

 暫くすると、空中に何かモヤモヤしたものが、漂い始め、やがてはっきりと形を取り出した。イフリートだ。

「イフリート! 私に力を貸して欲しいの」

私の頼みに、イフリートはニヤリと笑い、大きな炎を上げる。

「危ない!」

キノフジの声と共に、ゴーレムは樽をイフリートに被せた。イフリートの炎は樽の中にすっぽりと収まる。

「大丈夫ですか? 乃菜様」

キノフジが心配そうに尋ねた。

「ありがとう。大丈夫よ。さあ、樽を上げて……」

私はキノフジに命じる。

樽を上げると、イフリートは炎を収めていた。しかし、直ぐにまた大きな炎を上げて、今度はゴーレムに向かう。キノフジは慌てて、ゴーレムに樽を被せた。

 そんな事を数日間 繰り返した後、

「イフリート! 私に力を貸して!」

私の声にイフリートは、とうとう頷いた。そして、イフリートの首に契約の首輪が浮かび上がった。

「ありがとう。イフリート!」

私はイフリートに感謝した。

「リンツウ、フェアリーはイフリートを呼び出したり、呼び入れたりしていたけど、あれはどうするの?」

「フェアリーはどこか異空間にイフリートを保持していたようですが、その方法は不明です」

「そうか。仕方ないわね」

私は代案として、ゴブリンソープで筒を作り、その中にイフリートを入れ、腰に付けて持ち運ぶ事とした。


 そして、もう一つ、調べておきたい事があった。リンツウの魔導書だ。

リンツウは役に立たない魔法ばかりだと言うが、これまでも使い方によって、役に立つ場合もあった。もしかすると、これからの戦いに役に立つ魔法が眠っているかもしれない。  

 まずは浮遊魔法だ。以前、リンツウは十センチしか飛べないと言っていた。しかし、ゴーレムの例もある。キノフジはリンツウが動かせなかったゴーレムを動かす事ができた。キノフジならもっと高く飛べるかもしれない。

「リンツウ。私に浮遊魔法をかけてみて!」

まずは、リンツウに命じた。

「はい。分かりました」

そう言ってリンツウは呪文を唱え始めた。

 しばらくして、私の身体は十センチ程、宙に浮かんだ。

「すごい!」

私は自分の体が浮かんでいる事に感動した。

 しかし、

「あれ? 動けない!」

私は浮かんだ状態で歩こうと足を動かしたが、宙を蹴るばかりで前に進まない。

「キノフジ。手を貸して……」

キノフジの手を借りて前に進もうとしたが、

「あっ」

キノフジの手は私の十センチ手前で跳ね飛ばされた。

「これって、もしかして、結界? キノフジ。そこの薙刀で私を叩いて」

「はい」

キノフジは返事をして薙刀で軽く私を叩いたが、薙刀は十センチ手前で跳ね返された。思いきり力を込めて叩いても同じだった。

 私が十センチ浮いているのも、地球を十センチ手前で跳ね除けた結果のようだ。

 その後、火縄銃やイフリートの炎でも試してみたが、結界は強固で攻撃を全て跳ね返した。

 この結界は、防御としては完璧だが、その場から動く事ができない上、こちらから攻撃する事も出来なかった。

「こんなのじゃあ、あまり役に立ちそうにないわね」

キノフジに試させるまでもない。私は浮遊魔法を実戦に使うのを諦めた。

「他に何かある?」

私はリンツウに聞いた。

「そうですなあ……。他には……」

リンツウは煮え切らない。

「リンツウ! それを私に貸して!」

私はリンツウから魔導書を取り上げた。魔導書を最初のページから舐めるように読み進め、目ぼしい魔法を探す。

「リンツウ! これは!?」

私が指し示した指の先には、噴水魔法と書かれてある。

「さすが、乃菜様。お目が高い。噴水魔法は、この魔導書の中で唯一役に立つ魔法でこざいます。これは頭のてっぺんから冷水を出す魔法でして、なかなか重宝する魔法です。私は、お風呂でゴブリンソープを洗い流す時に使っています。冬は寒いので、夏の間だけなのですが……」

「そう……」

思った通りの役に立たない魔法だ。でも、使いようによっては……。

「他の人の頭からも水を出せる?」

「自分の頭だけでございます」

「それじゃあ、他の魔導士型のゴブリンも使える?」

私は、畳掛けるようにリンツウに訊いた。

「いえ。皆に試させた事がありますが、使えるのは 私だけでございます」

リンツウは自慢そうに胸を張ったが、私の期待は失望に変わった。

 私は、噴水魔法をドラゴンの炎からの防御に使えないかと考えた。コブリンソープで作った防具である程度 炎を防ぐことはできるが、完全ではない。噴水魔法で身体を濡らすことで、少し足しになると思ったのだが……。

「わかったわ。貴方は、戦いの間 噴水魔法をかけていなさい。ドラゴンの炎から守ってくれるわ」

「!。素晴らしい! 乃菜様。わかりました!」

リンツウは嬉しそうに言った。

 私は、リンツウを無視して、他に使えそうな魔法はないかと、魔導書に眼をやる。しばらく、ページをめくった後で、私は目を見張った。

「巨大化魔法! !! リンツウ、これについて教えて!」

「ああ、これでございますね。これは……」

リンツウは、何か言いかけた後、言葉を切った。何か言いにくそうにしている。

「どうしたの? 早く教えて!」

この魔法で、ブショウと同じ大きさまで巨大化できれば、大きな戦力だ。

「はい。乃菜様もご存知の通り、私達 魔導士型のゴブリンは戦闘型に比べて体躯が小さくてございます」

リンツウは、恥ずかしそうに言った。身体が小さいことに劣等感を持っているのだ。

「そのため、魔導士型ゴブリンの体躯を少しでも大きくするのを目的に開発された魔法でございます」

「どうして、使わないの?」

魔導士型のゴブリンは皆小さいままだ。何か重篤な副作用があるため使用できないのだろうか?

「使っておりまする」

そう言ったリンツウの声は小さかった。

「使っている? 貴方も?」

私の問いにリンツウは黙ってうなずいた。

「キノフジも?」

「はい」

リンツウは続けて、首を縦に振り、そして言葉を続けた。

「私達 魔導士型のゴブリンは、全員 生まれた時に この魔法をかけられます」

「効果は?」

「たぶん少しはあると思うのですが、全員に魔法をかけるため、比べる者がございません。それ故、正確な所はわからないのでございます」

「そう……」

どこが巨大化よ! 私は生暖かくリンツウを見た。役立たずの魔法であることは明白だった。

 他にも、色々と探してみたが、リンツウの言う通り役立たずの魔法だけだった。

 結局、ドラゴン国と立ち向かう武器は、ゴーレムとイフリート、それにゴブリンソープとなった。これで、ブショウに立ち向かう。


 それから一週間後、私達は、ドラゴン国との国境でブショウ軍と対峙した。

 ブショウは後ろに控え、千体ほどの小竜が前線に出ている。戦線は塹壕の中で戦闘準備していたドワーフ鉄砲隊の銃撃から始まった。

 二百体ほどの小竜が、鉄砲隊に向かって突進してくる。小龍は銃弾に傷つきながらも、塹壕の間近まで攻め込み、火を噴き始めた。ドワーフはゴブリンソープの盾を塹壕の蓋にして小竜の攻撃をかわす。

 小龍はその盾を足で掴み、引き剝がそうとする。ドワーフは盾を必死に引っ張り、力比べとなった。この勝負は、小龍の力がやや勝り、盾は少しずつ上に持ち上がっていく。

 その時、ドワーフ鉄砲隊から百メートル離れて、ドワーフ弓隊が塹壕から顔を出し、小龍に向かって斉射を始めた。

 いくつもの矢が小龍に突き刺さる。小龍の数は、火縄銃と弓矢の攻撃で数十体に減ってしまっているが、それでも弓隊に向かって突進する。同時に二百体の新手が鉄砲隊に襲いかかる。

 数十体の小龍に襲われた弓隊は、盾で蓋をして塹壕の中に退避する。

「騎狼隊! 進め!」

キノフジが、弓隊を襲っている小龍に向かって進撃を始めた。

「行け! イフリート!」

私は、鉄砲隊を襲う小龍に対してイフリートを向かわせた。


「騎狼隊! 撃て!」

キノフジの騎狼隊は、弓隊を襲う小龍に対して斉射を始める。騎狼隊の攻撃で小龍は十数体まで数が減ったが、それでも小龍は騎狼隊めがけて突進を開始した。

「退け―!」

それを見て、キノフジは号令をかけ、騎狼隊を率いて逃げる。小龍は執拗に騎狼隊を追いかける。こうして、騎狼隊は林を突き抜ける小径に小龍を誘いこんだ。

 林の中には、カツエが率いる槍隊が潜んでいる。木立の影から、小龍を突き上げる。木の枝があるため小龍は、空に逃げることができない。カツエの攻撃で、先鋒の小龍は全滅した。

 

 イフリートは鉄砲隊を襲っている小竜の所まで飛び、大きな炎を上げる。炎は小竜を焼き、ボタボタと地面に落ちた。

 それを見た他の小竜達は、攻撃を止め、イフリートから距離を取る。そこに、小龍から解放された弓隊の弓矢が襲いかかる。小龍はイフリートを避けながら弓隊に向かって突進する。騎狼隊は、弓隊を襲う小龍に向かって再び進撃した。

 それを見ていたブショウが全軍を率いて、前に出て来る。

「ショウリク親分! あと、お願い!」

ブショウが動き出すのを見て、指揮をショウリクに任せ、キノフジは、私の元に走った。

「イフリート! ブショウを攻撃して!」

私の命令に従い、イフリートは先頭を進むブショウに挑みかかったが、ブショウの固い鱗はイフリートの炎を物ともしなかった。炎が効かない以上、体の小さなイフリートではブショウの相手にならない。

「イフリート! 小龍の方を!」

私はブショウを諦め、イフリートに目標の転換を命じた。イフリートは小龍を追いかける。

「キノフジ! お願い!」

私の元に辿り着いたキノフジに休む間も与えず、下知した。

 私の命令に従い、キノフジは池の畔に待機させていたゴーレムを動かした。ブショウはゴーレムが動くのを見て、攻撃目標をゴーレムに定めたようだ。ブショウはあっという間にゴーレムの前に立ち塞がった。


 小龍と戦っていた鉄砲隊と弓隊は、ブショウが通り過ぎる間、塹壕に蓋をして、身をひそめていたが、一斉に小龍に向かって射撃を始める。

 カゼンが率いる槍隊も林から抜け出てきた。ショウリクが率いる騎狼隊も戦闘に参加する。

「よし、行くぞ!」

ヘイゲンの号令で、それまで待機していたケンタウロス隊が一斉に動き出す。今まで、戦闘に参加できずにジリジリしていたのだ。士気は高い。

 戦闘は、いっきに敵味方入り乱れての乱戦となった。槍隊とケンタウロス隊が地上の敵を、鉄砲隊と弓隊それに騎狼隊は空中を舞う敵を標的にした。


 ブショウはゴーレムに向かって炎を吹きかけるが、岩で出来たゴーレムはびくともしない。ブショウの体当たりもゴーレムは余裕で耐えた。逆にゴーレムがブショウに体当たりすると、ブショウは少し後ろに下がる。

「よし!」

私は思わずガッツポーズを取る。勝てるかもしれない。

 ゴーレムとブショウは、池の畔で、お互いの両手を合わせ、力比べを始めた。力比べでもゴーレムがブショウに僅かだが勝っている。しかし、ブショウの力も強い。そうしている内に、ゴーレムの左腕は、互いの力に耐えられず折れてしまった。

 急に腕が折れたため、力が余って、二体とも近くにあった池に倒れ込む。ブショウが下にゴーレムが上に倒れ、先に上半身を起こしたのはゴーレムだった。ブショウも起き上がろうとしている。

「リンツウ! 今よ!」

リンツウに合図を送る。ゴーレムが池から出るのを待つ余裕はなかった。

 リンツウは池に電気を流した。池は一瞬でブショウとゴーレムを巻き込み石に変わる。池はゴブリンソープで作った人工の池だった。

 ブショウは身体の半分が石に埋まり、残り半分も身体にかかったゴブリンソープが石に変わって動けない。口から炎を吐いてはいるが、あらぬ方向を向いていた。

 ゴーレムは膝をついた格好で、ブショウの横で固まっている。

「ふう。どうにか上手くいったわね」

ブショウを弱らせて池に落とす計画だったが、思わぬハプニングが起こった。偶然にもブショウが池に落ちてくれたのはラッキー以外の何ものでもない。やはり、ゴブリンとの契約で私の運は上がっているんだと思った。私は胸をなでおろした。しかしこの後、少し考えが甘かったことを知る事になる。

 それまで戦闘をしていた小竜が、一斉に戦闘を止めた。そして、戦闘不能になったブショウに襲い掛かる。ここまでは、想定内だった。ゴブリンソープの石で硬く覆われたブショウの身体を小竜達は噛み砕けないだろうと思っていた。 

 しかし、小竜の鋭い牙と強靭な顎はゴブリンソープを砕きだした。


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